表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骸骨の夢  作者: 読歩人
第六章 人類反撃編
108/223

危機の後には機会がある

ピンチの後にはチャンスがあります。


『誰か他に生きている者はいるか!? 返事をしてくれ! 死霊王は倒した!!』


 暑苦しい声が延々と私の背骨を叩く。


 五月蝿い・・・・・・これからあの(・・)勇者を迎え撃とうというのに集中が乱れることこの上ない!


 私はあの(・・)勇者が階段から上がってこないか警戒しつつ背後を振り返る。

 

「「「「「「・・・・・・・」」」」」」


 床に目玉と顎骨が散乱していた。私は床から顎骨を素早く拾い上げ差し出す。


【ジフ様、顎です】


「・・・・・・・」


 反応が無い・・・・・・ただのジフ様のようだ。眼窩に指を突っ込む・・・・・・反応が無い。


 プシューーー!


 左手で掴んだ顎骨が煙を上げはじめた。とりあえずジフ様の頭蓋骨に嵌めておく。


『誰か応えてくれ! おやっさん! アライ! カリン将軍! 全員無事か!?』


 再び熱血音声が水晶玉から流れる。今度は若干、焦りと不安が滲んでいた。


 その問いかけに水晶玉を持つ者――エタリキ様が動いた。両手で水晶玉を包み込みジフ様に囁く。


「どうされます? 偉大なるジフ様」


「へ? なんだ?」


「これからどうされるか御聞きしたんです。アンスターの勇者を誘き出しますか? それとも返事をせず一旦遠話を切りますか?」


 ジフ様の弛緩した返事にエタリキ様の硬い声で再び囁く・・・・・・・笑みの消えた顔で。


 エタリキ様の目って笑ってなくても細目なんだ。


「どうするって・・・・・・出世する?」


「ですから、どうやって、出世されるのですか?」


 神官は笑みとは異なる形に顔を歪めて三度問う。しかしその問い答えたのは私の主――棺の中のジフ様ではなく桃色道化師――アーネスト・エンド様にだった。正しくは別の問いを発したのだが。


「ちょっと待ってぇ~ん。ジフ様、まずは死霊王様が本当に倒されたか確認して宜しいですか~ん。正直、間違いだと思うのん」


「あ、ああ」


「ということでエタリキちゃん、確認を御願いできる?」


「分かりました・・・・・・容姿などを聞けばよろしいですね」


 道化師の頷きを確認した神官は、水晶玉に被せた手をのけて語りかける。


「アンスターの勇者よ。聞こえますか」


『! 誰だ! 生きているんだな! 良かった! 怪我は無いか!』


「はい。怪我はありません。私は神官の一人です。それより死霊王を倒したとは本当ですか?」


『ああ! 死霊王はこの手で確かに倒した。灰も残さず・・・・・・消滅させた』


「そうですか・・・・・・その死霊王とはどのような死に損ない(アンデッド)でしたか? 死に損ない(アンデッド)には特殊な方法で埋葬しないと復活する者もいます。神官として確認しておきたいのですが?」


『復活? そうなのかシシィ? 痛い! 殴るな!

 ・・・・・・す、すまない。どんな死に損ない(アンデッド)か・・・・・・信じられないかもしれないが普通の、本当に普通の人間のような姿だった』


 確かに見た目だけは、人間と変わらなかったな。


 私が苦学生――死霊王様の容姿を思い出している間も遠話は続く。


「普通といいますと?」


『本当に普通の・・・・・・普通の人間だった。失った人を求めて死ぬことを忘れた・・・・・・ただの人だった』


 水晶玉から聞こえる声は、戸惑いと悲しみを伝えてくる。


 自らが倒した相手を悼んでいるようだ・・・・・・いや、そんなことはないか。


「本当に死霊王だったのですか? 吸血鬼などの他の魔族では?」


『間違いなく死霊王だ。本人もそう言っていたし他の死に損ない(アンデッド)・・・・・・第三席と名乗った死霊魔術師(ネクロマンサー)より圧倒的に強かった』


「しかし、他の・・・・・・」


 エタリキ様の言葉が途中で止まる。

 アーネスト・エンド様が手を伸ばして水晶玉を覆ったためだ。


「もう、いいわ~ん・・・・・・信じられないけど死霊王様は本当にやられたようね・・・・・・」


「逃げた可能性はありませんか?」


 諦め声の桃色道化師に長身の死霊魔術師(ネクロマンサー)が問うが。


「デニムちゃんは知らないでしょうけど。研究を邪魔した相手に逃げ出すような方じゃないのよ死霊王様って」


 答えは死霊王様の生存を否定するものだった。部屋を沈黙が満たして・・・・・・


「フッフッフッ」


 ・・・・・・笑い声が満たす。


「フッフッフッ、フフフ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

 きたぞ! きたぞ!! きたぞ!!! 私の時代が来たぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーー!!!」


 ジフ様の笑い声が部屋を満たす。


「これであの勇者を倒せば!!! 私の出世は確定だぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!

 誰も文句は言わせない! 死霊王を倒した勇者を倒したジフ・ジーン!! 完璧だ!!! 完璧すぎて涙が出てくる!!!!」


 ジフ様の歓喜の叫びが部屋を満たす・・・・・・ちなみに涙は流れていない。


「よっし!!! 神官一号!!! さっさとあの(・・)勇者を呼び出せ!!!」


「は、はい!」


 ジフ様の勢いに飲まれたのかエタリキ様が水晶玉に囁き始める。私も再び階段に向かって構えを取る。


「・・・・・・アンスターの皆さん、御願いがあります。脱出のために合流したいのですがこちらにきていただけませんか。仲間が怪我をしておりまして」


『・・・・・・返事が無いから心配したぞ! 待ってろすぐ行く』


 その返事を聞いたジフ様はさらに大きな高笑いを上げる。


「クックックッ・・・・・・勇者(せいか)よ早くこい!!! 今度こそ! 今度こそ!! 私は勝って出世する!!!」


 しかし、そこに水が差された。


「あの~ん、ジフ様・・・・・・とっても言いにくいんだけど」


「なんだっ! 第九席のアーネストさ・・・・・・ま」


「え~っとねん・・・・・・出世のことなんだけど」


「だからっ! ・・・・・・なんなんですか?」


「たぶん、出世できないと思うの」


 申し訳なさそうに告げられた言葉は水どころか洪水だった。


 カラン!


 顎骨が落ちる音が響く。

ただし主に勇者の特権です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ