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最強と無双をやめたおっさんのもとには、厄介ごとしかやって来ない。【辺境砦の無気力英雄】ゼブラ・ゴーシュはのんびり暮らしたい  作者: 朱実孫六
第一節 辺境の砦と無気力な英雄

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第4話 ジュノの本気とゴーシュの過去

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 北の森が夕陽に染まり、南の岩山が砦へと影を落とす。


 冷えた風が木柵を鳴らし、黒雲を連れてきた。


 雪が混じるよりも早く、夜の寒さが来る。




 横風が、母屋の窓枠を外から揺らし、玄関先で座り込んだジュノの頬を叩く。


 彼はうつむいていて、息が白い。


 かじかんだ手を揉んだ。






 かたや、母屋のリビングでは、暖炉で薪が燃え、上で深鍋が穏やかに何かを煮ている。


 マールムは、五枚の畳んだ毛布を抱いて、ゴーシュの顔色をうかがっていた。


「──ジュノさん、おっしゃっていました。何日でも粘ると」


 ゴーシュは、暖炉の前の敷物をしいて手枕のまま横になっている。何も言わず、眠たげな青い目で炎を見つめている。


 彼女は、ソファへと腰かけて姿勢を正した。


「セムさまのお手紙を読んでいなかったのは、お師匠さまのほうですよね」


 マールムの言葉に、ゴーシュは黙ったまま尻をかいた。


「まあな」


「魔法学校のインターンは三ヶ月間。それまであの方を、ああして玄関先に座らせたままにしておくおつもりですか」


 去年の夏、訪ねてきた入門希望の青年は、三日三晩、今の少年に同じく玄関先で粘った。


 ゴーシュは、炎を見つめながらボソリと漏らした。


「けれど四日目にゃ、置き手紙を残して納屋から消えたぜ」


 マールムは、腰を上げかけた。


「──でも、あれは夏です。いまは冬。この寒さでは彼が凍えて……」


 眉間にしわを寄せた彼女を、ゴーシュは横目に入れてからあぐらをかいた。


 手を伸ばした火挟みで薪を熾火にし、小さくその相好を崩す。


「……ふふん。珍しいじゃないか。男嫌いのお前が」


 暖炉のなか、火の粉が舞う。


「違いますよ。王都の人に、お師匠さまの働きを、もう一度、ちゃんとした形で知ってほしいと思ってわたしは……」


 薪がはぜ、ゴーシュを照らした。けれども、その面持ちは影をのせたまま暗い。


「いまさら、名を売る気はないよ。そもそも、おれは英雄じゃないんだ」


 外で吹く風の音の変化に、マールムとゴーシュは、揃って目を上げた。


 窓には、雪が舞いはじめていた。




 ゴーシュは閉じかけたまぶたを、しばたかせた。


 彼の胸のなかにあるのは、十二人の半魔の子ども。──どれも幼い。


 翼があるもの。


 耳が尖って、けばだっているもの。


 うろこの肌が夕陽に光っているもの。


 そのどれもが、大きすぎる軍服をたくし上げ、焦げて凹んだ鉄鉢ヘルメットを鼻までかぶって整列している。


 手には、背丈より長い魔杖。


 小脇に、大きな木組みの四面体──魔法爆弾を抱えて。






 ゴーシュは、大きく息を吸い込んだ。


 暖炉の中、落ち着いてきた炎がゆれている。


「……まぁ。今のうち、セムに恩を売っとくのも、一つだな」


 そう言うと彼は、床から腰を持ち上げた。




 いずれマールムを、王都へ行かせるつもりだ。


 ゴーシュは、降る雪の具合を窓辺から確かめた。


「毛布、それじゃ足りないかもだぜ……」


 そう呟いて、観念したのか、口をへの字にゆがめた。


「小僧に、今夜は納屋で寝ろと伝えなさい」


 彼女は、くすりと笑った。


「でしたら、お師匠さまから、そういってさしあげては?」


 ゴーシュは、暖炉の上にかけた鍋のシチューを掻き回す。


「……なぁに。女の子の口から聞くほうが、少年は嬉しいもんさ」


 彼は深皿を、余計に一つ出し、ひとことだけマールムへと付け加えた。


「……ただし、お前に手を出したら殺すと、小僧に伝えるんだぞ?」


 彼女は笑った。そして、まっすぐに頷いた。








 ◇ ◇ ◇


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次回は、明日12:00に公開予定です!

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