表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骸骨の夢  作者: 読歩人
第八章 御返し編
131/223

遅い朝食

朝食は一日の元気の源です。


もっとも骸骨兵(スケルトン)死体兵(ゾンビ)には関係ありませんが。

「ワシの家から消えろぉぉぉッ! 雷光呪文(ライトニングボルト)!」


 寝巻き姿の御爺さんが叫びとともに稲妻を纏った杖を振り下ろした……私に向かって。


 なぜこうなった?


 仲間――ジフ様を崇拝する骸骨達と一緒に白い光に包まれながら……私は、頭蓋骨(からだ)を回転させ考える。


 やはり……あれが拙かったか?


 真っ白になる視界の中、先ほどの出来事が頭蓋骨の裏で蘇る。




~~~~~~~~


 骨屋敷の庭で人間十五体を殺した後、私達は壁を越えて隣の屋敷に移動しようとした。

 道は通らなかった。

 何十、何百という人間(てき)にあっという間に取り囲まれてしまうからだ。


 死霊魔術師(ネクロマンサー)様がいれば相打ちでも問題ないのだが……あぁ、ジフ様は何処……


 そんなわけで私は、ジフ様を想いながら全くなんとはなしに精気噴射(オーラジェット)で壁を越えようとした。


 ゴボァァァン!


 いつか聞いた……空飛ぶ車輪が街を破壊したとき聞いたような音が響き。


 色々吹っ飛んだ。


 そう……色々(・・)だ。


 先ずは壁だ。屋敷と屋敷を隔てる壁……木や土くれ、石なんかを固めたものだ。

 私は、それに突撃し吹き飛ばした。


 次は……次も壁だ。隣の屋敷の壁、外と内の境界線。先ほどの壁に比べれば薄いが強度は上だろう。

 私は、それも突撃し吹き飛ばした。


 お次も壁だ。屋敷の内部、部屋と部屋を遮る個人の安らぎを守るもの。厚さも強度も薄いし低い。

 私は、当然突撃し吹き飛ばした。


 そのお次は……という感じで十数枚の壁を貫き頭蓋骨(わたし)は止まった。

 言うまでもなく私が吹き飛ばしたのは、壁だけではない。その間のものも吹き飛ばした。

 机だったり、椅子だったり、棚だったり……そして人間だったり……


 何せ噴出した精気の範囲がすごい。

 穴の大きさは人が十人並べるほどだ。

 吹き飛ばした壁は……いや、屋敷達は穴が開いたというより半壊したと表現すべき状態になっている。


 まぁ、ここまでは特に問題ない。

 問題は……


『き、貴様ぁぁぁ! 強盗かぁぁぁ!』


 私が転がり込んだ部屋にいた御爺さんだ。

 いきなり怒り出すと私が『強盗ではない! 欲しいのはあなたの命だ』と答える前に別の部屋にいってしまったのだ。


 逃げられてしまった。残念……


【ジフ様!】【スゴイ!】【頭蓋骨!】【人間コロス!】【ジフサマ!】


 そして落ち込む私の元に、仲間の骸骨達が追いついてきた丁度その時。


『強盗は死刑だぁぁぁ! 正当防衛せいりぃぃぃつぅぅぅぅぅぅ!!』


 杖を片手に御爺さんが戻ってきた。

 持ち主の身長と同じぐらいの長さの杖は、黒光りしており先端の水晶玉は徐々に光を増していく。


 なんと! 強盗で死刑なのか。アンスターは恐ろしい国だ。

 スチナでは、永久労働ぐらいなのに……貴族だと無罪だっけ?


 せっかく御爺さんが戻ってきたのに、うっかり私がスチナとアンスターの司法制度の差に想いをはせていると……


『ワシの家から消えろぉぉぉッ! 雷光呪文(ライトニングボルト)!』




~~~~~~~~


 冷静に考えると良く分かる……返事より先にさっさと殺しておくべきだった。

 ……それとも部屋に入る前に五回以上コツコツ叩いておいたほうがよかったか?

 どちらにしろこれから(・・・・)殺せ(やれ)ば問題ないか。


 私は、反省を中止して(からだ)の表面で爆ぜる小さな雷越しに赤い人影――杖を構えた老人を見据える。


「自分の身は、自分で守る! アンスター(スピリット)を見たか! 強盗どもぉぉぉッ!」


 いや、強盗じゃないし。


 そう思いながら私は軽く、精気を爆発させた。


「ワシは永久作戦オペレーションエターナル人魚(マーメイド)をヘデェァァァ!??」


 自慢げになんか話していた老魔術師は、胸のど真ん中に突っ込んだ私――精気を纏った頭蓋骨と壁の間に挟まれて血反吐を吐きながらその生命を終えることになった。


【コロス!】【殺す】【ソノイノチイタダク】【緑の豆が怒ってる!】【ジフサマ、ホメテ!】


 うむ!


 同胞達の歓声を受け私は満足しつつ老人の胸からベトリと剥がれ落ちる。


 おや?


 そしてその時あることに気づいた。

 老人の赤から青に変わった精気の大部分がまるで水のように……頭蓋骨(わたし)へ流れ込んできているのだ。


 なんだこれ? とても……


 不思議に思うと同時に私は言い知れぬ満足感を得ていた。死に損ない(アンデッド)になってから久しく感じていなかった感覚を。


 とても美味しい?


 それは食欲が満たされるあの感覚……満腹感だった。

 直接、心に、魂に焼いたばかりの肉と高い酒を突っ込まれたような……あるいはそれ以上の高ぶりが頭蓋骨(わたし)を満たしていた。


【おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!!】


 突然の快楽にどうしていいか分からずただ呻いていると。


『勇者様に祝福あれ! アンスターに繁栄あれ! 人類の守護者に乾杯!』


 どこからか杯をぶつける音と人々の喜び歌う声が骸骨兵(わたし)を誘ってきた。


 ……御祭り……私も混ぜてもらおう……


 存在しない喉に涎を飲み込みながら、溢れる精気(しょくよく)に従い魂喰兵(わたし)は宙に舞った。

大鉈は、すでに魂喰兵(ワイト)……魂を喰らう兵です。


魔術師の魂はさぞ喰いごたえがあったでしょう。


今朝の朝食、もとい感染者……魔術師(従軍経験有)一名、巻き添え一般人数名

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ