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最強と無双をやめたおっさんのもとには、厄介ごとしかやって来ない。【辺境砦の無気力英雄】ゼブラ・ゴーシュはのんびり暮らしたい  作者: 朱実孫六
第六節 ゼブラ・ゴーシュ、まあまあ本気だす

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第39話 アーガイルの目的

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 対するゴーシュの黒い魔杖は、納屋の壁に立てかけられている。


 泥だらけのジュノは、目を走らせて、生唾をのみこんだ。


 ──ゼブラ・ゴーシュは、アーガイルの挑戦を受けるのか。



 自分の願いは半分、仮入門というかたちで叶えられた。となると、アーガイルの願いも何らかのかたちで師匠は叶える気かもしれない。






 しかし、ゴーシュは、木の枝を肩に載せて、静かに挑戦者の足元を見つめていた。松葉杖。その存在が全てを語っていた。


 ゴーシュが口を開く。


「お前さんの願いも、半分かなえてやりたいとは思うんだがな」


 そして親指の爪の背中側でこめかみあたりの髪の中を掻いた。


「──ただし、模擬戦ならなおさらだ。フェアじゃなきゃ満足できねぇ。勝負してやってもいいが、それはお前さんが脚を治してからだ」


 春めいた風に、言葉が流れていった。


 アーガイルは、無言で俯いていた。


 ゴーシュは枝を担いだまま続きの言葉を風に乗せた。


「怪我を治すまで、砦に泊まるといい。その間、おれの首ならいつでも狙ってくれ」


 言い終わりを待っていたかのように顔を上げたアーガイルに向け、ゴーシュは口角を上げた。


「そう簡単には、取らせてやらねーがな」



 これには、アーガイルも笑んだ。けれども、同時に小さく肩をすくめた。


「面白い。その提案に乗りたいところだが……この脚では宿代を払えそうにない」


 ゴーシュは、そんな彼に視線を送り、ジュノのことだと暗に示しながら言った。


「かまわねえさ。治療費と飯代は気にするな。ちょっとばかり頼みたいこともあるしよ」


 アーガイルは、その頼みとやらをジュノへの助言と汲み取って、仕方なさそうに鼻からため息を漏らした。


「だが。もう一つ」



 彼は、剣を鞘ごと腰から外すと、傍らで振り向くマールムへと託した。


 マールムは、怪訝な顔で佩剣を受け取ると、意を察し、歩み寄ってゴーシュへと預かり物を手渡した。


 アーガイルは、彼に言った。


「剣の柄頭を見ていただきたい」


 ゴーシュが、剣の柄を見ると、精緻に刻まれた紋章があった。


 アーガイルは松葉杖に身を預けたまま、丸腰で言った。


「その紋章……見覚えはあるか」


 ゴーシュの目が細まる。獅子と双月を模した意匠。忘れもしない。リュシフェール家の紋章だ。


「因縁浅からぬ家だ。だがよ、おまえさんの姓はクーリーじゃあなかったかね」


 アーガイルは、そうだと言い、遠い昔を思い出すように沈黙を挟んだ。


「──その剣は、亡き父が、かの将軍より賜ったもの」


 その言葉に、ゴーシュは目を曇らせた。


 アーガイルは続けた。


「十年前の二月二日。王都で、スカア・ローゴという商人が死んだ」


 ゴーシュは黙って剣を見つめた。


「使われたのは、仕掛け魔法爆弾」


 爆発したスカアの馬車は、アパルトマンの三階テラスに引っかかっていた。


 ゴーシュは、アーガイルの顔をまっすぐ見つめ返した。まるで彼のその顔を誰かと重ねているかのように。


「ゼブラ・ゴーシュ。それも貴殿の仕事か」


 だが、その口は何も語らない。沈黙の中、マールムはゴーシュから剣を再び預かった。


 赤土を踏んで戻りながら、彼女が言った。


「十年前……お師匠さまとわたしは、たしかにまだ王都にいました」


 剣を現在の持ち主に返しながら、彼女は続けた。


「でも、このゼブラゴーシュという人は、理由なく人を殺める人ではありません。暗殺を行ったとすれば、王の勅命……」


 しかしゴーシュは、そこで静かに養女の言葉を制した。


「マールム。いいんだ。そういうことも、あったかもしれん」


「しかし……」


 なお何か言おうとする彼女に、ゴーシュは小さく首を振った。


「終戦直前、仕事とは言え、継戦派の人間を殺めたのは事実だ」


 宿やレストラン、多くの場合は馬車に魔法爆弾をしかけた。時には建物ごと──。



「巻き添えの中に、その御仁がいなかったとは言えまいよ」


 アーガイルは、目を開けたまま、口を結んだ。


 彼の父、スカア・ローゴは、和平に反対する継戦派を支援していた豪商。


 ゴーシュは、アーガイルの腰の剣に目を向けて、付け加えた。


「その紋章にも見覚えがある。リュシフェール将軍のものだろう」


 それは当時、継戦派の急先鋒。その恩寵品なら、アーガイルの願いにも納得がいく。


「となれば……私闘罪にはあたらない、というわけか」


 そう言ってゴーシュは、納屋に向けて歩んだ。


「どうやら、真剣勝負、受けないわけにはいかないようだな」


 その彼の手が、木の枝から変わって、黒い魔杖の杖把を執る。



 ジュノが息をのんで見守る中、杖床が淡く光り、空気がかすかに震え始めた。魔力が充填されはじめたと見えたが、ものの五秒足らずで、すぐその振動は収まった。


 ジュノの目は、さらに見開かれた。


 ゴーシュは、背中を向けたまま、淡々とアーガイルに言った。


「だがよ。おれはもう、国力を落とすような人殺しはごめんでな」


 一触即発。ここで魔杖と剣が交錯するとでも言うのか──ジュノは、マールムを見た。彼女はうつむいていた。


「かといって、マールムを一人前の魔道士にするまでは、おれも殺されてやるわけにもいかねぇし。悩ましいところでな」


 そう言って、座り込んでいるジュノを一瞥する。


「おまけにコイツの研修も半分、引き受けちまったし」


 ゴーシュは眉尻を下げ、やれやれといった顔でアーガイルを見直した。


「──と言うわけでな。どう折り合いをつけて、おめえさんの仇討ちには応えたらよいかね」


 場に、重たい沈黙が流れる。


 マールムの顔には翳りが差し、ジュノも複雑な面持ちで地面を見つめていた。


 アーガイルは松葉杖に一層体重をかけながら、剣を左腰に吊るし、座っているジュノに声をかけた。


「──研修期間はいつまでだ」


 ジュノは戸惑いながら、顔をあげた。


「……三ヶ月だけど」


「そうか」


 アーガイルは、ゴーシュに向き直った。


「養生もある。先ほどの段取りで、三ヶ月後、真剣勝負というのはどうであろう」


 ゴーシュは、微笑み、杖を下ろした。


「──いたみいるぜ。そうさせてもらおう」


 マールムは、胸を撫で下ろした。息を詰めていたジュノも安堵を漏らした。


 春の始まり、今日から三ヶ月先と言うと──。


「六月、末日。それでいいか」


 ゴーシュがそう問うと、アーガイルも頷いた。


「六月の末日。しかと心得た」




 ゴーシュは、あらためて目元に笑みを浮かべ、杖にためた魔力を空へと抜こうと、杖床に手をかざした──そのとき、ジュノの声が、中庭いっぱいに響いた。



「──あっ、お待ちを、お師匠さま」


 ゴーシュは片眉を上げた。


「……なんだあ、おめー。藪から棒に」


 


 ジュノは目を輝かせ、胸の前で手を組んだ。


「せっかく充填した魔力です、捨てるのは、大変もったいなく存じます!」


 面倒くさそうにゴーシュは返す。


「──撃ってみせろってのか」


「どうか……おひとつ、お願いできませんか!?」


 やりとりにアーガイルも興味をそそられたのか、松葉杖に体重をあらためてかけ直しながら、ジュノへ目を向けた。


「さっきの格闘訓練では、一発も当てられませんでした。せめてお師匠さまの技をこの目で見て学んで、午前の課業を終わりたいのです!」


 そして、背後のアーガイルにも振り向いた。


「ね? アーガイルも…… 見たいよねっ、ね!?」


 不意に呼ばれた彼も、やや顔を背けながら、口を尖らせてそれと応じた。


「──まぁ、な。しかし手の内を見せるような男かな。ゼブラ・ゴーシュは」


 その答えに、ジュノは嬉しそうに顔をほころばせ、地面に両手をつき額を下げて頼んだ。


「彼もこう言っています。お師匠さま、どうか!」


 


 ゴーシュは、重みを増した魔杖を肩に載せて、「しかたねぇなぁ」と、ひと言。


「わあーったよ。そこで見てろ。樹海にぶっ放すにゃ射角が足りねえ。めんどくせーなあもう」


 足の先を、防御塔へ向けた。


「……ったく。演習を三日に設定しといてよかったぜ」


 そして、アーガイルに振り向いて、〝ついてこい〟とでも言うのか、あごで手招くような身振りをした。


ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、明日12:00に公開予定です!

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