第32話 迫る羽音と、とびだしてきた男
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謎は解けた。透明な足音の主はマールムだった。
しかし、彼女は二十人からの昼食を準備すると砦では話していたはずだ。それが密かに自分をつけて来ていたことに、ジュノは混乱した。
ともかく、その透明な影から魔杖の先を逸らし、このさき、どうしたものかと思案した。
いっそ彼女が「バレちゃったか……!」とでも言いながら、隠形術を解いて姿を現してくれたほうが、どれだけシンプルに終われるかわからない。
けれども現状は……
笹の間に通る一直線の道の中、南側で微かに揺らぐ空間。その上を──まるで見えない汗が滝のように流れているように感じられる。
どうやらマールムも透明化したままのポンチョの下で、自分と同じく、進退きわまっているらしい。
(とりあえずここは、気がつかないふりで……!)
ジュノは魔杖とともに、くるりと北を向いた、
そしてわざとらしくもつぶやいた。
「……あ、あー。でも勘違いだったかな。まさか、こんなとこに僕以外の誰かがいるわけないもんなー」
振り返って窺うような真似はできないが、芝居は効いたらしい。
透明な足音──明らかにマールム──は、その場で忍び足の撤退を止めた。
ジュノは安堵まじりのため息を漏らした。
(逆に、こんな猿芝居に引っかかるって、それはそれでヤバいよマールムさん……)
心の中で思いながら、ジュノはともかく北に向けて歩き出した。
(……このさきも、ついてくる気かな)
でも彼女はいつから自分をつけてきていたのだろうか。
そう疑問が頭にもたげると、先ほど森を焦がした魔弾が脳裏をよぎった。
あのときコケたのも……彼女だったのかもしれない。
ジュノは恐ろしくなって口に手を当てた。
(──あ、危なかった)
ジュノは安堵に思わず顔をしかめた。
(外れてくれて、ほんとによかった……)
そこにまた新たな疑問も浮かんでくる。
そもそも彼女はなぜ、自分を尾行しているのだろうか。
足を進めるうち、おぼろげながらその答えは輪郭を帯びてきた。
出発前、ゼブラ・ゴーシュが言った言葉がヒントになった。
「──ルールはただひとつ。ジュノとアーガイルの間での殺し合いは禁止だ」
つまり、彼女は〝監視役〟ということではないだろうか。そうならば納得がいく。
(……すべて見られている、ということか)
ジュノは気を引き締め、北へ歩を進める。しばたくは戻りそうにない犬耳と犬鼻が、自然とそちらの気配を探る。
そっと横目で後ろを盗み見る。歪んでいる空間の下に、やはりブーツの先だけが僅かに立っている。まだ透明な彼女は動かない。
ジュノは、無言で北を向いたまま歩いた。
(……さすがにもう、気づいてるよね)
しかし、しばらくして──10mは離れただろうか。後ろで足音が、再び自分の歩調に重なって踏み出すのが聴こえた。
魔杖を抱きしめたまま、ジュノは泣きそうな顔になった。
(やっぱり、気づかれてないと思ってるんだ……マールムさん)
そんな彼の耳が、ふいにぴくりと動いた。それは前方に向けてだ。北側の森に動きがあった、
すぐに森から鳥たちが一斉に舞い上がるのが目に入った。
羽音をばたつかせながら飛んでいくそれらは、恐慌状態にある。
ただ事ではない。何かが起きる前触れに違いないとジュノは足をとめた。犬耳が前を向いて集中し、音を拾う。
──森の中を駆ける、人間の足音は一つ。
先行するアーガイルにしては、それはこちら、南に向けて駆けてくる様子だ。
同時に、規則性のある何かの複雑な振動が近づいてくる。それは、獣ではなさそうだ。
複数の関節を持つ節足動物の、絡みそうで絡まない正確な足取り…。
「バグズか!」
即座に警戒態勢に入る。ジュノは前方の森に向けてコンバットレディポジションで魔杖を構えた。
背中のマールムが気になる。それほどに、前方から来る何かの存在感は圧倒的だった。
犬耳が拾う音が接近を告げる。
(まもなくだ。飛び出してくるぞ)
近い方は二足で駆けてくる音。こちらはアーガイルだろう。
魔杖を構えたまま、森に向けてジュノは声を張った。
「止まれ! アーガイルか!」
──すると森の中から、荒い呼吸と共に、少年の叫び声が返ってきた。
「──そうだ俺だ! やばいことになった……!」
同時に草を蹴り飛ばしてアーガイルが森の中から飛び出してきた。
慌てふためいている顔が、ジュノの魔杖に目を止めた。
「待て待て、撃つなっ──」けれど、その手には抜き身の剣が見える。
ジュノは毛を逆立てて怒鳴った。
「とまれ!アーガイル、剣を捨てろ!」
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次回は、明日12:00に公開予定です!




