第33話:神代より ②
はじめ、世界には混沌しかなかった。
善なる神々と悪なる神々がそれぞれの力を注ぎ込み、
渦を巻く混沌はようやく大地へと形を変えた。
善なる神々は光を与え、水を流し、木々を芽吹かせた。
悪なる神々は火を放ち、風を走らせ、雷を落とした。
風は種を運び、光は命を育て、
雷は古き命を打ち倒し、火がそれを焼き、
残った灰に水が巡り、新たな命が芽吹いた。
善と悪の力は巡り合い、世界はひとつの調和を成していた。
──だが、やがて神々のあいだに争いが生まれた。
「どの種を、この大地の中心として栄えさせるか。」
善なる神々は人類を選び、
悪なる神々は魔族を選んだ。
議論は平行のまま結論に至らず、
ついには力による決着が選ばれた。
互いの代表を戦わせ、勝った種をこの地の覇者とする──と。
レベッカは淡々と語り継ぐ。
神話を読み上げるような、感情の波のない声音だった。
「──その代表が“勇者”と“はじまりの魔王”です。
……と言っても、実際には互いの種族の存続を賭けた“総力戦”でしたが。」
エレツィアが目を瞬かせる。
「神々も、随分と乱暴なやり方をなさるのね。
……それで、その争いの勝敗はどうなったの?」
レベッカは静かに首を振った。
「決着はついていません。
かつての“勇者”は“はじまりの魔王”と相討ちとなった。
ゆえに争いは終わらず、今も続いているのです。」
エリアスが眉を寄せる。
「……しかし、“剣聖”は?
その話には出てこないよね。“勇者”とは別なのかな?」
「はい。かつての“勇者”は──
“類稀な剣技”と“癒しの魔力”を兼ね備えた存在です。
対して“魔王”は、“卓越した槍技”と“命を奪う魔術”を操る。
まさに、対の存在でした。」
淡々と語りながらも、レベッカの声音にはどこか遠い響きがあった。
「……ですが、その両方を持つ者は初代の勇者のみ。
原因は分かりませんが、次代からは力が二つに分かたれました。
そのうち“剣の才”を継いだ者──それが“剣聖”。
代々、魔王と争う役目は剣聖に受け継がれたわけです。」
リュークスが腕を組み、小さく呟く。
「だが、魔王と戦わずに終わった剣聖も多いだろ。
その辺りはどうなんだ?」
レベッカはゆっくりと視線を落とし、静かに告げた。
「“勇者”の血筋──現在では、帝国皇族の血を継ぐ者が“本来の剣聖”です。
それ以外の剣聖は制度としての“任命”。
歴代で魔王と実際に争った剣聖を辿れば、必ず皇族出身のはずです。」
室内が揺らぐような静寂に包まれる。
レベッカは一瞬だけヴィクトリアを見た。
だがすぐに瞳を伏せ、その表情を隠した。
「……ですから、本来、今代の剣聖が魔王と争うことはなかったはずなのですが。」
短い沈黙が落ちる。
そして、静かな声が続いた。
「何事にも──例外はあるのでしょう。」




