神の囁き
困ったときの助言はありがたいものです。
「元勇者の部下もできた・・・・・・次はあの勇者達を・・・・・・クックックッ!」
新しい部下が増えたことでジフ様はとても嬉しそうにされている。
「「「・・・・・・」」」
私の後輩である死霊魔術師・・・・・・様とつけるべきか? とにかくジフ様の新しい部下様達も感動のあまり言葉を失っている・・・・・・
「脈はありますね・・・・・・床も冷たいから・・・・・・体温はある?」
・・・・・・神官一人を除いて。神官の死霊魔術師様は、手首を握ったり床を撫でたりして何かを確認しているようだ。
「・・・・・・あの、アーネスト様」
「えっ~と、エタリキちゃんだっけ。なぁ~に?」
「私達が飲まさ・・・・・・い、頂いた死霊魔術師になる秘薬ですが・・・・・・死に損ないになったにしては心臓も動いていて体温もあります。
これはどういうことなのでしょうか?」
「ん~ん? 死霊王様御手製の秘薬だからね~ん。普通の死霊魔術師とはいろいろ違うかも。私も使うの初めてだから詳しくは知らないけど。死霊王様と同じだとしたら食事とか睡眠も多少必要かもしれないわ。後・・・・・・」
元神官――エタリキ様はしばし悩んだ後、アーネスト・エンド様と何か話し始めた。傍にいるデニム様も聞きながら興味深そうに頷いている。
「あの勇者達も・・・・・・ケチョンケチョンのグチョングチョンにして! こうして! ああして! 捏ねて! 潰して食べてやる!!」
ジフ様は、三人の会話に興味がないようだ。
私も楽しそうなジフ様を見ているほうがいい。
しかしジフ様はあの勇者達を食べたいのか。潰すということは・・・・・・肉団子? 料理はあまり得意ではないが・・・・・・練習しておいたほうがいいだろうか?
ちょっとだけ悩んだ私はすぐに決断した。料理の練習をすることを。
まずは包丁の代わりにあれを拾っておこう。
右手に持っていた邪魔な剣を捨て、転がっている私の愛鉈に手を伸ばす。
この大鉈は、数多の血を吸った業物だが料理にも使える優れものである。仕留めた獲物の解体にもよく使った。
足元に転がる黄金の剣に『お、俺様の剣』と呟きながら金ピカ男様がフラフラと近づいてくる。
ジフ様からお借りした剣なのだが・・・・・・まあいいいか。
「ハッハッハ! 悔しいか!! 悔しいか勇者め!!!」
ジフ様も全く気にされていない。今は全力で床を踏みにじっておられる。
おっと! ジフ様のために料理、料理。さて次は肉でも・・・・・・
私は周囲を見回し料理の練習台を探す。
先ず眼窩に止まるのは死体獣達だが・・・・・・
「チュウチュウ」「ピョンピョン」「コンコン」
剣を抱きしめた金ピカ男様達を祝福――女魔術師の頬を舐めたり変体男の背中を撫でている――している。
あんな可愛い子達を調理できるだろうか? いやできない! 私は血も涙もないが同胞想いなのだ。
「さあさあ、三人ともいつまで呆けているんですか。私達はこれから偉大なるジフ様のために働かないといけないんですよ」
私が料理の材料を探しているうちにアーネスト・エンド様との話を終えたのかエタリキ様が三人に声を掛ける。
「あによ? あたしはこの子達に癒されてるの。邪魔すんじゃないよ」
「そうだぜー俺様勇者だったのにさー死に損ないだぜーーーー・・・・・・何が偉大なるジフ様だ」
「我は間違っていた。力こそが正義なのではない・・・・・・可愛さこそが力なのだ」
「だいたいあんたが時間稼ぎするとか言ったからこんな事に・・・・・・」
「イーデスさん落ち着いてください。アライさんもいつもの自信はどうされたんです。ウドーさんは・・・・・・まあどうでもいいですけど」
「この状況で! どう落ち着けって!」
「自信? 俺様はザコデス。コモノデス。ユウシャシッカクデス。ムノウデス」
「我はどうでもいいのか?」
どうやらエタリキ様が責められているようだ。どうしたのだろう?
「まあまあ、落ち着いて・・・・・・落ち着いて聞いてください。どうやら私達が飲まされた薬ですが。随分と素晴らしいもののようなんです」
「「死に損ないのどこっ・・・・・・」」
「二人とも落ち着いて聞いてください」
金ピカ男様と女魔術師様を遮り神官は続ける。
「よく聞いてください。死んだといっても脈も体温もあるんです」
「「「???」」」
「だから傍目には生きている人間と見分けがつきません。
それにアーネスト様・・・・・・・道化姿の方に御聞きしたところ首を斬られても繋げば治るそうです。これは殆ど不死身と言っていいでしょう。また腐敗も老化もしないそうです。
つまり・・・・・・」
「「「つまり?」」」
「私達が飲まされた薬は不老不死の秘薬かそれに限りなく近いものということです。精神と体が魔人並に強化されるおまけまでついてます。永遠の若さに竜に匹敵するといわれる力・・・・・・ね? 御得でしょう」
「永遠の若さ・・・・・・」
「竜に匹敵する・・・・・・」
「力・・・・・・」
エタリキ様の話を聞いていた三人の目が生き生きとしてくる。
死に損ないだから逝き逝きだろうか?
「しかも私達の偉大なるジフ様は死霊軍団の幹部とのことです・・・・・・魔王軍が勝利すれば私達も相応の地位が・・・・・・」
四人とも背を丸めながらコソコソ囁くように話し始めた。
どうしたのだろうか? 内緒話は聞きたくなるな・・・・・・
「よし! 俺達は大物になるぞ!!」
「「「おおおーーー!!!』」」
しかし私が足を動かす前に金ピカ男様が声を張り上げ他の三人も叫ぶ。
残念ながら内緒話は終了したようだ。
「なんだ? どうしたおまえら!?」
一人ぼっちで非実在勇者を殴っていたジフ様も驚かれている。
「いえ、なんでもありません偉大なるジフ様。偉大なるジフ様のために頑張ろうと一同気合を入れていたのです」
「そ、そうか。いいぞいいぞ! うん! た、大儀である。ハッハッハッ」
「・・・・・・ではさっそく御提案したいことがあります」
「いいぞいいぞ! なんだ?」
頭を深く下げて話す神官の姿にジフ様はとても嬉しそうに答える。
貴族は頭を深く下げるほど喜ぶと兵士長のおやっさんが言っていたが・・・・・・ジフ様もやはり貴族なのだろう。
「実は偉大なるジフ様の御望みをこれで叶えることができるかもしれません」
「なに!?」【なに!?】
ジフ様と私が驚く中、囁くような言葉と共に差し出されたのは・・・・・・
妖しげに輝く小さな水晶玉だった。
助言者の立場によっては注意する必要もあります。
いやマジで。