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最強と無双をやめたおっさんのもとには、厄介ごとしかやって来ない。【辺境砦の無気力英雄】ゼブラ・ゴーシュはのんびり暮らしたい  作者: 朱実孫六
第五節 樹海ミッション・レベル1

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第33話 巨蟲襲来

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 ジュノの命令が、笹道を背景にして鋭く響いた。


 けれども、森の中から駆けてきたアーガイルに止まる理由がない。むしろジュノの脇を全力で通りすぎていった。


「止まれるかバカ! バグズだッ!」


 叫びながら振り返りもせずに走り続ける。


 むしとジュノが彼を目で追った。


「えっ!? バグズ!?」


 その直後だった。


 前方の森で膨らんで爆ぜた。葉をつけたままの枝が飛び散って、巨大な質量が、文字通り樹木を砕いて飛び出してきた。


 ──大蟷螂メガマンティス


 見上げるような高さに前肢の大鎌を二本掲げ、四つ脚で地を蹴る。そのさまは、まさに、生きた巨大な鐘楼。


 ジュノの顔に、その大鎌が迫る。


「どわああああああああーーーー!!」


 思わず恐怖で持ち上げた魔杖の先端が──閃光を放った。


 火炎魔弾──


 しかし照準もブレていた。放たれた魔弾はメガマンティスの胸部を逸れ、背中に広がる複雑な羽根に炸裂した。


 爆風と熱風がマンティスを揺さぶり、大鎌はジュノの目鼻の先を薙いでいった。彼は顔をそむけ、反射的に手をついた横の地面を引っ掻く。


 そのまま魔杖を掴む右手をのぞく手脚で、南へ──イヌのように駆けた。前方にアーガイルの逃げる背中が見えた。



「なんでッ、なんでこんなの連れて来たんだよ!」ジュノが怒鳴る。


「文句ならゴーシュに言え!」アーガイルも怒鳴り返す。


 二人のさらに前方、逃げる人影がもうひとつ──マールムだ。ポンチョの内側にそのズボンからヒップまでが見えている。


 アーガイルは怒気を込めた顔で振り向いた。


「──クソガキ! あの女とここまで歩いてきたのか!」


 ジュノは首を振る余裕もなく言い返す。


「ダメだ、アーガイル、彼女には気づかないふりをして!」


「そ……そうなのか!」


 一瞬、気圧されたのかアーガイルも納得しかけるが──


「いけねえッ!」


 アーガイルの顔色が一変し、急停止した。


 思い出したのだ。自分が仕掛けていた罠〟pの存在を。


「おい、女! ……マールム、止まれ!」


 叫ぶアーガイルは、自分だけが知る秘密がある。下草につけたこの道の先には、今ごろ南でベアアントの群れができている。


 だがそれをジュノが知る由もない。


「マールムさんなんていない!」


「バカ! ここで戦うしかねぇんだ、協力しろ……!」


 そう言い終わる直前、三つ脚で駆けていたジュノが背後から衝突した。


「うあっ──」


 二人は重なり合って前方に倒れ込み、


「何しやがるてめえ、この!」


「蹴ったな! このキザ剣士! このっ」


 お互い脚で掴み蹴り合い、髪の毛を引っ張った。


「こんなことしてる場合か!」


「──うるさい! 立ち止まるおまえが悪いだろっ!」


 口論しつつ、ふたりは地面を蹴って同時に立ち上がる。


 怒り足りないがジュノは北を見て、アーガイルは南に目をやる。


 羽根に火を上げたままのメガマンティスが、頭部をあおのけて、大鎌で自らの焼ける羽根を叩いている。それはまるで自分の背中で燃え上がっる右の翅を切り落とそうとしているかのように。


 アーガイルは前方で足を止めたらしいマールムの透明なポンチョに安堵した。汗をにじませながら、ジュノに言う。


「クソガキあらため、クソイヌ、あれはお前の魔法か」


「……そうだけど。なにさ!」


 魔杖を握ったまま、ジュノがむくれたように答える。


「よくやった。時間は稼げそうだ」


「え……?」


 瞬間、ジュノの顔が赤くなる。怒りながら照れている。うつむいた。


「ありがと……」


 こうなったら、アーガイルと組むしかない。目でちらと彼もマールムの足もとを見た。


「このまま南に逃げよう。この道、きみが作ったんだろ」


 アーガイルは一瞬黙り、再びメガマンティスに視線を戻した。そして、静かに言った。


「……ここで戦うしかない」


「なんでだよ!」


 吠えたジュノにアーガイルは告げた。マンティスの挙動を注視したまま。


「この道の先には、ベアアントがいる」


 ジュノは、何かを言おうとしたが、それをアーガイルが制した。


「理由はあとだ。見ろ、マンティスの目を。赤いだろ」


 彼の目は決意に満ちていた。剣を握る手に、力が込められる。


「あれは攻撃色だ。怒りで我を忘れている。どこまでも追ってくるぞ」


「じゃあ……」


 ジュノは左右を見回した。


 東西方向にも逃げ道ない。シダの下草が生い茂るなかを進んでも、人の足では巨蟲には敵わない。


 ふと、彼の背中から、人狼化の誘惑が顔を覗かせた。


 しかしすぐに首を振った。


 マールムさんを置いては行けない。


 戦うしかない──


 額の汗をぬぐい、ジュノは顔を上げた。


 見上げるような、あの、背中の火を消し終えた巨大カマキリに向けて。


ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、明日12:00に公開予定です!

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