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骸骨の夢  作者: 読歩人
第七章 地獄編
124/223

不思議な御客さん

まさかの客です。


もちろんオーダーは……

 ダズズズズズッ!!!!!


「ゴゲゲゲゲッ!?」


 へ?


 魔婆(ハグ)シスムの鋭い爪が貫いたのは……私ではなくニワちゃんだった。


 ……話の流れ的にてっきり私が狙いだと思ったのだが? てっ! ニワちゃんは!?


「コ、ケケケ」【ジ、ジフ様】


 まだ辛うじて逝きてる! 早く治療を! 衛生兵! 衛生兵! 医療魔術師はいないのか!! この際、神官でもいいぞ!


「レミ。一旦休憩するよ。(これ)夕食にしておくれ」


 しかし、私が衛生兵達を探している間に、シスムは扉に向かって歩き始めた。

 ……ニワちゃんを串刺しにしたままで。


 そして聞き間違いだと思うが……『夕食』とか言ってたような?


【御主人様……鶏ちゃん(それ)、本気で食べるんですか?】


 幽霊少女が言いにくそうに聞くが、魔女は扉のノブに手を伸ばしながら平然と応える。


「そうだよ」


 き、聞き間違えじゃなかった! この鬼婆、本気でニワちゃんを喰う気だ!?


死に損ない(アンデッド)ですよ? (かび)も憑いてますし止めといたほうがいいと思うですが……】


 レミ嬢! 頑張れ! 説得してくれ!


「ついさっきなったばかりだから新鮮だよ。よく焼けば大丈夫……毟った羽根や骨は一つ残さず燃やすようにね」


 焼く! 燃やす!! なんて残酷な!!! しかも骨さえ残さないつもりかぁぁぁ!?


【ま、待て! 止めろぉぉぉーーー!!】


 私はその蛮行を翻意させようと叫ぶ。

 しかし、老婆は振り向くことなく。


 パタン……


 無常にも扉は閉じられた。


 もう誰も部屋にはいない。


【ニワ、ちゃん】


 地下特有の静寂の中、私の放つ悲しみの青だけが周囲を照らす。




~~~~~~~~~


【ニワちゃん……】


 ジフ様とは(はな)(ばな)れになり、敵国――たぶんアンスター――で虜囚の骨。

 やっと出会えた心の友は一足先に食べられた。

 まさにお先真っ暗である。

 こんな時は、頭から毛布に包まって眠るのが一番なのだが……毛布もないし眠たくもならない。


 よし! ジフ様に御祈りをしよう!

 

【偉大なるジフ様! どうかニワちゃんに救いを! それと私に癒しを! 十匹でいいんです! ……できれば二十匹!!】


「何を騒いでるんだい骸骨」


 おわっ!


 私が真摯に祈っているといつの間にか眼前に老婆――シスムが立っていた。


【突然現れるとは……流石、魔婆(ハグ)!】


「……あたしゃ人間だって言ったはずだがね? 聞こえてなかったのなら耳の穴を増やしいてやろうか?」


【ひぃぃぃいっ! に、人間です!】


 私は、眉間に突きつけられた鋭い爪にうろたえることなく冷静に応えた。


 ……しかし、この魔婆(ハグ)、もしかして本当に自分が人間だと思っているのか?


「なんだい、何を見てるんだい?」


 いえ、なんでも。眼球のない私の視線に気づくとはやはり……


「さっきから何か失礼なことを考えているようだね?」


 いえ、なんでも。読心術か? やはり……止めておこう。


 再度突きつけられた爪に私は思考を停止させる。


「……」


【……】


 無言でにらみ合うことしばし……


「まあ、いいさ」


 先に視線を逸らしたのは老婆だった。

 実際のところ……頭蓋骨(わたし)の方は逸らせなかった――自力で動けなかっただけなのだが。


 それでも勝ちは勝ち! この勝利は魔族にとっては小さな一歩でも私にとっては大きな一歩である!


「あんたに会いたい……というか見たいって客がきたんだよ」


 私が勝利の余韻を噛締めていると老婆が誰かを部屋に招き入れる。


 客?


 意識を視界の隅――扉へ向けると外套に包まれた人物が入ってきた。


 ふむ?


 私は冷静にその客を観察する……といっても顔以外、外套――緑と灰のまだら模様だ――のせいで細身だろうということ以外分からない。

 後は……人間じゃないということぐらいか。

 その整いすぎた顔の両側には、葉っぱのように尖った耳があったのだ。


 人間じゃないなら殺す必要もないのだが……何者だ? 魔族か?


 私が不思議な客の正体をあれこれ妄想しているとその客が口を開いた。


「シスムさん、この骸骨が例の?」


「あぁ、そうだよ。商会(・・)で買ったから本物だろうね」


「本物の聖女殺し(セイントキラー)……素晴らしい!」 


 なんか尖り耳が天井を仰いでる。


 素晴らしいとは私のことか?


「それでハーフェル導師、こんな夜にしかも人の夕食を邪魔してまで、なんでこの骸骨を見たがったんだい?」


 その一言に尖り耳――ハーフェルというらしい――が居住まいを正す。


「そういえば話してませんでしたね」


 ゴホン!


 ハーフェルは、軽い咳をしてから真っ直ぐにシスムを見つめて続けた。


「この聖女殺し(セイントキラー)を貸していただきたいのです」


「はぁあ!?」


 老婆がポカンと口を開ける傍らで私も叫ぶ。


【次は貸し出し(レンタル)か!】


 ……頭蓋骨の片隅で『日給いくらだろ?』と考えながら。

大鉈魂喰風味……ではなく聖女殺しのほうでした。


大蒜が効いていておいしいと思うのですが……残念です。

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