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骸骨の夢  作者: 読歩人
第七章 地獄編
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レシピ

錬金術の秘法や魔術の奥儀……その英知が記された書物です。


なぜか民家の箪笥や本棚にあります。

【や、やめろぉぉぉォォォォォォーーー!! ろぉうばぁぁぁーーー!!】


 しかし、私の叫びは虚しく……


魔婆(ハグ)の次は老婆かい?

 あたしゃシスムって名前があるんだ、そう呼びな……後、やめないよ」


 ……響かなかったし、返事もあったが……意味は無かった。

 魔婆(ハグ)――シスムは、洗い続ける。


 私をあの勇者(・・・・)のようにすると言った後、老婆は屋敷――はっきりと見えなかったが立派そうだ――の外に出てからずっと同じことを続けている。


 そう! ゴシゴシ、ジャブジャブと頭蓋骨(わたし)を洗い続けているのだっ!!


「レミ! 溶解液をおくれ!」


【は~い。どうぞ!】


 元気に応えながらシスムに赤い瓶を渡すのは、幽霊少女のレミ嬢である。


 ……できれば、見るからに危険そうな瓶を渡すことを、少しでいいから躊躇して欲しい。


「この汚れはしつこいね……ぜんぜん取れないよ」


 真っ赤な液体を私にかけながらシスムが呟いた。


【汚れじゃない! 血塗れ(ブラッド)! 血塗れ(ブラッド)!】


 そう訴える間にも船長ガデム様に『箔がつく』と教えられた血の痕が洗われる。


【顎骨すら無くした私からこれ以上奪うのかぁぁぁぁぁぁ!!】


「五月蝿いよっ! 先ずは綺麗に汚れを落とさないと薬が染み込まないんだからね」


 明るい赤が全てを塗りつぶす。




 ……酷い……




~~~~~~~~~


「まったく! 骨まで血が染み込んでるなんて……業が深そうだと感じてはいたけれど。

 あんた、一体何人の人間を殺したんだい?」


 机の上、器に置かれた私にシスムが話しかけてくる。


 しかし、あの勇者(・・・・)達に焼かれた痕も含めて全ての闘いの証を失った私は、精気を返す気力も無い。


 あんなに止めてっていったのに……鬼だ……この婆さんは鬼だ


「まあいいさ……要は骨が剥きだしになればいいんだからね。

 次は、魔術の触媒を……なんだったけね」


 老婆はしばし宙を睨んだ後、私の視界から消えた。


 どうしたのだろう?


 そう思ったのも束の間……直ぐに戻ってきた。

 手には紙を束ねた書物――本を持っている。


「レシピを書いといてよかったよ……最初は不死黴(ブジガ)か……あったかね」


 そう言うと本を私の傍らに置いて再び視界から消えていく。


 不死黴(ブジガ)ってなんだ? すごく不安になる名前だが……


【御主人様いますか?】


【!!】


 私が怯えているとレミ嬢がいきなり死角から現れた。


 …………喋れなくてよかった。

 危うく悲鳴を上げるところだった。


【いないようですね……昼食はこれでいいのか確認したいのに~】


 そういいながらレミ嬢は、何かを私の傍らに置いて天井に消えていく。

 レミ嬢の足が完全に消えたとき、扉の開く音がした。


「部屋の壁にあんなに拡がってるなんてね……流石、不死黴(ブジガ)


 そんな独り言をいいながら老婆が近づいてくる。


「さて、これをかけて……」


 頭上から何かが降りかけられる。


 こぼれたのが視界に入ってくるが……黒い粉?


「……次は塩か……台所だね」


 私の傍らに置かれた何か――本を手に取りシスムが消えて……直ぐに戻ってくる。

 今度は白い粉――塩をかけられた。


「この後は……『大蒜(にんにく)昇天茸(ヘブントリュフ)と一緒に鍋で煮込む』と……さっき台所にあったね」


 また老婆が消えていく。

 抱えられた本の表紙には、『花嫁修業オススメ料理百選』と書かれていた。


【忘れ物です~】


 再度、レミ嬢が現れる。

 机の上から何かを取ってまたどっかに行ってしまう。

 一瞬、視界に入った何か……それは大きな髑髏が描かれた本だった。




~~~~~~~~~


 その日、シスムの食卓には茸のスープとピチピチ跳ねる豚肉が並んだ。




 ……スープはおいしかったらしい。ちなみに豚肉は焼却処分されたそうだ。




 私は鍋の底に転がりながら思う。




 不死黴(ブジガ)って一体なんだったんだろう?

もちろん料理のレシピも一緒に並んでます。

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