夜の博物館
夜の学校以上の肝試しができそうです。
【ノロイアレ! ノロイアレ!! ノロイアレ!!! ノロイアレ!!!!】
おぉぉぉ! 凄い!
『勇者と魔王――秘宝と呪われた遺物』……そう記された案内に従い入った部屋で私は驚愕していた。
【……なぜ争う……なぜ奪う……なぜ殺す……なぜ欺く……なぜ驕る……なぜ怒る……】
これだ! 私はこういうのが見たかったんだ!
興奮する頭蓋骨から青い精気が溢れる。
【止めろ勇者……全ては神の謀略だ……人々の魂を集め喰らう……それこそが神の……】
やはり見世物小屋とは違うな。
眼前に並べられた展示品の質と量に私はとても満足していた。
【私は戦争が好きだ】
この剣なんかピカピカだ……『エクスカリパー』か。
なになに『デイビット将軍が、ダブロス王国から出奔する際に異端者より奪還した伝説の剣。王宮の厚意による特別展示』――王宮の厚意ということは、王宮のものなのかな?
広い空間の右側には、剣に槍、鎧に盾――武具や防具はいうに及ばず指輪や冠など勇者の秘宝が並べられており硝子越しにその煌びやかな姿を私に見せ付ける。
【こっちを見ろ……骸骨】
この槍も鋭い金の穂先に……ん……なぜ桃色の羽飾り?
えっと……『エクセリオン――異次元の白い魔王が落とした星を砕く杖。ミット魔術学院の厚意による特別展示』どう見ても槍なのだが……アンスターでは槍を杖と呼ぶのか?
おぉぉぉ! こっちの見たことのない武器はなんだ! 『邪神殺しの鎖鋸』だって……
勇者達の歴史――輝く栄光と勝利の証は、無知なる馬鹿にアンスター王国の、人類の明るい未来と繁栄という幻を与える。
【無視をするな……骸骨】
ん? なんか呼ばれたような?
強く叩くような精気を感じて背後――部屋の左側を振り返る。
何か呼ばれているような気配は、ちょっと前からしていたのだ。ただ部屋に入ったときからあまりにも周囲が五月蝿くてよく聞こえないというか。
今も意識を向けると……
【きっとくる~きっとくる~】【奪え! 全て! この手で!】【焼肉定食……それが正義】【これで勝ったと思うなよ!】【勇者のクセに強すぎだ!】【コドモヲカエセ、ツマヲカエセ、ナカマヲカエセ】【ナ…………ア……】【ようこそ骸骨の諸君】【愚か者めぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?】【人狼族に栄光あれぇぇぇーーー!】【僕と契約して魔王少女になってよ】【鶏さ~ん! どこですか~】【全ては神の計画……】「館内にも入ってきたぞ! 逃げギオッ!?」【にょろ~ん】
……ほら……とても騒がしいのである。
その原因は、部屋の左側に並ぶ品々――こちらは右側に比べていま一つ見栄えが悪い。
隅の巨大な狼の剥製や虎の毛皮は見世物小屋でも見たことがあるし、他にも『宿木の槍』とか……やはり微妙である。
【やっとこちらを向いたな……骸骨】
なぜ微妙な展示品が原因かというと……
私は、話しかけてきた物に注目する。
【まずは名乗ろう……骸骨】
勇者の秘宝と対峙するように置かれる品々――魔王の呪われた遺物……そのほとんどが暗く深い澱んだ黒い精気を放ち続けているのだ。
己の思いを載せた精気を延々と……この乾き朽ちた巨人の亡骸のように。
【私の名は、愚かな巨人ゼミノール……骸骨、君の名は?】
問いかける顔は、首にはなく……手に抱えられた斬りおとされた頭部は虚ろな眼下から闇を垂らす。
その黒い光は、血の涙にも見えた。
夜の博物館の住人一号、喋るミイラ(巨人)でした。
夜の感染者……夜間勤務の博物館職員達数名。