第36話:おまけ
朝。
薄い帳を破るように、朝陽が寝室へと差し込んだ。
金の光が静かに揺らぎ、床石へ細い帯を落とす。
目を覚ますと、ふと、身体に寄り添う柔らかな温もりに気づく。
腕の中では、エレツィア様が静かに寝息を立てていた。
昨夜の温度が、まだ肌に残っていた。
乱れた金糸の髪をそっと整えると、指先に柔らかな感触が伝わる。
愛おしい人。
愛する人。
そして、私を愛してくれるただひとりの人。
想うだけで、胸の奥が、じんわりと熱を帯びる。
そっと、その額に口づけを落とした。
今日もこの幸せが続くように、と願いを込めて。
やがて──
金色の睫毛がふるりと震え、紫水晶の瞳がゆっくりと開かれる。
「……おはよう、ヴィクトリア……はやいのね。」
未だ微睡の中にある、とろりとした声。
初めて聞くその柔らかさに、胸がきゅうと締まる。
「おはようございます、エレツィア様。
私も今、目が覚めたところです。」
「……うそ。うそよ。しゃっきりしているもの。
ねているわたしに……いたずらしたでしょう。」
「……貴女に悪戯をする理由がありません。」
少しむっとしたように頬を膨らませる。
「だって、きのう……あんなにかわいかったから。
わたし、ついいじわるしちゃったもの。
……しかえししたくなったのでしょう。」
その一言で、胸の奥が跳ね、頬が熱くなる。
「……っ。思い出させないでください。」
「ふふ。かわいいヴィクトリア。
……だいすきよ。」
腕の中でそう囁き、微笑むその表情は、
どんな女神の肖像画よりも美しく見えた。
何度か瞬きをした後、エレツィア様はようやく完全に目を覚ましたらしく、
大きく伸びをして、ふっと息を吐いた。
「あぁ……そうだわ。服を着ないといけないわね。
起こしに来たラウラが見たら、それはもう大騒ぎよ。」
「……その通りですね。」
「でも、その前に──」
言い終えるより早く、エレツィア様の顔が近づいた。
静かな音とともに唇が触れ、離れる。
「ね、おはよう。ヴィクトリア。
今日も素敵な一日になりますように。」
朝陽が彼女の輪郭を縁取り、淡い光を宿す。
その姿が、まるで彼女自身が陽光の中から生まれたかのように煌めいて見えた。




