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骸骨の夢  作者: 読歩人
第六章 人類反撃編
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正義の刃

脇役を舐めたらいけません。

「ホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ」


 最期の墓所に女魔術師の高笑いが木霊する。髑髏の杖と相まってまさに魔女である。

 しかしよく息が続く。人類驚異の肺活量とでも言うべきか。


「ホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ、ホ、ホッホ、ホッ、ゲホン・・・・・・・・・・・ハーハー、ハーハー・・・・・・あんたら止めろや!  苦しいじゃない!!」


 ・・・・・・流石に息切れしたらしい。なぜか私達に向かって怒ってる。

 所詮は人間だったか。呼吸しないといけないとは不便な。


「よくもやってくれたね! 死体騎士(あんた)達!! 殺し(やっ)ちまいな!!!」


 女の叫びと共に血塗れの神聖騎士達が剣を抜き放ちズルペタ、ズルペタ襲い掛かってくる。


 私達は、何もしていないのだが?


 私は、反論したいところをグッと堪えて迎え・・・・・・


 桃色の風が駆け抜ける。


 ・・・・・・討とうとする前に、神聖騎士達の顔が頭部ごと消えていた。


 ドサ! ドサ! ドサ!


 神聖騎士達は、しばし歩いた後・・・・・・自分達の死に気づいたように倒れた。


 い、今のは!?


「なっ!?」


 私と同じく驚いている女魔術師に声がかかる。


「イーデスちゃんて言ったかしら~ん? 駄目よ~ん。わたくしに死に損ない(アンデッド)なんて・・・・・・多頭竜(ヒドラ)大蛙(ジャイアントトード)を戦わせるようなものよ~ん」


 その声の主は楽しそうに、嬉しそうに話す。


 その姿を赤くまだらに染めながら楽しそうに、嬉しそうに話す。


 その手で死をお手玉しながら、道化師らしく楽しそうに、嬉しそうに話す。 


「「「「「・・・・・・」」」」」


 三つの首が宙を踊る光景にその場の全員が・・・・・・


「誰がっ! 雑魚で! せこくて! 小物で! 出世できないだと!?」


「ショコ、マデイッヘ! ナイ」


 ・・・・・・ジフ様と金ピカ男を除いた全員が凍りついた。


 トゥルトット!! トゥルトット!! トゥルトット!!


 死体獣踊子隊ゾンビビーストダンサーズが場を和ませようと明るい調子で奏でるが効果は薄い。しかし停止した時を動かすことはできたようだ。


 髑髏の杖を握り締めながら女魔術師が桃色道化師に食ってかかる。


「あっあんた! な、何者だよ! ふざけんじゃないよ!? 神聖騎士だよ!! それも三人も一度に!!」


「わたくし? わたくしは、癒しの道化師(ヒーリングクラウン)アーネスト・エンド! 偉大なるジフ様の信者よ!」


「アーネスト・エンド? ・・・・・・第九席の最期の道化師(ラストジョーカー)!? な、なんで死に損ない処刑人アンデッドエクセキュショナーが!?」


最期の道化師(それ)は昔の名前よ~ん。ところで~なんで死霊軍団(うち)のことにそんなに詳しいの~ん?」


「答えるわけ無いじゃない!! ・・・・・・それよりあんたがあの(・・)最期の道化師(ラストジョーカー)なら!!」


 叫ぶ女魔術師の杖が青く輝く。その光は青い煙となりアーネスト・エンド様を包み込んだ。


 これは先ほど神聖騎士を無理矢理動かした煙・・・・・・いったい何がしたいのだろう? 


「これで最凶最悪の死に損ない(アンデッド)があたしの下僕に・・・・・・」


「無理よ~ん!」


 アーネスト・エンド様が煙を手で払いながら姿を現す。


「え・・・・・・な、なん・・・・・・」


「わたくしが死霊魔術師(ネクロマンサー)だからよ~ん。イーデスちゃんの持っている髑髏杖(スカルワンド)で操れるのはせいぜい・・・・・・死霊騎士(デスナイト)ぐらいじゃないかしら~ん」


「ふっふざけんじゃないよ! この髑髏杖(スカルロッド)は、あらゆる死に損ない(アンデッド)を操る神の道具で!!」


「それ間違いよ~ん。本物(・・)髑髏杖(スカルロッド)はあらゆる魔族を操るのよ。だいたい神の道具が人間に使えるわけないでしょう?

 ・・・・・・その髑髏杖(スカルロッド)は、どこかの死霊魔術師(ネクロマンサー)が作った模造品よ。たぶん人間の弟子のために作ったんじゃないかしら? わたくしも似たようなものいくつか持ってるし」


「・・・・・・ど、どういうことだいエタリキっ!

 あんた確か『これさえあれば死霊魔術(ネクロマンシー)が使える』『ある神話では髑髏杖(スカルロッド)は、千の死者を操ったと語られてる』って」


「イーデスさん、落ち着いてください。魔族の言うことを信じるんですか?

 何より嘘は言っていませんよ? ちゃんと死霊魔術(ネクロマンシー)が使えてるでしょう。それに千の死者を操ったという神話も本当にあります」


 仲間の神官を問い詰める女魔術師に桃色の道化師がもう一言伝える。


「それとね~ん・・・・・・髑髏杖(それ)使うと人間は寿命縮むわよ」


 カラァァァーーーン!


 女の手から杖が床に転がる。コロコロ転がる杖の先で髑髏の顔が笑っているように見えた。あの子達の効果音も不気味な演出を加える。


「#あ$ん%た!!! &な*ん?た#!!!」


「イーデスさん、落ち着いてください・・・・・・無理そうですね・・・・・ウドーさん、死に損ない(アンデッド)達を御願いします。私はイーデスさんを大人しくさせますので」


「う、うむ。こちらは我に任せよ・・・・・・そちらは任せる」


 どうやらあの髑髏の杖は、体に良くないものらしい。それを聞かされた女魔術師は、言葉にならない声を上げて神官を締め上げている。


 まあ、些細なことだ・・・・・・拳を振り上げる変体男に比べれば!!


 深く身を屈めその拳をかわす。


 鎧を掠めたその鋼色の拳は、並んでいた石棺を粉砕する。


 あ、危ない!


 戦慄が私の背骨を駆け巡る。


 あんな変体男に触られたらどうなることか!?


「避けるな」


 確かウドーと呼ばれていたか? 無茶なことを言うな!


 突っ込みの代わりに大鉈を叩きつけるが・・・・・・その灰色に変色した皮膚に弾かれた。


「効かんな。我が鍛えし鋼の肉体に一切の武器は無力だ」


 変体男の言葉は事実だ。大鉈を弾いた奴の体の感触は鋼の鎧・・・・・・もしくはそれ以上の硬さがあった。


「次は我の番だな」


 おぉう!? ギョエ!!!


 言葉と共に振るわれるその一撃は、軽々と私を吹き飛ばした。左手――竜骨毒手を盾にして受けたため粉砕こそされなかったが石棺に叩きつけられる。


 むうぅ! 鎧がなければ背骨が折れていた・・・・・流石に竜の骨は砕けないようだが。しかしどうすれば?


「ほう! 我が一撃を耐えたか!? さあ、こい!」


 私がヨロヨロと立ち上がるのを変体男は余裕綽々胸を張って待ち構えている。


 『人間は殺せ! 人間は殺せ! 人間は殺せ!』船長ガデム様、あれは人間ではありません・・・・・・変体です!


 心の中で船長ガデム様に抗議しつつも体は動く。左手を握り大男の急所――喉を打つ。


「ぐぅ」


 手応えはやはり鋼を殴ったみたいだったが、効いたか?


「う、はっは・・・・・・き、効かんな」


 竜骨毒手も効果はないようだ。大男は喉を擦り嘲笑ってる。


 頑丈な敵なら鈍器で殴るのもいいのだが・・・・・・


「誰がっ! 雑魚で! せこくて! 小物で! 左遷されて! 出世できないだと!?」


「アガアッアア」


 鈍器――棺を確認したが尋問に忙しそうだ。諦めて他の方法を考え・・・・・・あっ!


「ごほぅん! もう諦めて我が至高の一撃を受けるんだな」


 私は拳を避け大鉈を投げつける。


「効かんよ」


 あっさり弾かれるが問題ない。空いた蛇骨腕をジフ様に向かって伸ばす。


【ジフ様それ(・・)お借りします】


 一言断ってジフ様の手からそれ(・・)を拝借させていただく。そして腕を引き戻す勢いをそのままにお借りしたそれ(・・)で斬りつけた・・・・・・私を叩き潰さんと両腕を高く掲げる変体男を。


「効かんとイイイイイイイイイイイイイイイイイイギィィィィィィィィィィィィィィィィヤァァァァァァァァァンンンンンンンンンンンンン!」


 ギッバチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッ!!!


 その一撃に変体男は声と体を震わせ動きを止めた。その全身を雷が駆け巡っている。


「ナアァァァァァァンンンンンンンンンデェェェェェェェェェェ?」


 変体男は鋼の体に火花を弾けさせながらも唯一動く目を巡らす。何で自分がやられているのか分からないからだろう。

 正直、私も驚いていた。手応えは大鉈で斬りかかった時とさほど変わらなかったからだ。金ピカ男が自慢していたからいい剣だとは思っていたが・・・・・・効果は抜群のようだ。


 この剣貰えないかな?


 私は右手に握った稲妻を纏う剣――ジフ様からお借りした雷光の剣――を眺めてそう考えた。


「ヒィィィキヨョォォォォォォォォォォォォォォォナァァァァァァァァァ・・・・・・」


 変体男が私の右手を見つめながら倒れる。その顔は赤く焼け歪み、泣いているのか笑っているのかよくわからない面白おかしい不思議な形に固まっていた。


 可哀想に・・・・・・


 思わず同情したがとりあえずはほっておく。まだ神官が残っているからだ。眼窩をそちらに向けると神官が丁度女魔術師を床に転がしているところだった。


 神官はしばしこちらを眺めてから喋りだす。


「ウドーさんも情けないですね。せっかく高価な魔人薬を売ってあげたのに・・・・・・イーデスさんももう使えないようですし。私が手に入れた雷光の剣まで奪われるなんて困ったものです」


 そう言いながらも神官は余裕を持った態度で懐に手を伸ばす。


「仕方がありません・・・・・・あまり使いたくはなかったのですが」


 白き衣から現れたのは、手の平ほどの大きさの薄い紙――カード。


「神の力を見せてあげましょう」


 カードに描かれていたのは、禍々しい姿をした人ならざるもの・・・・・・魔族だった。

武器は強力なんですから。

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