第2.X話:騎士たち、道中にて
時は少し遡る。
帝都から王都へと続く街道を、冷たい風が抜けていく。
馬蹄の音だけが、乾いた大地に響く。
──だが、帝国騎士たちの脳内は春だった。
ふたりの騎士が、雑談に花を咲かせている。
「“王国の花”か……噂じゃ黄金髪の相当な美人らしいぞ。」
「おいおい、また顔かよ。武器でも女でも、とりあえず見た目で選びやがって。」
「戦功を挙げるにはやる気がいるだろ?護るなら、ふんぞり返った貴族のオッサンより美人の姫さん!“やる気”の燃料は大事なんだよ!」
「燃えてんのはお前の理性じゃねぇのか。」
「おいヴィク、お前はどう思う?」
突然話を振られ、前に視線を向けたまま答えた。
「……護衛対象の美醜が、任務に関係があるのか?」
「「ぐえっ!!」」
言った瞬間、変な声を上げふたりは同時に馬上でずり落ちそうになった。そう見せかけている……毎度ながら、芸が細かい。
「そういうことじゃねぇって!」
「なあ、想像してみろよ、“王国の花”だぞ?そんな美人に『ありがとう、騎士様』って微笑まれたらよ……最高だろうが。」
「……微笑まれた経験がないので、比較できない。」
「「だからそういうことじゃねえって!!」」
「まあ、ヴィクと姫さんは女同士だしな〜。」
「分かんねぇかぁ、男のロマンってやつはよ。」
「……なんだか知らんが、酷く侮辱されたような気がする。」
軽く睨みを利かせると、空気が一瞬で凍った。
馬が鼻を鳴らし、ふたりは慌てて馬を並べ直す。
「あ、あー悪かった!言葉のあやだ!」
「お前も見りゃわかるよ!本当の美人ってのはな、目の保養なんだって!」
「…………。」
手綱を握り直し、ため息をひとつ。
会話はそれで終わった──はずだった。
だが、如何に剣聖と言えども、騎士たちの胸中までは黙らせられない。
((まあ、ヴィクトリアも相当な美人なんだけどなぁ……))
風が彼らの苦笑を運んでいった。
馬蹄の音だけが、乾いた道に響く。
空の彼方で、雷鳴のような音がかすかに響いた。
それが“嵐の兆し”であることを、誰もまだ知らなかった。




