表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強と無双をやめたおっさんのもとには、厄介ごとしかやって来ない。【辺境砦の無気力英雄】ゼブラ・ゴーシュはのんびり暮らしたい  作者: 朱実孫六
第二節 朝風呂を沸かしたら、なぜかお腹が痛くなった件

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/42

第6話 めんどくさそうな剣士が来たぞ

お気に入り登録、評価などありがとうございます!


 ジュノが沸かした湯は、よく温まっていた。


 ゼブラ・ゴーシュは朝風呂をすませ、その後、二度寝を決め込んだらしい。


 彼がふたたび起き出して、遅い朝食をとるため母屋の食卓へついたのは、陽もすっかり高く昇った昼前のことだった。






 食卓には、黒パン、干鱈の薄いスープが並び、湯気を立てるハーブ茶を、マールムがポットごと持ってくる。


 南向きの窓を開けて隣室の軒先を見あげているゴーシュに、マールムが声をかけた。


「いかがなさいましたか」


 ゴーシュは、空室になっているツバメの巣を見あげていたのだった。


「いや。今年は遅いなとおもってな」



 そんな穏やかな時のさなか──。


 コンコン、と、玄関を叩く音がした。



 納屋の裏手からは、薪を割る音がしている。となると、訪問者はジュノではないことになる。


 ゴーシュは顔をしかめた。


「また、あいつかな……」


 窓を閉め、渋々と、西向きの窓を上げた。


 覗いた玄関先には、革鎧に身を包んだ若い剣士が立っていた。


「やあ。小間使い氏。主人はお帰りか」


 剣士はゴーシュを、そう呼んだ。



 金色の髪は短く刈り込まれ、腰の剣は革鎧同様によく手入れされている。


 背は高く、歳は十八か九か。黙っていればモテるのだろうが、シワが深く刻み込まれたその口から出る言葉が慇懃無礼で、ゴーシュはどうも彼のことを好きになれない。


「いや。まだ当分帰ってきそうにないぜ」



「ふむ。ではせめて、殿軍の英雄殿の行き先を、これに免じて教えてもらえぬか」


 剣士は、剣の柄の、翼獅子と双月を模した紋章に手を置いたまま、それを見せつけるように言った。


 ゴーシュは、煙たそうに目を細めた。紋章に見覚えはある。王都なら、あの意匠を目にして頼みを断る愚か者はいない。


 だが、ゴーシュは態度を改めない。


「……あんたもしつこいね」


「何だその言い草は……!」


「だって殿軍の英雄はこの砦に最初からいないんだもん。最初にそう言っただろ」


 剣士は窓に歩み寄り、じろりと食卓の様子を覗き込み、鼻を鳴らした。


「小間使いの分際で、母屋で昼飯か。すっかりあるじ気取りだな」


 そう言い残すと、剣士は踵を返した。彼はいまだにゴーシュ本人を〝使用人〟だと勘違いしているらしい。


「──また来る。ひき続きゼブラ・ゴーシュ殿に言付けを。アーガイルが、ぜひとも一手ご教示願いたいと」


 剣士は庭のわだちを避けて、門へ下って行く。


 その背中が、山道に小さく消えていくのを待って、マールムが奥から顔を出した。


「いっそ、お相手して差し上げたらよろしいのに」


 ゴーシュは肩をすくめ、窓を下ろす。


「よく路銀がもつよな。もう一カ月だぜ。村の宿も安くはないだろ」


 彼女は食卓に、カップを戻して茶を注いだ。


「でも、ご教示って……真剣勝負をお望みなのでしょう? あのお方は」


 ゴーシュは席につき、両手でカップを包むように持った。


「そうだな。おおかた道場破りで食ってんだろうな」


 カップを傾け、口元が、ふっと緩む。


「もっとも、おれも若けえ時分は、あんな感じだったから、笑えないけどさ」


 マールムは微笑んで茶葉をとりかえる。


「ジュノさんは、まことに謙虚ですものね」


 つられてゴーシュも微笑んだ。


「ああ。えらい違いだよな」


 マールムも自分の卓につく。マグを手で包む。


 ゴーシュは目を細めた。


「しかし、えらい買いようじゃないか。……まぁ、国立のウィンゲートに入れたくらいだから、良家のお坊ちゃんなんだろうけども」


 そのおぼっちゃまに、今朝は風呂焚きなどさせてしまいましたよとマールムは、白くて粒のそろった歯を見せて、


「お風呂、沸かすのは初めてだと仰っていました」


 そう彼の努力を、さりげなくゴーシュに口添えした。


「ほう。初めて、とな」


 となると、彼は魔法学校でも成績上位者、ということになる。


「──上位の十名は、寮の雑用が免除になるからな」


 ゴーシュの目が懐かしそうで、マールムは、柔らかい口調で尋ねた。


「お師匠さまは、ウィンゲートで学生でいらしたとき、どうだったのですか?」


 落第生だった。


「もちろん、薪割りと風呂焚きは、今でも得意だもの。──で、坊ちゃんの初陣は最中、どんな顔だったかね?」


 マールムは、記憶をたくり、手振りを真似て言った。


「それはもう……必死で。顔はもう、こんなふうに真っ黒で。やっとのこと火がついて『やった!』って、こうやってガッツポーズしてました」


 楽しげな彼女に対して、ゴーシュのほうは、腕を組み、まるで困ったことでも起きたかのように、ふうむと唸った。


「いかがされました?」


「いや。ちょっとなぁ。悪いことじゃないんだが、素直すぎると思ってな」


 そして、何かを思いついたように、尋ねた。


「そうだ。マールム、薬箱は今、どこだったかな」


 彼女は、いつもの場所ですがと、心配顔を見せた。


「どこか痛むのですか」


 が、ゴーシュは、


「いやなに。ちょっとな。生真面目に効く薬があったなと思ってな」


 そう言いながら、悪戯顔でパンを口に咥えて立ち上がる。


 そしてその顔のまま歩き出し、ドアノブに手をかけてから、真面目な顔で彼女に振り向いた。


「アブラ葉の茶を入れてくれ。坊主に持っていってやろうと思うんだ」


「構いませんけど、良からぬことに私のハーブを使わないで下さいね」


 ゴーシュは首を振った。


「まさか。レッスンだよ。ジュノくんのね」



 ドアは閉まり、マールムは訝しむ小首をかしげた。


ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、明日12:00に公開予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ