骨の舞う夜明け
愛には報いが必要か否か?
【ジフ様!】
【ジフさま!】【ジフサマ!】【ジフ様!】【ジフざま!】【ジフ様!】
暗い部屋の中……私の放つ精気に続いて、いくつもの青い光の輪が広がる。
【もっと! ジフ様!!】
【ジッフさま!!】【ジフサマ!!】【ジウ様!!】【ジフざぁまっ!!】【ジフ様!!】
うむ! 実に素晴らしい!
先に比べ、より気合の入った激しい輝きに私は満足する。
【ジフさま!!】【ジフ様!!】【ジウ様!!】【ジフざぁまぁぁ!!】【ズブ様!!】
私が頭蓋骨だけの体で頷こうとしている間に再びいくつもの光の輪ができた。
その源――部屋に並んでいた無数の骨達が休むことなくジフ様を讃え続けているためだ。
彼ら――ジフ様を讃える骸骨達は、私があの恐怖体験を忘れようと後ろ向きに努力している最中、突然叫びだしたのだ。
……『ジフ様』……
その叫びは、花嫁衣裳を着た骸骨――メグから始まり、ジョー、ベス、エイミーと連鎖……最終的に部屋中の骨たちが合唱することになった。
頭蓋骨だけ飾られていた牛の骨も叫んでいる……もしかしたら牛頭鬼かも知れない。
牛頭鬼、ザペン王国では食料とされているらしいが……魔族を食べるなんてザペンの人間は何を考えているんだか。他にも魚を生のままで食べると聞いたことがあるし……
【ジフさま!!!】【ジフ様!!!】【ジウ様!!!】【ジフざぁまぁぁ!!!】【ズブ様!!!】
……まあいい。西洋の神秘、ザペンに突っ込みを入れるより新たなる仲間達との歓談を大事にしよう。
明日になれば再びあの悪夢が襲い掛かってくるのだから少しでも心の癒しと被害者同士の絆を……
ん?
そこで私は素晴らしい考えを思いついた。
彼らに骨を分けてもらえばいいのだ!
そうすれば、あの男――自称骨収集家にあんなことやそんなことをされる心配はない。
とっとと逃げればいいのだ!
【へい! 同胞よ! 骨を少し分けてほしい!】
骨は繋げ……古来より伝わる先人の言葉に感謝しつつ周囲でジフ様を讃える骨達に早速御願いした。
【ジッフさま!!】【ジフサマサマ!!】【ジウさ~ま!!】【ジフざぁま!!】【ジフ様!!】
彼らから返事はあった……ジフ様への祈りだったが。
あれ?
【すみません? ちょっとだけ骨を少し分けてほしいんですが~?】
【ジフ様!!】【ジフさま!!】【ジフさま!!】【ジフ様!!】【ジフ様!!】
二度目は、丁寧に御願いしてみたが結果は同じ。
【なぜに?】
訳が分からない私の疑問に応えるのは……
【ジフさま!!!】【ジフ様!!!】【ジウ様!!!】【ジフざぁまぁぁ!!!】【ズブ様!!!】
熱狂的な同胞達の叫びだけだった。
~~~~~~~~~
さて……どうしたものか?
【ジッフさま!!】【ジフサマサマ!!】【ジウさ~ま!!】【ジフざぁま!!】【ジフ様!!】
同胞の叫びを聞きながら私は悩んでいた。
悩んでいるのは、私の願いが無視される理由……ではない。
それについては分かったのだ。
あの後、しばらくの間、何度か同じことを繰り返した結果……私の意思を込めた精気が彼らの放つ精気によって掻き消されていることに気づいた。
最高潮に盛り上がった祭りの中で人を呼んでも無駄なのと一緒だ。
誰も気がつくはずがない。
少し残念な同胞に助力を求めるのを諦めた私は、新たなる逃亡計画を検討しているのだ。
早くしないと今にでも扉が開いてあの男がやってくるかもしれない……
バタン!
私が不用意に最悪の状況を想像した時、その想像をなぞるように扉が開いた。
「おはよう!」
そして……そうそう、こんな感じで無駄に明るく現れ挨拶をしながらあの男が全裸で部屋の中に……
……大鉈は、驚いている勇者以上の天敵を見つめる。
……骨収集家は、立ち上がり動くコレクション達を見つめる。
……魂喰兵達は、無防備な人間を見つめる。
一瞬の空白……
【ギャァァァァァァァァァーーーーーー!!!】
私は、悲鳴とともに精気を噴出して宙に舞い。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」
あの男は、歓声を上げながら両手を広げ部屋の中に突進し。
【コロォォォォォォォォォーーースゥッ!!!】
同胞達は、殺意を漲らせ全骨を刃と掲げ……
グチュァ!
腐った豆を叩き潰したような音がした。
え?
私は自らが宙に浮いていることを驚くより、不快な音とその原因に存在しない眼を広げた。
なぜなら……
「メグゥゥ、ナンデェェェ!?」
あの男が血を溢れさせながら……
【殺す!】【コロス!】【ころす!】【ごろす!】【殺す!】
無数の骨に貫かれ……
「ナァンデェェ!?」
壁に縫いとめられていた。
【ゴロズ】【殺す!】【人間!】【殺せ!】【殺せ!】
同胞は、問いに更なる骨で応え。
「ウゴケェル……」
何かを求めるように伸ばした男の手が落ちた。
……それがあの勇者以上の傷を私に負わせた最恐にして最悪の敵――骨収集家ホーネットのまことにあっけない最期だった。
だがその死に顔は、恐怖による驚きではなく……歓喜の驚きを刻んでいた。
我が骨生で奴以上の強敵が現れることはもう二度とないことだろう……というか頼むから出るな。
私は誰もいない虚空に向かって格好良く語る。
傍から見たら青く輝く頭蓋骨が宙に浮いているだけだが。
【ジフ様】【人間】【殺す】【褒める】【ジフ様】【ゴロズ】
まぁ、気にする必要は無い。
【殺す!】【ジフ様、褒めて】【御土産】【人間、殺す】
それを見れる同胞達は一体また一体と……
【ジフ様! 万歳!】【人間、どこ!】【癒し!】【ニワちゃん!】【ジフ様!】
扉から外に歩みを進めているのだから。
どんな報いでも喜んで受け入れる……一つの愛の極北かもしれません。
感動がゼロなのは仕様です。
夜明けの感染者……骨収集家