おまけ①
ある日の昼下がり。
陽が傾きはじめ、回廊の石床に淡く影を落とす頃。
その隅で──ラウラは、こっそりと泣いていた。
「……ヴィクトリアさん。
近衛を辞して、お城を去ってしまうなんて……。
寂しい、寂しいです……。」
袖で目元を拭うたび、また涙が滲む。
あんなに強くて、あんなに凄いのに、
感情表現は不器用で、言葉はいつも短くて。
けれど、灯火みたいに静かで優しい人だった。
帝国いちばんの騎士でありながら、わたしの大切なお友達。
もう会えないだなんて、そんなの、悲しすぎる。
どれほど泣いていただろうか。
ぼんやりとした視界の向こうで、鐘の音が響いた。
はっとして、ラウラは涙を拭う。
今朝受けた、皇后の言葉がふと脳裏をよぎる。
『これまで、貴女ひとりでは大変だったでしょう。
わたくし付きの侍女を、もうひとり雇うことにしたの。
後で、顔合わせをするわね。』
「あっ……そろそろ時間ですね。
いったい、どんな方なんでしょう……。」
急いで回廊を駆け、皇后の私室へ向かう。
心臓が期待とわずかな不安に跳ね、走るほどに涙の跡が乾いていく。
そして、皇后の私室の扉を開くと。
皇后のすぐ傍に、侍女の衣装を着た背の高い女性が立っていた。
その姿を見た瞬間、ラウラのはしばみ色の瞳がいっぱいまで見開かれる。
「ああ、来たわね。」
エレツィアが微笑む。
「──この子が、新しい侍女よ。
こちらは貴女の先輩のラウラ。さ、ご挨拶を。」
女性は静かに頭を下げた。
肩に触れる黒曜の髪がさらりと揺れ、赤い瞳が柔らかく光る。
それは──騎士の礼のように、丁寧で、どこか硬い動作だった。
「新しく皇后陛下付きの侍女に任じられました、
ソフィア・カルシェと申します。
ラウラさん。ご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。」
「えっ、あの、えっ……え?」
「ソフィア。それでは騎士の挨拶よ。」
皇后が優しくたしなめる。
ソフィアは小さく頷き、ぎこちなく微笑んだ。
「失礼しました。今後は侍女としての作法に直していかないといけませんね。
……ラウラさん? 大丈夫ですか?」
「えっ……えええええーっっ!!!!!」
その叫びは静謐な帝城を揺らし、回廊の間を木霊し──
城中の人間を、何事かと仰天させた。




