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最強と無双をやめたおっさんのもとには、厄介ごとしかやって来ない。【辺境砦の無気力英雄】ゼブラ・ゴーシュはのんびり暮らしたい  作者: 朱実孫六
第五節 樹海ミッション・レベル1

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第34話 牙と羽根と決意の笑み

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「まいったな……いきなりこんな奴とか……」


 ジュノ・ジャクセルは、犬耳と犬鼻が出たまま小さく唇を噛んだ。


 アーガイルは横で剣の柄を握り直した。


「インターンだったな。実戦経験は無いんだな」


 ふたりの目の先には、羽根から上がっていた炎を消し終えて、大鎌を舐めて手入れ中の大蟷螂メガマンティス


 ジュノは頷いた。そして横目でアーガイルを見た。


「きみはあるのか」


「ある。だが、ソロでは初めてだ」


 そのアーガイルが叫んだ。


「──そうだ。クソイヌ、この隙に二発目を奴の頭部に叩き込め! 今なら出来るだろ!」


 マンティスは舐め終えた大鎌で長い触覚を整え始めた。足は止めている。


 だが──


「あ! いけね……」


 ジュノが慌てて握り直す魔杖に、魔力の再充填を始めた。


「んんん、今まで何やってたんだっ、このクソイヌッ!」


 今この瞬間、ここにある巨大な敵のわずかな隙。この絶好の機会を前に、この体たらくだ。彼でなくても怒鳴っていただろう。それがパーティなら。




 しかしアーガイルは、掴みかからんばかりに怒号を炸裂させた。


「まさか貴様、再充填を忘れてたんじゃないだろうな!」


 ジュノは肩をすくめて、再充填をしながら小さく言った。


「ごめん、うっかりしてた……」


 アーガイルは地面を踏み鳴らした。


「何やってんだこのトーシロが! だいたいその鼻と耳はなんだ、ふざけてんのか!」



 犬耳と濡れた鼻。ジュノの外見は今、半魔そのもの。彼本来の姿だ。


「しかたないじゃん……しばらくは戻らないんだもん」



 お構いなしに怒鳴りつけたいアーガイルだが、その直後の空気の変化に二人は揃って北を見た。


 メガマンティスの四本の脚がゆっくりと歩み出した。


 右の片翅を失ったそれは、逆三角形の頭部をかるく傾けて少年たちをじっと眺め、前後に揺れながら、近づいてくる。


 目と目が合っている。いや、獲物としてロックされている。敵はジュノとアーガイル、そのどちらかに狙いを定めるか品定めをしている。


 口の隙間から黒い舌をのばし、大鎌の刃を舐めた。


 待ちきれない遊びが近づいているかのように──。







 アーガイルは、メガマンティスに向けて剣を左脇の水平に構え、腰を落としていく。


「クソイヌ、充填チャージは済んだか。俺の右側に回れ」


 ジュノは、言われるがまま、彼の右手へと回った。


「何をするのさ」


「俺の遠距離剣技は弾切れだ。気力が尽きた」


 そのアーガイルは、ジュノを横目で睨んだ。


「再充填は済んだか。射程はいくつだ」


 ジュノの顔がひきつる。けれども、息を吸い込んで、静かに言う。


「あと15秒。射程は42」



 そして押し黙り、所在なさげに視線を落とした。


 それでもなお、疑問は拭えなかった。ジュノは口を尖らせる。


「……でもどうしてベアアントが居るってわかるのさ」


「今は……言えねぇ。目の前の敵に集中しろ」


 メガマンティスが──来る。


「来るぞ」


 アーガイルは、カマキリのシルエットに目を細めてさらに腰を落とした。


「充填完了したよ」


「よし。奴の翅はいま左だけ。ジャンプの後に向きを変えられない。あとは言わなくてもわかるな」


 ジュノは、魔杖をコンバットレディポジションで、マンティスに向けながらうなずいた。


 距離600m。引きつけて撃つしかないが、敵のシルエットは縦長に狭くて細い。左右に揺れながら近づいてくる棒に石を当てるようなものだ。


 となれば、至近距離まで引き寄せる度胸が要る。


 対してアーガイルも、いつでも烈空斬を放てる姿勢のまま、つぶやく。


「俺は左へ行くが、お前はどうする」


 ジュノは即答した。


「右……」


「おっけー……」


 そのアーガイルが歯が微かに震えながら、つよがるように笑った。


「あとは運。恨みっこなしだ……」


 


 たしかに、最期になるかもしれない今だ。


 好かない奴だが、笑顔があってよかった。


 ジュノも横目で微笑み、射撃に差し支えない程度に小さくうなずいた。


「万が一のときは、マールムさんを頼むよ」


ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、明日12:00に公開予定です!

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