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骸骨の夢  作者: 読歩人
第六章 人類反撃編
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逃亡中

今回は回り込まれません。


脇役に回り込むという選択肢は無いのです。



 私達はあの(・・)勇者から逃げていた。


 私一人だったら同胞(なかま)の仇に背骨を見せたりはしない……全てはジフ様のためなのだ。


「早く! 早く! こっちに転移用の部屋があるはずよ! いそいで~ん!」


 私達――私とデニム様そして四人の後輩死霊魔術師(ネクロマンサー)は、アーネスト・エンド様の導きに従い薄明かりの中、崩れかけた通路を走る。


「チュウチュウ!」「ピョン!」「ニャー!」


 自分達を忘れるなと言うように小動物達の鳴き声が聞こえる。


 おっと! もちろん忘れていないぞ。


 私は頭蓋骨を真後ろに回転させて可愛い同胞(なかま)――死体獣踊子隊ゾンビビーストダンサーズに頷く。

 流石に走りながらでは演奏できないのだろう。今は、楽器を背負い一生懸命に床を駆けついてきている。


 ガッ!


 あれ?


 足に衝撃が奔り……体が宙に浮いた。


【ゴギャ!】


 次いで後頭部に激痛を感じる……どうやらこけたようだ。


 背後を向きながら走るのは危険だからやめよう。


 私は、頭蓋骨を正面に戻しながら立ち上がる。片手しか使えないので少々手間取る。


「ちょっと! 大鉈ちゃん! 大丈夫!?」


 倒れた私に心配そうにアーネスト・エンド様が聞いてくる。

 だがアーネスト・エンド様は、私を心配しているわけではない。私が右手を巻きつけて運んでいる棺――ジフ様を心配されているのだ。


「なっく、なった、なっく、なった、なっく、なった」


 独り言を延々と呟き続けるジフ様を。


 そうなのだ……死霊王様が倒されて死霊軍団がなくなったと知られてからジフ様はずっとこの調子なのだ。

 あの(・・)勇者がくると言われても、最期の墓所から移動すると促されても全く反応してくださらない。

 当然、この状態のジフ様を一人置いてどこかにいくなんてできはしない。


 しかし……完全無視は辛い! いわゆる放置状態!?


 叱られるのと違い完全無視(これ)はこれで骨にくる。


 昔、先輩が『放置状態も愛の故の行為なんだ。こっちを焦らしているのさ』と言っていたが……私には理解できなさそうだ。

 恋文の返事がこなくても、逢引の待合わせで丸一日放置されても余裕の表情で話していた先輩は凄いと今更ながら感心する。


「大鉈ちゃん! こっちよ! 早く入って~ん!」


骸骨兵(スケルトン)、早くジーン様を連れてくるんだ」


 私が生前のことに思いをはせている間に転移陣がある部屋についたようだ。通路の先に扉がありその少し手前でアーネスト・エンド様とデニム様が私を呼んでいる。

 私はジフ様を右手で抱えなおすと再び走り始めた。




~~~~~~~~~


「さっさと転移しようぜ! さっきから揺れがぜんぜん治まらねぇ!」


「ちょっと待ってね~ん。アライちゃん、少し地脈を見るから」


 部屋に入ると金ピカ男――アライ様が天井や壁の罅割れを見ながらアーネスト・エンド様を急かす。

 その言葉にアーネスト・エンド様も素早く膝をつき、床に描かれた黒い紋様に指を這わせる。


「アーネスト様、私は先に術を準備しておきます」


 デニム様も足早に紋様の中心まで進みその手に青い光を灯した。


「イーデスさん、あなたも魔術師でしょう。手伝ったら如何です?」


「エタリキ! あんた! あたしが転移術使えないの知ってるじゃない!」


 長身の魔術師と桃色道化師の作業を見ているとエタリキ様とイーデス様の会話が聞こえてくる。


 どうやら後輩死霊魔術師(ネクロマンサー)様達は、現在の状況では役に立たないようだ……まあ、それは私も同じだが。


 役に立てないことに少しだけ落ち込んでいるとアーネスト様が立ち上がる。


「駄目ね」


 その口から放たれた言葉は否定の言葉だった。


 『駄目ね』――その言葉は鋭い刃となって陶器のように繊細な私の胸を貫く。


 確かに役に立っていませんが……いきなり駄目とは……


「駄目とはどういうことですか?」


 役立たず呼ばわりに傷つく私の隣でエタリキ様が私の何が駄目なのか確認をしている。


 エタリキ様! 追い討ちですか!? 死者に鞭打つような所業ですよ!?


「地脈が駄目ってことよ~ん。乱れていてとても転移できる状態じゃないわ」


 駄目なのは地脈? 私じゃない?


 アーネスト・エンド様の返事に頭蓋骨を傾げる。


「地脈が乱れるとはどういうことですか?」


「そのままの意味よ~ん。地脈が……大地を巡る精気の流れが大きな力で掻き乱されているの。この状態で転移するとどこに転移するか分からないわ~ん」


「では、どうされます?」


「地脈が安定すれば転移できるわ~ん……どっちにしろ歩いて(・・・)絶望の岬(ここ)”を脱出する時間はないみたいだしね~ん」


 役立たずではないことに安堵していた私は、アーネスト・エンド様の言葉と視線を追って天井を見る。


 そこには先ほどより大きな罅割れが……亀裂が広がっていた。改めて周囲を見回すと壁の罅割れも数を増している。


 ジフ様が要塞を潰したときもこんな感じだったな。懐かしいな……てっ! 潰れる!?


「デニムちゃん、わたくしが陣が壊れないよう維持するから地脈が安定したらすぐに転移してちょうだいね~ん」


「了解致しました。アーネスト様」


「御願いよ~ん。あなた達も陣の中に入っといてね~ん」


 青く光る両手を床につけながら道化師が告げた言葉に従い、四人の後輩と死体獣(ゾンビビースト)達はデニム様がいる紋様の中心に移動する。


 私も急いでジフ様を抱えて転移陣の中に入ろうとした。



 カッカッ……カッカッ……カッカッ……



 しかし、そのとき聞こえてきた。



 カッカッカッ……カッカッカッ……カッカッカッ……



 天井の岩が落ちる音に混じって聞こえてきた。



 カッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッ……



 私は震えながら振り返る。走ることで随分と引き離したはずの足音を聞きながら。



 カッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッ!



 扉の向こう側、通路の少し先で薄明かりの中、立ち止まった人影を見る。


 一人は男、軽装の戦士、金色の光を纏い先頭にて刃を構える。


 一人は男、鎧の戦士、右手に鉄鎚、左手に女を抱える。


 一人は女、紫の魔術師、男に抱えられながらも赤と青の光が杖に宿る。


 骸骨と勇者(わたしたち)は再び向かい合う。

追いつかれるだけです。


メタルス○イムとか追いつけたら楽なんですけどね。

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