表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルドレア戦記  作者: 猪飼 要
第三章
53/82

第31話:復讐の果てに ①

あの後、武装した兵に囲まれ、

一行は全員拘束された。


冷たい鎖が擦れ合う音が、沈黙の廊を満たす。

鉄の匂いと緊張の熱気が混じり合い、

そのまま全員が、城の奥深く──

別々の部屋へと押し込められた。



「くっ……宰相め。強硬手段に出るとはな……。」


クロイツァーは歯を噛みしめた。

部屋には油灯が一つ、弱々しく光を放つのみ。

石壁は冷たく、湿気が重くのしかかる。

外からは、鎧の軋みと靴音が絶え間なく響いていた。


(恐らく──出征兵の数を偽り、余剰の兵を帝都周辺に伏せていたか。

常備軍が出払った今を狙い、その兵を掌握して動かした……そういうところだろう。)


周到ではある。

だが、どこか歯車が噛み合っていない。


(しかし、本来の宰相ならば、もっと巧妙に仕込むはずだ。

あの男が、これほど雑な手を打つとは……何を焦っている?)


思索を巡らせる。

だが情報が乏しい。

それに、他の者たちの安否も気がかりだった。


静かに息を吐いた、その時。


床の隅を、小さな影が横切った。

一匹の白鼠。

埃一つない石床をすり抜け、彼の足元でぴたりと止まる。

逃げもせず、真紅の瞳でじっと見上げてきた。


(……妙だな。)


クロイツァーが眉を寄せた瞬間──


『あ、あー。皇太子殿下、聞こえますか?』


その鼠が、人の声で喋った。



喉の奥にまで上がりかけた叫びを、咄嗟に飲み込む。

息を呑む音だけが、部屋に小さく響いた。


『あぁ……驚かせてしまいましたね。これは失敬。』


「──その声は……魔術師どの!?

一体、これは……!」

クロイツァーは身を屈め、声を潜めた。


『ふふふ、“魔術は破壊のみにあらず”、ですよ。

それはそうと、ご無事なようで何よりです。』


次の瞬間、別の声が割り込む。


『おや、その声は皇太子殿下。いや、驚きましたよね。』

エリアスの声だ。


『まあ……クロイツァーさまと兄様の声が聞こえますわ。

不思議な鼠さんね。』

エレツィアの穏やかな声が続く。


『……待ってくれ、俺はまだこの状況を呑み込めてない。』

リュークスの声も加わった。


クロイツァーは眉を寄せ、短く息を整える。

「そうだな。俺もだ。

だが──この術は……。」


鼠を見下ろし、声を潜める。

「魔術師どの。この術はどの程度の距離まで届く?戦場でも使用可能か?」


『え?うーん、この城内くらいなら問題ないと思います。

しかし戦場となると……検証が必要ですね。』


「もし戦場で使えるなら、命令伝達の在り方が変わる。

実地試験を行いたい。いつなら可能だ?」


『まずは、リュイペと帝国に正式な国交を結んでいただかないと。

陛下を口説き落としてください。』


「……なるほど。前向きに検討しよう。」

クロイツァーは真顔のまま応じた。


『……待て、なんの話をしてるんだ!?』

リュークスの声が割って入る。


『国交は私も取りなしてみますが、まずはこの窮地をどうにかしませんと。殿下。』

エリアスが半ば呆れたように口を挟んだ。


「……そうだな。だが策はある。

この魔術で第一騎士団に異変を伝えれば良い。

俺が命を下せば、必ず動く。それで宰相の企みは終わりだ。」


『……それは良案ですが、ぼくには第一騎士団の位置が分かりません。』


「鼠の目を使えるか?周囲の映像を伝えられれば、俺が位置を割り出そう。」


『承知しました。では、誘導はお任せしますね。』


『宰相が何を狙っているかも分かりませんわ。急ぎましょう。』


クロイツァーは小さく頷いた。

「──よし。魔術師どの、頼む。」


鼠の赤い瞳が、わずかに光を帯びる。

次の瞬間、石壁の向こうで鎧の音が遠ざかる。

静かだが確かな、“反撃”の幕が上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ