祭りの朝
楽しい祭りに出かけましょう。
勇者を讃える祭りじゃないですよ。
あー朝日が眩しい……
これから始まる祭りを祝うように太陽の光が街並みを、屋敷を、そして頭蓋骨を照らしている。
あの男――最恐最悪の敵、骨収集家ホーネットを倒した私達は、やたらと骨が飾られている通路や部屋を抜け屋敷の外に出たのだ。
【ジーフ様!】【ジフ様】【じふさま……】【ジフ様?】
私達――ジフ様を崇拝する骸骨達は、自由を得た……今も思う存分ジフ様を讃えている。
【ジフ様、どこ?】【癒しが欲しい】【ジフ様!!】【人間十五と魔族一確認】
まぁ、少々頭のほうが残念なのだが。
屋敷から出るときも、一番大きな竜の骸骨は、壁や通路を壊しながら出てきた。
……少しは、私のように頭を使って欲しい。
私は、自分が通った跡――外壁に開いた人がらくらく通れる穴を振り返る。
ち、違うのだ! ちゃんと扉から出ようとしたのだ!
しかし、習得したばかりの移動方法――精気噴射の加減は非常に難しく体当たり……頭当たり? いや、頭突きかな?
とにかく精気を纏ってぶつかったら……大穴が開いてしまったのだ。
……うっかり仲間にぶつかったら洒落にならない。
早く骨を手に入れよう。
だが、室内には人骨がなかったし……骨のあるところといえば……墓荒しでもするか……?
フワコロしながら私が今後のことを考えていると……
「ホーネット男爵! おまえに墓荒しと違法品所持の容疑がかかっている! おまえは完全に包囲されている! さっさと屋敷から出てこい!」
突然大音声が叩きつけられた。
なんだ? ま、まだ墓は荒らしてないぞ!?
「隊長、声が大きすぎますよ! 拡声器なんですから大声出さなくても聞こえますよ!」
「五月蝿いぞ! 犬がキャンキャン吠えるな!
こっちゃ徹夜と祭日出勤とカカァの嫌味で頭にきてるんだ!
さっさと骨狂いをとっ捕まえて家族サービスしないといけねぇんだ!!」
朝の澄んだ空気が台無しになる大声は、屋敷を囲む塀の中――庭に並んだ人間達と他一体から発せられていた。
不法侵入の人間か?
私は、素早く人間の状況を確認する。
人間十五体、全員青色に染めた皮鎧、武器は片手剣を鞘に入れたまま……隊長らしい年配の男は片手に筒のような物を持って他一体と話している。
「隊長、ホーネット男爵はまだ容疑者ですよ……それに他の事件……幽霊を呼ぶ鶏とか街を疾走する魔婆とか解決しないと……」
「だから、さっさと終わらすんだ!
それにホーネット男爵は黒だ! 見ろ! あの骸骨の群! どう考えても違法な魔術だ!」
「この前、研修を受けたじゃないですか。死霊魔術の骸骨兵ですよ」
骸骨の群……確かにジフ様の崇拝者は百とはいかないが、それなりの数――人間達の倍以上いる。
だが……それが分かっていながら、なぜこの人間達は暢気にお喋りをしているのだろう?
まぁ、いいか『殺せ!』と船長ガデム様も言ってるし……
「コロネマシーンでも、スカルトンでもどっちでもいいんだ! さっさとヤガッ!?」
【殺す!】【コロス!】【殺ず!】【ころっす!】【コロ、す!】
とか考えている間に仲間達が既に動いていた。
身を低く屈め、人間達との僅かな距離を駆け抜け終わっていたのだ。
大声で話していた男は、花嫁衣裳を赤く染めたメグに喉を貫かれ。
「な! ガァッ!」「隊長!」「エッ!?」「ゥゲ!」
剣を構えもせずに突っ立てた人間達も次々に顔面、喉など剥き出しの急所を骨の手刀に貫かれていく。
「うぉぉぉ!?」
咄嗟に避けたのか、運良くよろけたのか一人だけ生き残ったが……直ぐに白い影が迫る。
「ガッチ! ガッチ!」【人間! 喰う!】
「まっ待っ……!?」
グジュリィビッチ!
巨大な竜骨の顎が上半身を喰いちぎると肉が弾ける愉快な音を最後に沈黙した。
……これで生きている人間は、いないな。
念のため眼窩に力を込めて人間達の精気が青色になっているか確かめる。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……」
他一名――座り込んで『あ、あ、あ』言っている犬の獣人を除いて全員が死者になっていた。
続けて私は軽く精気を噴出して空に向かって飛び上がる。
高い位置から見下ろすと……いや、見下ろしても屋敷の外は、前も左右も大きな建物と人間達で溢れており他に何も確認することができない。
道を埋め尽くす数え切れない人間達は、まだ私たちに注意を向けていないが、不意討ちで倒しきれる数ではないことだけは分かった。
【人間は、圧倒的多数! こちらに気づいてはいない】
私が伝える敵戦力の報告に……
【了解】【偉い奴、殺す】【コロス】【ジフ様、褒めて!】
仲間達が動き出す。船長ガデム様の教えのままに。
「誰か! 早く教会に皆を! 隊長達の治療を!」
私達が惨劇の庭から離れると唯一の生者である獣人が水晶玉に何か叫び始めた。
死んだ人間に治療してどうする?
そんなことを思いながら私は偉そうな人間の捜索を開始した。
そして……十五人の死者は、目覚めのときをしばし待つ……
血祭りでした。
今朝の感染者:祭日出勤を命ぜられた可哀想な警吏(お巡りさん)十五名
生き残ったのは、名誉人間の獣人さんです。