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最強と無双をやめたおっさんのもとには、厄介ごとしかやって来ない。【辺境砦の無気力英雄】ゼブラ・ゴーシュはのんびり暮らしたい  作者: 朱実孫六
第五節 樹海ミッション・レベル1

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第29話 大蟷螂(メガマンティス)

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 ──行く手を阻む竜巻は、やがて緩やかに止みはじめた。


 風は、アーガイルのまわりで嘘のように静かになった。


 彼は剣先を下ろし、周囲を窺う。


 あいかわらず透明な影は、姿を見せない。だが、やはりどこかで監視しているに違いない。


 自分が道に戻ろうとするたび妙な事を起こしているのは、きっと奴に違いない。

 アーガイルは、歯軋りした。


(ゼブラ・ゴーシュ……!)


 確信のようなものがある。密かに自分をつけ回してきたゴーシュが、ここへ来て妨害を始めたのだ。あの魔法学生を勝利させるために。


「──それほどまでに真剣勝負が怖いか、ゼブラゴーシュ! お笑いぐさだな!」




 竜巻の消失に、道へと駆け戻ったアーガイルの目の前に今度は、一枚の木の葉が、ひらひらと舞い落ちてきた。


「……な」


 振り払おうとしたアーガイルの手を、木の葉は、するりとすり抜ける。


「ん、くそッ……」


 むきになって掴もうとするアーガイルを、どこからか見つめる視線があった。


 陽炎の立つポンチョの内側で、男が、覗き窓から剣士の様子を窺いながら指先を動かしている。


 木の葉は、その指が示すがままに、ひらり、ひらりと舞いながら、アーガイルを東へと導いていく。


 透明化ポンチョの中で、男が呟いた。



「……そうさ、いい子だ坊や。おまえはもっと、そういう可愛げを認めた方がいい」


 ポンチョの覗き窓には、灰色の眼が映る。それはゴーシュの眼。


 内側で薬指の先が欠けた手が、ワルツを指揮するように、遠く一枚の葉を操っている。


 その手先で徐々にアーガイルを、東に向けて誘導している。

 

「──そうそう、そっちだ。せっかくの道だがな、このまま真っ直ぐ行けば……やべえのが巣を作ってっからよ」


 この先の危険地帯へ続く道から、彼が剣士を外れさせようとしているのは明白だった。



 憲兵隊のヘルマン隊長との密約では、追跡者は、走者の保護も負うとしておいた。



 しかし、木の葉に翻弄されているアーガイルの方は、いよいよ我慢ならなくなったのか、突然として特大の烈空斬を、よりにもよってその《《やべえの》》が巣をかけている方向、つまり、北に向けて振り切った。



「──ああっ!」ゴーシュが、思わず声を漏らした。


 斬撃波は、その特大さに見合って森の樹々を薙ぎ倒しながら10メートルどころではない深淵へ向けて、真っ直ぐ向かって行く。


 そう。その奥には、大蟷螂メガマンティスの営巣地があるのだが──。






 けれども、アーガイルの方は、満足げだった。


 真っ二つにした葉っぱを拾い上げ、意気揚々と草笛にして道へと戻る。



 結果、その前方から不気味な炸裂音がし、アーガイルは、何事と、尖らせた口笛の先を向けることになった。


 が、何かが森の先で揺れたこともまた、懲りないゴーシュの妨害だろうとたかをくくっているのかアーガイルは、木っ葉を吹いて捨て、高らかに宣言した。


「もう惑わされん。俺は先に行くからな!」


 その頭上から、まるで千枚の旗がはためいているような音が近づいてくることにも、彼は肩をすくめた。


「しつこいぞゴーシュ。竜巻、木の葉の式、そして今度はなんだ。言いたいことがあるならさっさと姿を現せ!」


 と、その目前に、上方の樹冠をブチ抜いて空から巨大な何かが落ちてきた。


「なっ……」


 地面が揺れ、アーガイルはバランスを崩しかけた。舞い上がった土と落ちてくる枝葉の中でよたつきながら、まだ彼はゴーシュのせいだと決めつけて顔をしかめ、

木立ちの中、突如差し込んだ光と巨大なシルエットに、うんざりとした視線を上げた。


 

 その巨大なシルエットは、青空を背に、薄緑の大鎌を両腕に振り上げていた。


 逆三角形の顔の下で、左右の牙がカチカチと音を鳴らしていた。


 背中で威嚇の翅が、大きく展開し、周囲のシダ葉ごとアーガイルの臓腑までを震わせている。



 彼は、呼吸すらままならず、喉を笛のように鳴らした。


「ひっ……ひいッ」


 尻もちをついて後ずさる。



 見上げるほどの巨蟲は、残存魔力で巨大化したカマキリ。

 しかも、大きく腹が膨らんだ産卵前の凶暴な、メガマンティス。



 十二単のような羽根を複雑に開いて、その体躯をさらに大きく見せている。


 樹木の樹冠にちょうど収まりそうな体高は、三階建ての櫓ほどはあるか。


 顔の双眼が、巣を破壊した小動物に視線を合わせ、攻撃色へと紅潮し、両腕の大鎌を樹海を越える高さまで振り上げた。


 だがそこはアーガイル。即座に反応した。


 身を翻して地面を転がると同時に、その場所がたちまち深く、大きくえぐられた。




 巨木の陰からその様子を見ていた透明な影、ゼブラ・ゴーシュは、


「クソッ」


 肩から魔杖を外し、水平に構え、メガマンティスの胴体を狙うが──



 


 次の瞬間、一目散に走りだすアーガイルを認め、射線を横切る彼にゴーシュは魔杖の先をいったん上向きに外し、真剣な目付きで状況を分析した。



 来た道を、アーガイルは南に向けて駆け戻っていく。


 メガマンティスは、四本の脚を交差して追うが、巨木が邪魔で思うように速度を上げられない様子だ。


 その姿に、透明な影、ゴーシュはポンチョのフードを外し、安堵の表情を浮かべた。


 魔杖は肩に担ぎなおすと、歩きながら彼はタバコに火をつける。


 不意の遭遇なら、剣士は落命していただろう。メガマンティスの大鎌は、家でもケーキのように斬り裂いてしまう。



 しかし、こうなれば話は別だ。

 ついている道を駆ける人間の足に、樹海が邪魔でマンティスは追いつけない。



 美味そうに煙を吐いて、ゴーシュは、悠々とアーガイルの追跡を再開した。


 南へと続く道を踏み、巨木を薙ぎ倒しながらアーガイルを追う身重のメガマンティスの翅を広げた築山のような背中を見もののように眺めながら。


ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、明日12:00に公開予定です!

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