第35話 激突。そしてジュノは……
お気に入り登録、評価などありがとうございます!
メガマンティスは、600m先で巨体を折り曲げ、身を沈めた。
同じく、アーガイルとジュノも、いつでも跳べる態勢を取る。
時間すら止まる……ほんの刹那の後。
沈黙を断ち切ったのは、咆哮ではなく、疾走だった。
笹のパンケーキをものともせずマンティスは一気に300mを駆け、跳躍した。
澄んだ空を背に、大鎌を振りかぶりながらジャンプしたその影は、空を覆うほど巨大。
片翼を失った無恰好な飛翔は、圧倒的な重量感をともなって、そのまま着地し大鎌を振るった。
だが、ジュノたちも左右に分かれて跳んでいた。
土が舞う。
マンティスの紅潮した複眼と、目が合う
「──ッ!」
ジュノは歯を食いしばり、地を転がりつつ、その目に魔杖から魔弾を放った。
放たれた火炎魔弾は、メガマンティスの右の大鎌で盛大に爆ぜ、その一発がアーガイルを救った。
彼は首を両肩の間に載せたまま側転しながら剣を振るった。
刃は、青竹のようなマンティスの後肢に食い込んだ。しかし、マンティスのかけた体重で剣は脚から抜けなくなった。
剣柄の刻印を目に、剣士は一瞬、離脱を躊躇した。
そこに、メガマンティスは残る左の大鎌を下ろした。
「アーガイル!」
ジュノが再充填しながら叫び、アーガイルは我に帰った。
大鎌の一撃を避けて跳んだものの、アーガイルは、メガマンティスの左の大鎌の内に右脚を引っ掛けられた形で宙へと持ち上げられた。
マンティスは、逆さ吊りにアーガイルを挟んだまま、両断するでもなく、大鎌を持ちあげて顔を寄せた。
そしてジュノにむけて頭部を傾けながら、アーガイルを突き出して見せる。
鎌の中、アーガイルはジュノに顔を向けて叫んだ。
「──構うな! 運が悪かっただけだ! 再充填しろ、俺に構わずアタマを撃て!」
サメの歯が並ぶような鎌の、何本かが革の脛当てを易々と貫通している。
右膝あたりを大鎌は噛み込んでいる。
逆さまに吊られて紅潮していた顔が、みるみる青く変わる。
「俺は……助からん、死なば諸共だ、撃て……ジュノ」
マンティスは、彼を大鎌に捉えたままだ。
(存外、知性があるか……)
アーガイルが、砕けて軋む骨の音の中、そう思ったのは、捕えた自分を盾にするかのようにして、マンティスがジュノの方へと向きを変えたからだ。
だからこそ、アーガイルは、ジュノに向けて繰り返し言った。
「何している、早く撃て……ジュノ……いや、クソイヌ」
──ジュノは、再充填を終えていた。
けれども額に汗粒を浮かべ、片膝を立てて魔杖の狙いを、人間の盾からわずかに覗いているマンティスの大きく膨れ上がった腹部に向けたまま、どうしても撃てなかった。
「ダメだ、アーガイル、きみにあたっちゃう……!」
アーガイルと言う肉の盾に隠れたメガマンティスは、頭部から腹部を、すっぽりとその後ろに隠している。
ジュノは歯噛みした。ゴーシュさまならどうするか。
(側面に迂回して……)
ジュノは魔杖を構えたまま、その目を左右させるが……左には厚い笹薮がある。
……右には森が。
(ダメか……)
その時、ジュノの泣きそうな顔に、背中から回り込んできた誘惑の声があった。
──逃げちゃいなよ。
内なる魔の声だ。
──もうアーガイルは助からないよ。
大鎌のなかでアーガイルがうわごとのように呟いている。クソイヌと。
顔面蒼白で、ジュノは首を振るう。
「バカ言え……」
でも、このままじゃ自分も危うい。マールムさんもだ。アーガイルごとあの大鎌を吹き飛ばせば、確かに、自分たちは生き残れるかもけど……
──そうすれば、助かるよ
──アーガイルもいなくなる
ジュノは生えてきた牙を拒絶するように噛みしめ、首を横に振る。
──アーガイルが死ねば言いふらす者もなくなるよ
──ゴーシュさまといられるね
声は大きくなる。
──やっちゃおう
──楽な道をえらぼうよ
──なあに不幸な事故さ。彼も運だといってるよ
笹の薮に、燃え移った炎が白煙を立ちこめている。
ジュノは、魔杖をマンティスに構えたまま、うつむいた、
うすく煙にに包まれた周囲の空気の中に、ゴーシの横顔が思い浮かぶ。
燻製箱に向かって、お互い斜向かいに腰掛け、ゴーシュは無精髭を撫で付けながらボソリと言った。
〝思うに、人は生き方によって、人間にも魔物にもなるとおもうんだよなぁ〟
ひるがえって、この戦場──。
ジュノは顔をあげた。
「帰るぞ、一緒にだ、アーガイル!」
逆さ吊りの彼に向け、断言した。
ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ
次回は、明日12:00に公開予定です!




