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3話 人間用回復薬は魔族には強すぎる

翌日。


魔王城の研究室に、メウラはいた。


石造りの広い部屋。

棚には大量の回復薬が並んでいる。


すべて、市販の人間用だった。


幹部の一人が言う。


「これが現在、我が軍で使用している回復薬だ」


メウラは一本手に取る。


軽く振る。

匂いを確認する。

底を覗く。


「濃いですね」


「最高品質だ」


「人間には」


沈黙。


メウラは机に並べた。


「魔族は魔力量が多いです」


「だから効くのだ」


「効きすぎます」


幹部の眉が動く。


メウラは続ける。


「この薬は、魔力を一気に活性化させます」


「それが回復だ」


「人間基準です」


彼は別の瓶を開け、中身を少量取り出した。


指先で触れる。

わずかに魔力を流す。


瓶の液体が、微かに波打った。


「魔族が飲むと、魔力が暴れます」


「暴れる?」


「揺れます」


ちょうどそのとき。


研究室の外で、小さな爆発音がした。


幹部が顔をしかめる。


「……またか」


「……今月三件目だ」


メウラが見ると、廊下で兵士が壁にもたれていた。


「飲んだ直後に魔力が跳ねるのです」


「それは気合だ」


「違います」


メウラはきっぱり言った。


「過負荷です」


研究室に戻り、メウラは作業を始めた。


回復薬を分離する。

沈殿を取り除く。

触媒を弱いものに置き換える。


攪拌の回数を増やし、

温度を下げる。


幹部が腕を組んで見ている。


「何をしている」


「刺激を減らしています」


「弱くしているのか?」


「調整です」


十分後。


淡く澄んだ液体ができあがった。


「飲んでください」


実験役の兵士が、一口飲む。


周囲が見守る。


三秒。


五秒。


十秒。


何も起きない。


「……爆発しない」


兵士が手を握る。


魔力が、静かに流れている。


「揺れがない」


「安定しています」


兵士が目を見開いた。


「軽い……」


「軽い?」


「体が、重くない、まるで牢獄に入れられた囚人が30年ぶりにみた青空のようだ」


メウラはうなずく。


「揺れないので疲れません」


幹部が口を開く。


「それで、戦闘継続時間が伸びるのか」


「はい」


「なぜだ」


「無駄に消耗しないからです」


沈黙。


別の兵士が、旧型の回復薬を飲んだ。


直後。


魔力が暴発し、床の石がひび割れ、研究室の棚が一つ崩れた。


「爆発は回復の証だ」


メウラは静かに言う。


「それ、強すぎます」


幹部は腕を組んだまま、しばらく考えていた。


「つまり……」


「人間用は魔族には刺激が強すぎます」


「我らは人間より強い」


「だからです」


静寂。


やがて幹部が言った。


「全軍の回復薬を切り替える」


三日後。


報告が届く。


・魔力暴発事故 ゼロ

・訓練中の壁破壊 減少

・兵士の疲労感 軽減

・戦闘持続時間 さらに上昇


幹部が唸る。


「なぜだ」


メウラは答える。


「強すぎなかったからです」


玉座の間。


魔王が報告書を読む。


「……強化したのではないのか」


幹部が答える。


「弱めました」


魔王がゆっくりと顔を上げる。


「弱めたら、強くなったのか」


メウラは首をかしげた。


「はい」


魔王は長く黙った。


やがて、言う。


「……理解できぬ」


メウラは素直に答える。


「人間も同じです」


「強い薬は、あまりよくありません」


沈黙。


玉座の間に、静かな空気が落ちる。


魔王が言った。


「お前、本当に戦力ゼロか」


メウラは考える。


「腕力はありません」


「だが我が軍は、確実に強くなっている」


メウラは少し考え、


「生活が安定したからだと思います」


と答えた。


玉座の間の空気が、また少し重くなった。


魔王が小さく呟く。


「……恐ろしいな」


メウラは首をかしげる。


「どこがですか?」

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