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最強と無双をやめたおっさんのもとには、厄介ごとしかやって来ない。【辺境砦の無気力英雄】ゼブラ・ゴーシュはのんびり暮らしたい  作者: 朱実孫六
第二節 朝風呂を沸かしたら、なぜかお腹が痛くなった件

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第8話 戦場の心得① 敵は外にのみあると思うな

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 ゴーシュは、ジュノの苦しげな表情に奇妙さを感じたのか、顔を上げた。


「──どういう意味だい、そりゃ」


 斜め向かいに腰かけるジュノは、鼻をすすって袖で擦った。


「いえ。なんでも無いです。すみません」


「出して引っ込めるのは卑怯だぜ。何なんだい。半端者ってのは」


 ゴーシュは言いながら、ジュノの口を閉した顔を見つめた。



「セムの手紙じゃ、座学以外じゃ主席だそうじゃないか。家柄も……なんていうか凄えし」


 ゴーシュが再々、視線でジュノの心のドアをノックするが、彼は身をさらに小さく屈めた。


「母が、僕を小さく産んでくれたおかげです。たまたまそこが職種と噛み合っただけで……」


 ふうん。と、ゴーシュは鼻を鳴らした。そして、少年に横目を向けた。


「……悔しいが興味が湧いてきたぜ。坊やの職種はなんだい」


 ゴーシュの問いかけに、ジュノは小さな笑顔を取り戻した。


「魔杖騎兵です」


 聞いたゴーシュが首をすくめた。


「へぇ。そりゃ、花形じゃねぇか」


 魔杖騎兵──ウマに騎乗して、攻撃魔法を魔杖から放って敵陣に突撃していく、華やかだが生存率の低い前衛職種だ。


 ジュノも、小さく縮こまりながら自負を滲ませた。


「何ていうか、僕は背が低いので、騎兵には向いているかなって……」


 思いついたように彼は、そこで顔を上げた。


「ゴーシュさまは、たしか最初、魔砲兵でいらっしゃいましたよね?」



 魔砲兵。こちらは味方からは戦場の〝女神〟。敵からは〝死神〟と呼ばれる職種だ。二頭立てのウマで曳く巨大な魔杖、つまり魔砲で、炸裂魔法を敵陣に降らせる。



 ゴーシュは、への字にした口で頷いた。


「──まぁ、こっちも同じさ。たまたま適性があっただけさ」


 彼はハーブ茶をすすってから、思い出を目に浮かべるかのように笑んで続けた。


「って言っても、おれは算術が苦手でね。魔砲に魔力を仕込む係……装填手ローダーだったのさ」


 ジュノの記憶によれば、装填主は確か、膨大量の魔力、すなわち高圧な魔力と、〝触れたものに魔力を注ぎ込む才能〟が必要だったはず。


 ゴーシュの横顔をみつめながら、ジュノはつぶやいた。


「その適性……ですか」


 ゴーシュは、小さくうなずいた。


「そう。坊やの言う通りだ。結局、こういう職種との相性ってのは持って生まれたモンだからな。おれが生き残ったのは、努力したからでも強かったからでもない」


 だが、ジュノの瞳は、その言葉にも尊敬の光が増していた。


 吐息のようなため息をついて、少年は目の前の伝説を眺めている。



 けれど一方で、そんな熱っぽい視線が、ゴーシュの側で胸の奥に沈んでいた記憶をえぐる。


 ゴーシュは目を曇らせた。


 ──整列する少年少女たちの姿。


 背丈よりも長い魔杖を誇らしげに抱え、敬礼するその小さな半魔の手。

 裏切りに遭った王を都に帰還させるためとは言え、年端もいかぬ彼らを、殿軍の盾とするしかなかった自分は、英雄なんかじゃない。


 なのに、その自分を〝英雄〟と呼んで疑わない世界──。


 彼しか知らない矛盾が、胸を内側で裂く。


 マグカップを手に、ゴーシュは空を見上げた。耳には風の音だけがしていた。


 まるで、あのときのように。






 ゴーシュは、ゆっくりと腰を上げた。


「──ま、あとは戦史叢書の通りさ。魔法兵をやってる間に、事故って頭が割れてな。妙な才能が花開いちまった」


 そして、腰に手を当てて遠い目をし、白い息を風に流した。


「そこからは味方からも恨まれる特殊作戦ユニット。──裏方のおれと、花形の坊やじゃ職種が違う。教えてやれることといえば、せいぜい戦場の心得くらいだな」


 ジュノは、耳をぴくつかせ、顔を一気に上げた。


「ほ……ほんとうですか、ありがとうございます! では早速、身を清めて参ります!」


 跳び上がってジュノが駆け足の準備に前かがみするが、そこに「待て待て」と、ゴーシュの声が飛んだ。


「──もう、教えたから。おとなしくしとけ」


「へえっ!?」


 ジュノが振り返ると、そこには、悪い笑みを浮かべたゴーシュの顔があった。


「戦場の心得、その一だ」


 ゴーシュは、真面目ぶった顔で続けたが、


「敵は外にのみあると思うな。以上……」


 そう言い終わると、笑いを抑えきれず、顔を手で覆って噴き出した。


「──いや、すまん。最初に謝っておく、悪かった。だが体でおぼえるしかないんだよ、本当に……こう言うことってのはよ」


 弁明のように言いながらゴーシュは、またブッと噴き出した。


 ジュノは首をかしげた。これまで腰掛けていた輪切りの丸太や、衣服のあちこちを確かめたが、これといった変化はない。


「なにかの……悪戯のようなものですか?」


 ゴーシュは盆にマグを載せて、母屋に戻る前に、ジュノへと向き直った。


「まあな。んじゃ、確認するぞ。トイレはどこだか知ってるな? よし。遠慮なく使え。今日は薪割りもここまででいい。水をたくさん飲んで、あとは昼寝してろ」


「水を、飲んで寝る?!」


「ああ。塩と一緒にチビチビとやれ。あとでマールムに持って来させる。じゃ、頑張ってな」


 


 手を挙げて去るゴーシュの背中に、ジュノは、声をかけようと口を開きかけたが、両腕を組んで思い止まった。


「がんばってする昼寝って……どう言うこと」


 首を傾げて考える。


 なにかの謎かけだろうか。


 けれど、殿軍の英雄が、いみじくも教えたとのたまった事だ。


「じゃあ、なんだろ。お昼寝の最中に模擬襲撃をするよ、ってことかな……」


 そう考えるとワクワクする。心の中で、尻尾が右寄りに激しく振れた。


「よし。考えていてもしょうがない。毛布にくるまる前に……」


 ひとりごちながら彼は手を動かす。割った薪を拾い集め、針金で束にしていく。


 

「でも嬉しいな……あのゴーシュさまが教えを下さったんだもんな。たまんないや」


 そんな笑顔の横を、何かの影がかすめて行った。


 ジュノは目で追い、


「タヌキだ! すごい」


 鞠のように跳ねながら走るその動物が、南面の崖を半ばまで登って行って、ちらりと振り向いた様子に、顔を明るくした。





 ◇




 

 だが──。


 その数分後よりジュノは、五分に一度、腹を押さえてトイレに駆け込む羽目になった。



 どうやら茶に一服、盛ってあったらしい。


 納屋でジュノが、毛布に包まって腹部を手で温めていると、扉をノックする音がした。


 彼は「はいどうぞ」と、枕にしたバックパックから顔を上げた。



 すると、マールムが扉を開けて覗き込んだ。


 手には、塩の入った小瓶と水差しが。


 彼女は、事情を聞かされないまま、これと焼き石をお師匠さまから託されたと話したが、ジュノの証言を頷きながら聴くと、静かに、眉間へと縦ジワを走らせた。




「おそらくは、ヒマの油でしょう」


 彼女は彼の枕元に両膝を着いて、額へと手のひらを当てた。


 ジュノは、頬を赤らめた。毛布に包まったまま呟いた。


「ひま、というのは……」


「下剤です。薬箱の中を漁っていましたからね。なにかと思えばお師匠様ったら! まったく……!」



 マールムの憤慨は収まらない様子だ。ジュノは、それでも何が自分の腹に侵入したのか承知できたことで、すこし腹痛が和らぐような気がし、安堵した。



「なるほど。戦場の心得、その一。か……」


 腹は痛い。痛いけれども、穏やかに笑んだ。


「これは確かに、忘れられそうにないや」


 なぜか嬉しい気分になってしまう。


 初めてのゼブラ・ゴーシュからの教えだ。


 ジュノは、腹を温める布で包んだ焼き石の位置を変えた。



「……マールムさん。どうかゴーシュさまを許してあげてください。きっと僕の油断を正そうと教えの下さったんです」


「なりません!」


 断言しながら彼女が、母屋の方を睨んだ。


「悩んでいましたが、夕食のメニューは決まりました」


「へ?」


 ジュノが見上げる彼女の顔は、岩山よりも険しかった。


「今夜は……野菜責めです」


 丸めていた背中をよじってジュノは、立ち上がっていく彼女の顔を追った。


「野菜ぜめ……? 料理の名前ですか」


 マールムは、目だけで怪しく微笑む。


「いいえ、料理ではなく仕返しです」


「へえい!?」


 変な声が出た。



「お師匠さまは、色の濃い野菜が苦手なのです。ふふふ。思い知らせてやりましょう」


 そう笑うマールムは、ゴーシュ譲りか、とても良くない顔で楽しげに見えた。



「──今夜の食卓は、ぜんぶ緑です」



 肩を揺らしている彼女に、下唇を噛んでジュノが震え上がった。


 敵は、時として内にいる。


 きっと忘れない。ジュノは完全に理解した。


 





 ◇ ◇ ◇





 

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次回は、明日12:00に公開予定です!

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