世界を救う英雄
自らを顧みず世界の平和のためにその身を捧げ戦う者。
勇者とも言いますね。
【ノ、呪いですかー。
あまりにも当たり前すぎて思いつきませんでした】
「当たり前のことが意外な盲点になることは、よくあるもんさ」
仰け反る幽霊少女――レミ嬢に老婆が私を――私の頭蓋骨を揺らしながら訳知り顔で教える。
骸骨を呪いに使うことは当たり前のことなのか。
故郷の森で見つけたときは、埋めて弔っていたのだが……売れば儲かったか?
【はっ! ……ということは御主人様やっぱり呪殺とかできるんですね!?
時々、不気味な御客が尋ねてきてるから怪しいとは思ってたんです】
「人聞きの悪いこと言うんじゃないよっ!?」
呪殺……呪い殺すこと……『人聞きの悪い』じゃなくて『人殺し』である。
叫ぶ老婆を眺めながら街で暮らしていたときにあった事件を思い出す。
先輩を呪い殺そうとした女性が逮捕されたのだ。
……理由は、交際を迫る先輩が怖かったかららしい。
女性のいる牢屋に向かう先輩を見たおやっさんが『どっちが被害者なんだか』とぼやいていた。
「あたしゃ呪殺なんて滅多にしてないからね!
不気味な客は、ミット魔術学院の使いだよ。
あんたの父親からの報告について直接会って相談してたのさ……内容が内容だけに遠話で済ますわけにもいかないからね」
【パパの上司さんでしたか。
それならそうと言ってくれれば、娘としてきちんと挨拶したのに……】
レミ嬢は、礼儀正しい娘さんだな。
親御さんの教育がよかったのだろう。
【『パパをスチナに送ってくれてありがとうございます。お陰で自由の身になれました。今度、お礼をさせてください』って!】
……素晴らしい。
少し意味が分からないところもあるが、笑顔がいい!
死体獣達の踊りと同じぐらいいい!
「……その挨拶は止めときな……別の意味に取られるよ」
なのになぜか老婆はそんなことを言う。
【別の意味って?】
私も知りたいぞ。
「とにかく止めときな。
……それよりそろそろ始めようかね」
何を?
「あんたの下処理さ」
【私の下処理?】【御主人様、呪いに下処理なんて必要なんですか?】
私とレミ嬢が似ているが違う質問をした。
「呪いに限らず、どんな魔術でも準備が重要なのさ。
気合と根性だけで魔術が使えたら学院も教師もいらなくなるよ」
【そうなんですか……あれ? でもパパから気合だけで魔術を使う人がいるって聞いた覚えが……】
【私も見た覚えが……】
「そりゃあ……魔術や薬を使わず自然に死に損ないになった天然だね。
邪神の落とし子って言われるやばい奴だよ」
再び同調した私達に答えながら老婆は頭蓋骨の内側を撫でたり叩いたりする。
あっ! ちょっ!
【ら、らめぇぇぇぇ! やめてぇぇぇぇぇぇ!?】
「変な声を出すんじゃないよ」
いたっ! 理不尽にも殴られた!
【御主人様、呪いってどうかけるんです?】
私が憤っているとレミ嬢が女の子らしい質問する。
そう! 村でも街でも女の子はなぜか呪いが好きだった。
まぁ、彼女達は『お呪い』と呼んでいたが……違いは未だ分からない。
「この骸骨を使って魂喰兵を作るのさ」
【魂喰兵? なんですそれ?】
さぁ? 私も知らない。
「倒した相手を自分と同じにしてしまう死に損ないさ。
百年ぐらい前に、さる美貌の天才魔術師が作ったもんでね。
そのときは、たった一体で街が滅びかけたよ」
一体で街が!? なんと恐ろしい!
【それのどこが呪いなんですかぁ?】
「魂喰兵の能力は、生者死者問わずなんだよ。
精気……魂を喰うのさ。
骸骨兵も死体兵も幽霊さえもね」
魂を喰う? それって……
【死に損ないに共食いさせるですかっ!?】
【ド外道ぅぅぅぅぅぅ!!】
レミ嬢の言葉に私は自分が何にされるか理解して叫ぶ。
しかし老婆は、全く気にしない。
「元々は、吸血鬼の研究中にできた失敗作なんだけどね。
始まりの一体を倒せば全部が灰になるし……
作り方を覚えててよかったよ」
そして私を正面から覗き込み言う。
「聖女殺しが世界を救う英雄だ。喜ぶんだね」
【金色勇者と一緒で喜べるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!?】
あれ? なにか他に突っ込むことがあるような?
『ものは言いよう』実情がどうあれ、言い方次第という意味ですね。