第34話 牙と羽根と決意の笑み
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「まいったな……いきなりこんな奴とか……」
ジュノ・ジャクセルは、犬耳と犬鼻が出たまま小さく唇を噛んだ。
アーガイルは横で剣の柄を握り直した。
「インターンだったな。実戦経験は無いんだな」
ふたりの目の先には、羽根から上がっていた炎を消し終えて、大鎌を舐めて手入れ中の大蟷螂。
ジュノは頷いた。そして横目でアーガイルを見た。
「きみはあるのか」
「ある。だが、ソロでは初めてだ」
そのアーガイルが叫んだ。
「──そうだ。クソイヌ、この隙に二発目を奴の頭部に叩き込め! 今なら出来るだろ!」
マンティスは舐め終えた大鎌で長い触覚を整え始めた。足は止めている。
だが──
「あ! いけね……」
ジュノが慌てて握り直す魔杖に、魔力の再充填を始めた。
「んんん、今まで何やってたんだっ、このクソイヌッ!」
今この瞬間、ここにある巨大な敵のわずかな隙。この絶好の機会を前に、この体たらくだ。彼でなくても怒鳴っていただろう。それがパーティなら。
しかしアーガイルは、掴みかからんばかりに怒号を炸裂させた。
「まさか貴様、再充填を忘れてたんじゃないだろうな!」
ジュノは肩をすくめて、再充填をしながら小さく言った。
「ごめん、うっかりしてた……」
アーガイルは地面を踏み鳴らした。
「何やってんだこのトーシロが! だいたいその鼻と耳はなんだ、ふざけてんのか!」
犬耳と濡れた鼻。ジュノの外見は今、半魔そのもの。彼本来の姿だ。
「しかたないじゃん……しばらくは戻らないんだもん」
お構いなしに怒鳴りつけたいアーガイルだが、その直後の空気の変化に二人は揃って北を見た。
メガマンティスの四本の脚がゆっくりと歩み出した。
右の片翅を失ったそれは、逆三角形の頭部をかるく傾けて少年たちをじっと眺め、前後に揺れながら、近づいてくる。
目と目が合っている。いや、獲物としてロックされている。敵はジュノとアーガイル、そのどちらかに狙いを定めるか品定めをしている。
口の隙間から黒い舌をのばし、大鎌の刃を舐めた。
待ちきれない遊びが近づいているかのように──。
アーガイルは、メガマンティスに向けて剣を左脇の水平に構え、腰を落としていく。
「クソイヌ、充填は済んだか。俺の右側に回れ」
ジュノは、言われるがまま、彼の右手へと回った。
「何をするのさ」
「俺の遠距離剣技は弾切れだ。気力が尽きた」
そのアーガイルは、ジュノを横目で睨んだ。
「再充填は済んだか。射程はいくつだ」
ジュノの顔がひきつる。けれども、息を吸い込んで、静かに言う。
「あと15秒。射程は42」
そして押し黙り、所在なさげに視線を落とした。
それでもなお、疑問は拭えなかった。ジュノは口を尖らせる。
「……でもどうしてベアアントが居るってわかるのさ」
「今は……言えねぇ。目の前の敵に集中しろ」
メガマンティスが──来る。
「来るぞ」
アーガイルは、カマキリのシルエットに目を細めてさらに腰を落とした。
「充填完了したよ」
「よし。奴の翅はいま左だけ。ジャンプの後に向きを変えられない。あとは言わなくてもわかるな」
ジュノは、魔杖をコンバットレディポジションで、マンティスに向けながらうなずいた。
距離600m。引きつけて撃つしかないが、敵のシルエットは縦長に狭くて細い。左右に揺れながら近づいてくる棒に石を当てるようなものだ。
となれば、至近距離まで引き寄せる度胸が要る。
対してアーガイルも、いつでも烈空斬を放てる姿勢のまま、つぶやく。
「俺は左へ行くが、お前はどうする」
ジュノは即答した。
「右……」
「おっけー……」
そのアーガイルが歯が微かに震えながら、つよがるように笑った。
「あとは運。恨みっこなしだ……」
たしかに、最期になるかもしれない今だ。
好かない奴だが、笑顔があってよかった。
ジュノも横目で微笑み、射撃に差し支えない程度に小さくうなずいた。
「万が一のときは、マールムさんを頼むよ」
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次回は、明日12:00に公開予定です!




