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最強と無双をやめたおっさんのもとには、厄介ごとしかやって来ない。【辺境砦の無気力英雄】ゼブラ・ゴーシュはのんびり暮らしたい  作者: 朱実孫六
第五節 樹海ミッション・レベル1

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第31話 透明な影と、ジュノの犬耳

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 笹のパンケーキの中、一直線に刈り払われた道を踏んでジュノ・ジャクセルは歩いていく。


 両脇には、高い笹が密に生い茂り、壁のようだ。


 その狭い一本道の先に、向こうの森が見えている。距離にしてあと500m。





 まるで笹の壁に阻まれているかのような道。左右の視界はゼロに等しい。


 上空を渡っている風の音すら、今はこの道に聞こえない。

 ただ自分が笹を踏む音がしているだけだ。


 立ち止まれば静まりかえる──はずだった。




 ──ジュノは、唐突に、耳の違和感を覚えた。


 自分の足音に、何かが重なって聞こえた気がしたのだ。


 あえて歩調を緩めてみる。


 するとやはり、ほんのわずかに遅れてだが、もう一つの足音が……後ろでしているらしいことに気が付いた。


 背筋をつたい落ちる冷たい汗を、彼はごまかすように足取りを止めない。



 誰かが付けて来ている。勘違いでなければだが。


 ジュノは、歩みを早めた。


 すると、追跡者も足音を早める。


 ──間違いない。


 後方、やや離れた位置で、ジュノ・ジャクセルの足音にややズレて、もう一つの足音が輪唱している。




(どういうことだろう……)


 ジュノは足を止め、あえて振り向かないまま、後方に耳を澄ませた。


 道はちょうどパンケーキの中央部でだ。


 風は聞こえない。笹の防音壁が生み出す静寂の中、もう一つの足音も、やや遅れて立ち止まった。





 見上げれば、笹の道に沿って細い空が北へと伸びている。


 背後には、南に向かって伸びるそれもあるはず。


 ゆっくりとジュノは、南側──自分が歩いてきた道──を振り返った。


 だが、視界に映るのは、やはり、まっすぐな一本道。


 刈り払われた笹の道の上には、何もない。


 来た道がずっと向こうまで続いている、はずなのだが……なぜだかジュノは、目に違和感をおぼえて、何度かまばたきをした。



 どうも目の焦点がおかしい。北側と比べると、南側の道ではほんの少し向こうが歪んで見える。


 以前に寮で近眼の同級生のメガネを借りてかけたときのような、目の違和感。


 南側には、まるでそんな焦点の合わなさ、あるいは空気そのものが陽炎に揺れているような、そんな透明な歪みを感じてしまう。


 ジュノは、小首をかしげ、目をこすった。


(疲れてるのかな……)


 もう一度しっかりと目を開いて見る。しかし、やはり道の中央だけが微弱に、ゆらゆらと、不自然に揺らめいている。


 目を凝らすほどに、焦点がずれていく──


「いや、でも……」


 振り向いた北向きの道には、違和感がない。


 しかし、ここで時間を取られているのも問題だ。


 ジュノは気を取り直し、北へ歩き始めた。


 アーガイルは、もうずいぶんと先に進んでいることだろう。

 この笹を切り裂いた道を見る限り、そういう焦りが心に巣食う。




 だが、その瞬間、またしても足音は聞こえはじめた。


 自分の足音にほんのわずかに遅れて重なる、もう一つの、言うならば透明な足音だ。


 今度という今度は、明確にその出だしを捉えた。


 けれどもジュノは、気づかぬふりで進む。

 ここまで無害なその透明な足音だ。

 幸い、ジュノは霊感を信じないたちだった。


 フェイントをかけて確かめてみるつもりでいる。



 ──数メートルあるいて、予告なく、彼は足を止めてみた。


 すると遅れて、透明な足音も止まった。


(……やはり、おばけなんかじゃないぞ、これは)


 ジュノは歩き出すふりをして、その場でダンスのステップを踏んだ。


 すると背後の足音も、わずかにズレたタイミングで歩き出し、ステップを踏みかけて急停止した。


 ジュノは、もう確信していた。振り返らずに歩き出す。


(間違いない……隠形術マリシエイトだ)






 すなわち、誰かが透明化して後をつけてきているということだ。


 その距離、後方10mほど。


 背後から聞こえる気配に耳を澄ませながら歩くうち、ふと気付いた。自分の耳が犬耳に変化していた。


 ヒトとしての耳は、ややしぼみ、頭頂部の左右から髪をタケノコのように割って三角耳が生えかけている。


(しまった……)


 耳に意識を回しすぎた。


 歩きながら変身を抑えようとする。でも、音に集中すればするほど、耳は反応してしまう。


 気をそらそうにも、後ろからつけてくる足音は気になる。どうしても意識はが後ろに向く。犬耳に続いて、今度は鼻──黒くぬれた犬の鼻──が、人間としての鼻先に浮かび上がってきた。


 耐えきれずジュノは、南へ振り向いた。


 着剣した魔杖の先を、揺らぐ空間に向けて叫んだ。


「──誰です! ついて来ているのは!」


 空気は張り詰めた。


 しかし、10m先で空間は歪んだまま、返事をしなかった。


 ジュノは黙って魔杖を向け続けた。



 すると、その何もない空間から、なにか冷や汗のような気配が滲み出してきた。


 耳が微かな衣擦れを感じる。犬鼻も無風状態の中、薄っすらと香りを嗅ぎつけた。


 ジュノは、その場所を強い意志で見つめる。


 知っている匂い。フローラルでナチュラルなにおい。


 砦で何度も感じてきた、安心と同時に、からかわれる時の香り──でも、そんなはずはない。


 あとは目に頼るしかない。空気の揺らぎに目を凝らし、その表面をなぞるように目で上下して探った。


 そして……足もとに見つけた。


 歪みの真下に、ブーツの足先がはみ出していた。


 そろり、とそのブーツは、向きを変えていく。反転しようとしているのだろう。足の向きがじわじわと、小刻みに変わっていく……


 その最中、側面に縫いつけられたネコの革パッチが覗いた。


 ジュノが思わず、声に出しかけて下唇を噛んだまま、大きくのけぞった。


 喉が勝手に「マ……」と鳴った。


 マールムさんじゃん……


 犬耳と鼻が出たままの彼は安堵してから、慌てて魔杖の先を真上にした。


ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、明日12:00に公開予定です!

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