死霊騎士
ホウレンソウは大事です。
「何だ! 何が起きている!?」
私と同じように青く燃える森を見上げ、ジフ様が震えながら誰に対してか問いかける。
しかし私や隣にいる顎割れ死体騎士もその問いに答えることができ・・・・・・
「回収部隊ノ精気デハ?」
冷静に顎割れ死体騎士が答える。
・・・・・・確かに火ではなく陰の精気である。
森の木々が燃えているにしては煙もない。目に見える範囲全てを揺れる青い光が包み込んでいるため、燃えているように見えるのだ。
森が燃えていたら死体を手に入れられなくなるところだった。
良かったですね! ジフ様。
「馬鹿者! なにが良かったですねだ! デニムの奴は、こんな滅茶苦茶な精気ではない。これではまるで首席様の・・・」
ジフ様の御言葉を遮るように静かなそれでいて力強い声が響く。
「流石に死霊魔術師首席殿には及ばんよ」
周囲を照らす青い光がジフ様の正面に集まっていく。それはゆっくりと騎馬とそれに跨る騎士を描き出す。いや逆なのだ。騎士から溢れ出ていた精気が鎮まっているのだ。
青い光が完全に消えると、そこには乾いた血の色をした骸骨の騎士と騎馬が私達を見下ろしていた。
「私は、死霊王直属の死霊騎士ユウ・バジーナ。貴殿は、死霊魔術師4649席ジフ・ジーン殿か?」
死霊騎士ユウがジフ様に告げる。
「直属! 死霊騎士!! なぜ最前線でもないこんなところにそんな方が!?」
「・・・・・・もう一度問う。貴殿は、ジフ・ジーン殿か?」
「あっ? は、はい!ジフ・ジーンは、私です」
ジフ様は、なぜか慌てたように喋られる。
そしてそのまま続けて死霊騎士に質問を投げかけた。
「そ、それでなぜ直属死霊騎士様が、このような辺境の拠点に?」
「なぜか? ふむ? ・・・・・・簡潔に言うと数日前から”骸骨洞窟”の定時連絡が無いと死霊魔術師首席殿から相談を受けたのだ」
「定時連絡? あっーーーーーー!?」
大声を上げるジフ様をほって死霊騎士の話は続く。
「詳しく聞くと定時連絡どころか、水晶玉による遠話にも反応がないとのことなので、噂に聞く勇者の襲撃を受けたのではという話になり私自ら軍団を率いてきたのだ。どうやら違ったようだな」
「ぐ、軍団?」
「うむ。・・・前進!」
死霊騎士の言葉(号令?)に従い森の木々の間から無数の死体兵や骸骨兵が現れる。むろん死体兵や骸骨兵などの雑兵だけではなく骸骨馬に跨る骸骨騎士や木の枝に佇む幽霊、怨霊が何体も確認できた。木々に隠れて見えないのも含めるとどれほどの数になるのか。
「土砂崩れなどの自然災害で”骸骨洞窟”が埋まっている可能性もあったのでそれなりに揃えてきた。それで何があったのだ?」
「へ?」
「だから連絡不能の理由だ」
「そ、それは」
ジフ様は、酷く狼狽され頭蓋骨を小刻みに震わせる。三回ほど顎骨を鳴らすと喋りだす。
「数日前。聖一教神官を含む大規模な人間の襲撃を受け、なんとか全滅させたのですが・・・・・・”骸骨洞窟”の防衛戦力を全て喪失してしまいました。ここ数日は、防衛戦力の回復を最優先として私自ら先頭に立ち、周辺より材料を集めておりました」
「聖一教の神官を撃退されたのか! それに自ら材料の確保を・・・・・・すばらしい! 流石は、死霊魔術師殿ですな」
ジフ様の御言葉に死霊騎士は、感心したような声で答えた。
しかし、死霊騎士は続ける。
「防衛の成功。戦力の回復。どちらも本当にすばらしい。ただ拠点が襲撃を受けた場合は、最優先で報告することになっているはず。それについては?」
ジフ様は、完全に沈黙した。
ジフ様の出世はどこに?