表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

1話「メウラ、お前船降りろ」

「メウラ、お前船降りろ」


海の上だった。


陸は見えない。

港までは、まだ半日以上かかる。


メウラ・ミオマーゼ・エテイーターは、勇者パーティから追放された。


戦闘力があまりに低い。

そのうえ大飯食らい。

完全にお荷物だった。


錬金術の腕にだけは自信があった。


だが、船の上では船酔いで――錬金術どころではなかった。



メウラはため息をつき、海に飛び込んだ。


泳ぎは問題ない。


水をかきながら考える。


(勇者パーティはクビか)


(じゃあ、帝都で店でも開こう)




開店初日。


扉の前に立ち、メウラは深呼吸した。


店内は狭い。

棚が三つ。

作業台が一つ。

薬瓶が並んでいる。


在庫は、ほとんどない。


(まずは回復薬と、疲労回復と……)


(あとは注文が来てから作ればいいか)


開店の札を出す。


通りは、静かだった。


人通りは少ない。

そもそも、路地裏だった。


一時間。


誰も来ない。


二時間。


誰も来ない。


三時間。


メウラは、椅子に座った。


(立地が悪かったかな)


そのとき。


扉が、静かに開いた。


入ってきたのは――魔族だった。


角のある男だった。

背が高く、黒い外套を着ている。


店の中を一通り見回し、

メウラの前で止まった。


「……ここは、錬金術店で間違いないか」


「はい」


男は懐から、小瓶を取り出した。


中の液体は、黒く濁っている。


「回復薬だ」


「市販品ですか?」


「そうだ。だが、飲むと魔力が乱れる」


メウラは瓶を受け取る。


軽く振る。

匂いを確認する。

沈殿を観察する。


「人間用ですね」


男の眉が、わずかに動いた。


「魔族は魔力量が多いので、触媒が強すぎます」


「……直せるのか」


「できます」


メウラは作業台に向かった。


中身を分離する。

沈殿を除く。

触媒を弱いものに変える。

攪拌の回数を増やす。

温度を少し下げる。


十分ほどで、新しい液体ができた。


「どうぞ」


男は、その場で飲んだ。


数秒。


魔力の揺れはない。

反動もない。


男は、ゆっくりと目を見開いた。


「……安定している」


「配合の問題です」


沈黙。


男は、金貨を三枚置いた。


「材料費だけでいいんですが」


「安すぎる」


男は扉の前で振り返る。


「……また来る」


扉が閉まる。


店内は静かになった。


メウラは瓶を洗いながら、考える。


(魔族向けの需要、あるのかな)


その日の午後。


扉が開いた。


また、魔族だった。


翌日。


三人になった。


三日後。


店の前に、列ができていた。


並んでいるのは、人間ではなかった。


角。

牙。

黒い皮膚。

赤い目。


魔族の列だった。


メウラは列を見て、少し考える。


(処方を標準化したほうがいいかもしれない)


そのとき。


列の後ろで、ざわめきが起きた。


人が、道を開く。


いや、人ではない。


魔族たちが、左右に下がっていた。


重い足音。


背の高い男が、店の前に立つ。


黒い鎧。

角は長く。

気配が、重い。


周囲の魔族が、頭を下げていた。


男が、店内に入る。


メウラの前に立つ。


しばらく、何も言わない。


そして、口を開いた。


「お前が、ここをやっている錬金術師か」


「はい」


男は言った。


「我が軍の兵士三百名が、お前の薬を使った」


メウラはうなずく。


「全員、体調が改善した」


少し間を置いて。


「戦闘継続時間が、平均で二倍になった」


メウラは、少し考える。


「水分と睡眠もとったほうがいいと思います」


沈黙。


周囲の空気が、少し重くなる。


男は、言った。


「魔王様がお前に会いたいそうだ」


メウラは、首をかしげる。


「健康相談ですか?」


店の外で、誰かが息をのんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ