4話 気づいたら行列ができていました
朝。
メウラは研究室の扉を開けた。
魔族が並んでいた。
整然と。
昨日より多い。
先頭の魔族が言う。
「回復薬を」
「朝ごはんは食べましたか?」
沈黙。
「……何だ」
「朝ごはんです」
後ろがざわつく。
「聞いたか」
「朝ごはんだと」
「なんだそれは」
メウラは少し考えた。
「起きてから最初の食事です」
先頭の魔族が真剣に答える。
「肉を食べた」
「何時ですか?」
「昨日の夜だ」
「それは夕食です」
列がざわめく。
「朝に食べるのか?」
「戦闘前にか?」
「胃が重くならないか?」
メウラは瓶を棚に戻した。
「朝ごはんを食べないと、回復薬が強く出ます」
「強いほうがよいのでは」
「揺れます」
「揺れは困る」
後ろの魔族が言う。
「昨日、何も食べずに飲んだら、階段を三段飛ばした」
「俺は天井に頭をぶつけた」
「俺は扉を開けたら外れた」
メウラはうなずく。
「空腹だと吸収が早いです」
「吸収」
「だから揺れます」
列が、静まる。
先頭の魔族が言う。
「……何を食べればいい」
メウラは少し考える。
「軽いもの」
「軽い肉か」
「肉以外もあります」
沈黙。
「……あるのか?」
「パンとか」
「パン」
後ろの魔族が小声で言う。
「勇者側の食べ物だ」
「裏切りではないのか」
「丸いぞ」
「柔らかいらしい」
メウラは説明する。
「胃に負担がかかりません」
「負担」
「戦闘前なら特に」
列の後ろで、若い魔族が手を挙げた。
「……卵はどうだ」
「いいですね」
「焼くのか」
「焼いても、ゆでても」
沈黙。
「ゆでる……」
「水に入れて、火にかけます」
「……卵を、水に?」
「はい」
列の魔族たちが、真剣に聞いている。
誰かが小声で言う。
「我ら、卵を割って生で飲んでいた」
「殻ごとか?」
「殻ごとだ」
メウラは少し驚いた。
「殻は硬いです」
「そうか」
列の後ろから、さらに声。
「朝ごはんを食べたら、回復薬はどれくらい飲めばいい」
「半分でいいです」
「半分……」
「揺れません」
列の空気が変わる。
「揺れない」
「階段を飛ばない」
「天井にぶつからない」
先頭の魔族がうなずく。
「……朝ごはんを食べる」
後ろから声が上がる。
「俺もだ」
「部隊に伝える」
「卵をゆでる」
向かいの店主が呟く。
「……何を売ってるんだ?」
仕立て屋が答える。
「常識だ」
店内。
メウラはようやく回復薬を渡す。
「朝食後に飲んでください」
「朝食後……」
魔族が復唱する。
「卵をゆでる」
「殻は剥く」
「軽いものを食べる」
「そのあと飲む」
列は、減らない。
むしろ増えている。
奥から、新たな魔族が走ってきた。
「聞いたぞ! 朝に食べるらしい!」
「卵だ!」
「ゆでるぞ!」
メウラは作業台に戻る。
(魔族向けの簡易朝食セットを売ってもいいかもしれない)
次の日、魔王城の前に卵屋ができていた。




