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アルドレア戦記  作者: 猪飼 要
最終章
83/83

おまけ①

ある日の昼下がり。

陽が傾きはじめ、回廊の石床に淡く影を落とす頃。


その隅で──ラウラは、こっそりと泣いていた。


「……ヴィクトリアさん。

近衛を辞して、お城を去ってしまうなんて……。

寂しい、寂しいです……。」


袖で目元を拭うたび、また涙が滲む。


あんなに強くて、あんなに凄いのに、

感情表現は不器用で、言葉はいつも短くて。

けれど、灯火みたいに静かで優しい人だった。


帝国いちばんの騎士でありながら、わたしの大切なお友達。

もう会えないだなんて、そんなの、悲しすぎる。


どれほど泣いていただろうか。

ぼんやりとした視界の向こうで、鐘の音が響いた。


はっとして、ラウラは涙を拭う。


今朝受けた、皇后の言葉がふと脳裏をよぎる。


『これまで、貴女ひとりでは大変だったでしょう。

わたくし付きの侍女を、もうひとり雇うことにしたの。

後で、顔合わせをするわね。』


「あっ……そろそろ時間ですね。

いったい、どんな方なんでしょう……。」


急いで回廊を駆け、皇后の私室へ向かう。

心臓が期待とわずかな不安に跳ね、走るほどに涙の跡が乾いていく。


そして、皇后の私室の扉を開くと。


皇后のすぐ傍に、侍女の衣装を着た背の高い女性が立っていた。


その姿を見た瞬間、ラウラのはしばみ色の瞳がいっぱいまで見開かれる。


「ああ、来たわね。」

エレツィアが微笑む。

「──この子が、新しい侍女よ。

こちらは貴女の先輩のラウラ。さ、ご挨拶を。」


女性は静かに頭を下げた。

肩に触れる黒曜の髪がさらりと揺れ、赤い瞳が柔らかく光る。


それは──騎士の礼のように、丁寧で、どこか硬い動作だった。


「新しく皇后陛下付きの侍女に任じられました、

ソフィア・カルシェと申します。

ラウラさん。ご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。」


「えっ、あの、えっ……え?」


「ソフィア。それでは騎士の挨拶よ。」


皇后が優しくたしなめる。


ソフィアは小さく頷き、ぎこちなく微笑んだ。


「失礼しました。今後は侍女としての作法に直していかないといけませんね。

……ラウラさん? 大丈夫ですか?」



「えっ……えええええーっっ!!!!!」



その叫びは静謐な帝城を揺らし、回廊の間を木霊し──

城中の人間を、何事かと仰天させた。

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