大物
当然、あの方のことです。
決まっています。
「ところで彼らはどうされるのですか?」
蝿魔人が淑女という衝撃の真実に私達三人が石化しているとデニム様が別の話を振ってきた。
デニム様の頭蓋骨の向く先には、金ピカ男他三名の自称勇者達がいる。
「ザコデス。ムリョクデス。コモノデス。ドリョクシマス」
「どうするって? あたし達?」
「キイィィィタァァァァァァァァァ」
「人間です! ・・・・・・人間なんです! ・・・・・・本当に?」
長髪の女魔術師を除いて精神的に死に掛けているようだが・・・・・・人間だし殺しておこうか?
「え? 彼ら? ・・・・・・あ、ああ! そいつらか・・・・・・・・・・・・憐れだな」
デニム様の質問に気づいたジフ様が金ピカ男達に同情を向けている。
逃がしてあげるのだろうか? ジフ様は寛大な御方だ!
「いっそ殺してやるか?」
・・・・・・ジフ様は慈悲深い御方だ!
「ちょっ!? ちょっと待って! その話の流れは逃がすところじゃない!」
被害者の・・・・・・ではなくて人間の中で唯一正気だった女魔術師が抗議の声を上げた。
ジフ様の慈悲を拒絶するとは! ・・・・・・まあ、私も逃がすのかと思ったが。
「アライ! いつまでもあっちの世界に逝ってるんじゃないよ! ウドーも起きな! エタリキ! いままでの人生に悩むより今を生きないと終わりだよ!!!」
女は、髪を振り乱して周囲の仲間達を揺さ振る。
「コモノナンダ。ザコナンダ。モウイインダ。オシマイナンダ」
「アガガァァァーーーカアラァァァダァァァァァァ」
しかし反応は良くない。そもそも変体男は体がこんがり焼けたままなので動けそうにない・・・・・・雷光の剣って凄いな。
「人生? 終わり・・・・・・生きないと終わり・・・・・・そ、う、です! まだです!」
おや?
神官が立ち上がった。瞳には精気が宿り最初の余裕を取り戻している。
「馬鹿なっ! デニムの説教を受けて立ち上がるだと・・・・・・本当に人間か!?」
「ジーン様? 何を言ってるんだ?」
奇跡の復活を遂げた神官の姿にジフ様が驚き、さらにそのジフ様にデニム様が頭蓋骨を傾げている。
そんな御二人に件の人物が算盤を弾きながら話しかける。
「死霊魔術師の皆さん・・・・・・私達は敗北を認めます。そしてあなた達が望むものを何でも御渡しします。ですから命だけは助けて貰えないでしょうか」
望むものを何でもか。
私は右手に握る黄金に輝く剣を見つめる。
雷光の剣も貰えるのか・・・・・・ふむ? アリかも。
「何でもって言ってもね~ん? あなた達を死に損ないにすれば・・・・・・」
アーネスト・エンド様の返事を神官が遮る。
「他の勇者たちの情報を欲しくは有りませっギャエ!?」
しかし道化師の邪魔をした神官の言葉はさらに遮られる・・・・・・
「勇者はどこだ?」
偉大なるジフ様によって。神官の首は血塗れの骨指に絞られ細く細くなっていく。
「ギョオッゲェェッェェツァァァァァ!」
さっさとあの勇者のことを話せばいいのに・・・・・・ジフ様に絞めていただけるとは羨ましい。
「ジフ様! 死んじゃいますよ~ん!」「落ち着けっ!」「顔が青くなってるじゃない!」
「勇者はどこダ?」
死者も生者もジフ様を止めようとするが棺から伸びた白い腕が力を緩める様子はない。神官の顔色も紫を通り越して白くなってきた。その神官の唇が意味のある動きをする。
「ホギャノノ、ズタァン、ビュウシャァァァァァァ」
「ほら~ん! 話そうとしてます!」「ジフ様、落ち着け!」「エタリキしかいろんなこと知らないんだよ!」
「・・・・・・ん」
再びの進言に指が開いた。
「ゲッホッ!? ハッ、ハッ、ハッ、ハッ! ギョッホッ!? ゲヘホ、ホ、ホォォォォハーーーホ、ホ」
地に落ち苦鳴を漏らしながらも息をしようともがく神官にジフ様が命じる。
「話せ」
「ハッ、ハ、ハッ、ハ、ハッ・・・・・・他の、勇者達は、わ、私達とは別の道を進んで、います」
「・・・・・・続けろ」
「私達は、聖一教の精鋭、部隊の後についてきましたが・・・・・・他の勇者達は、それぞれの目的に、沿った動きを、し、しています。
スチナの亡命王室は死霊王の首。魔術師や冒険者は秘術や秘宝・・・・・・」
「アンスターの! 金色の勇者はどこだ!?」
あの勇者に関係ないことをべらべらと喋る神官にジフ様が苛立つ。
「ア、アンスターの勇者は『全ての死に損ないを滅ぼす!』と息巻いていました。そもそもこの襲撃は、アンスターと聖一教の作戦で私達や他の勇者達はそれに相乗りしただけなんです・・・・・・数日前に『聖女の加護が私達を勝利に導く』とか特級大神官が言い出しまして・・・・・」
「つまり詳細な位置は分からないってことね~ん?」
「あーーーーーー・・・・・・それは・・・・・・」
桃色道化師の指摘に滑らかに動いていた神官の舌が止まった。
ゴキッ!
握りこまれたジフ様の骨指が鈍い音を響かせる。
「まっ待ってください。アンスターの勇者は、全ての死に損ないを滅ぼすと宣言しました。つ、つまり聖一教の精鋭が討ち漏らした敵を倒しながら進んでいます。ならば見つける方法は簡単です」
「・・・・・・どういうことだ?」
頭蓋骨を傾げるジフ様の後ろで私も一緒に頭蓋骨を傾げているとアーネスト・エンド様が救いの手を差し伸べてくれる。
「派手に戦っている勇者がアンスターの勇者ってことね~ん。ジフ様の少々御待ちくださ~い。司令部に確認しますから~ん」
アーネスト・エンド様の手のひらに水晶玉が現れる。
「もしも~し! バトゥーリアちゃんいる~ん? バトゥーリアちゃん? ・・・・・・?」
道化師は一同が見守る中しばし水晶玉で遠話を続ける。しかし水晶玉からは声が返ることはなかった。
「あら~ん? バトゥーリアちゃんたら我慢できずに戦いにいったのかしら?」
「しかしアーネスト様・・・・・・司令部の全員がいなくなるというのはないのでは?」
「死霊騎士ちゃん達も戦闘好きが多いからありえなくはないのよ」
デニム様とアーネスト・エンド様が何か相談をし始める。私がその様子を眺めていると足を誰かが叩いた。
ん?
足元を見ると死体栗鼠がどこかを指差している。そちらを見ると・・・・・・
「イーデスさん、いいですか。アライさんはともかくウドーさんはもう無理です。諦めましょう」
「神官の言うことじゃないよ! 仲間は大事なんだよ!」
「静かにしてください。気づかれたらどうするんですか」
神官と女魔術師も相談していた。私は彼らをどうするのかジフ様に御聞きする。
【ジフ様】
「ん、なんだ大鉈?」
【あれどうします?】
私が指し示す人間達に再び注目が集まった。二人の顔が蒼白になっていく。
「皆さんが望んでいる情報は御渡ししましたよ。私達を逃がしてください。問題ないでしょう」
「でもね~ん? あなた達侵入者だし~ん」
「けちなこと言わないでさ! あんた達、大物なんだろ!? 度量の大きなところを見せてくれてもいいじゃない!!」
「・・・・・・大物・・・・・・」
? いまジフ様の頭蓋骨が揺れたような?
「そうです。大物やボスは太っ腹なものです」
「・・・・・・大物、ボス、太っ腹・・・・・・」
女魔術師に続いた神官の言葉にジフ様の頭蓋骨が三度揺れる。
「超大物、裏ボス、真の実力者、大魔王はとても寛大なんです」
神官が笑みを浮かべながら言葉を紡ぐとジフ様の頭蓋骨どころか全身までが震える。
「フハ」
ジフ様が短く笑った。それはすぐに連続した笑いに変わっていく。
「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
ジフ様の笑い声が最期の墓所に響く。まるで劇とかに登場する魔王のようだ。
「ハハハハハハハハハハッ・・・・・・そうだな!!! 私は超々大物だからな!!!」
棺桶から伸びた髑髏が人間達を見据える。
ジフ様の顎が動く。
間違えました超々大物でした。
すみません。