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最強と無双をやめたおっさんのもとには、厄介ごとしかやって来ない。【辺境砦の無気力英雄】ゼブラ・ゴーシュはのんびり暮らしたい  作者: 朱実孫六
第四節 サクラチップのスモークと剣士の密告

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第22話 ジュノの真意をはかる方法とは…

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 防御塔の三階部。応接間で、静かに力場が逆転しはじめた。



 憲兵隊長も、疑っていたわけでは無いが、ゼブラ・ゴーシュの伝説が事実だったことを目の当たりにして、額の汗をハンカチで拭いている。


 けれども当の本人、ゴーシュはと言うと──涼しい表情のままだった。






「憲兵隊の騎馬伝令網をお借りしたい。さすれば三週間ほどで返信は届きましょう」


 その声音には、トゲがなかった。ただ淡々と穏やかなものである。


「その間、ジュノの身柄は私が預かり、砦の内で監視します。いかがでしょう。閣下」


 だがその〝当たり前のような口ぶり〟が、かえって憲兵隊長には重くのしかかる。


「むう……」


 法の番人としての立場では、認めきれない部分があるのだろう。


「その半魔が……魔族の刺客でないと、どうして断言できよう」


 隊長は、うつむいたまま言葉を続ける。


「五年をかけて浸透した工作員が、魔族からすれば〝歩く火薬庫〟、ゼブラ・ゴーシュの寝首をかきに来た。昔の君なら、そう考えていたと、ワシは思うがね」


 もし、この男が殺されればどうなるか──。


 戦力バランスの崩壊。混乱。魔王軍が非武装地帯を突破し、一気に侵攻してくる可能性がある。



「……そうなれば、ぶり返すぞ、戦さが」


 隊長の声には、確信があった。


 ゴーシュは、テーブルの上に置いている視線を動かさず、何かを思い出しているかのようだ。



 窓から差し込んだ西陽が、彼と床を照らし、木目の上に小さな虹をひいていた。



 ゴーシュは言った。


「──閣下。なれば、ジュノの心根を試してみてはいかがでしょうか」


 声には、余裕のような張りがあった。


 隊長は視線を上げた。


「……心根を、試す?」


 ゴーシュは笑む。


「彼の心が、人なのか、それとも魔なのかを試すのです」


「むむ……。しかし、どうやってだね」


 ゴーシュは、静かに答えた。


「あの剣士と、ジュノを競わせてみます」


 


 その提案に、隊長は腕を組み直し、椅子の背にもたれかかった。


「……なるほど。いちど個人間の喧嘩に、争議を戻すわけか」


 考えたのち、隊長は笑顔で肩をすくめた。


「──まぁ。ここより遠い左遷先は、たぶん無いからな。ワシも腹をくくろうか」


 ゴーシュは、厳かに頭を下げた。


「閣下の恩給には響かぬよう、ここは私の一存ということで」


 やりとりに、わずかばかりの笑みが交錯した。


 だが、次の問いには、ゴーシュは少し神妙な面持ちとになった。


「ところで……ジュノの正体については、村のどこまで広まっておりますか」


 憲兵隊長は、ふっと微笑む。


「ワシがこうして出向いているほどだよ。憲兵隊の側では、まだどこにも漏らしてはおらん。しかし、アーガイル自身がどこで話しているかは、分からんな」


 その言葉に、「なるほど」と、ゴーシュは頷く。


 けれども、ニヤと笑んだ。


「ならば、奴はおそらく閣下のほかに、この件を口外してはおりませんな」


 その言い切りに、隊長は、少しだけ身を乗り出して片眉を持ちあげた。


「なぜゆえ、そう思う」


 ゴーシュは、黙って手招きする。隊長が耳を近づけると、こそこそとゴーシュは囁いた。


 


 その内容が、あまりの事実だったのか隊長は、つい大きな声を出した。


「──なんとぉ!? アーガイルめが、マールムどのに身ぐるみを剥がされたぁ!?」


 隊長は慌てて口を塞ぎ、ちらりと螺旋階段の方に視線を走らせた。


 ゴーシュはクツクツと笑った。


「やはり密談は、ここと限りますな」


 隊長もまたハンカチで汗を拭いた。


「なるほどである。それならアーガイルが自らの恥を世間に言いふらして回るはずがないものな。納得であるぞ」


 けれども隊長は、一段と声をひそめて言った。


「……しかし、ゴーシュどの。〝競わせる〟とは、決闘という意味ではあるまいな。そこは認められんぞ」


 ゴーシュは首を振った。


「まさか。一種のレースです。アーガイルの望みとジュノの望み──それらを各々の鼻先にぶら下げて森を走らせようかと」


 ゴーシュの視線が背後の矢狭間に向けられた。


 そこには、北面のDMZに出来た深い森が見える。


 矢狭間に並び立って、ゴーシュは、憲兵隊長に振り向いた。


「無論、この森には巨蟲バグズも潜み、魔王軍のパトロールも巡邏じゅんらしております。どちらかが、あるいは、両名とも人知れず命を落としかねない環境です」


 隊長が、真剣な目で見据えた。


「だからこそ、ジュノ・ジャクセルの本性が量れる──君はそう言うのだな」


 


 ゴーシュも、隊長の目から目を離さずに頷いた。


「その通りです」


 けれども隊長は、おどけて肩をすくめた。


「だが万が一、ジュノ・ジャクセルが危機に瀕した時、そこに君は肩入れしないと言い切れるかね」


 ゴーシュは矢狭間に腰掛けて言った。


「もちろん。……王の名にかけて」


 隊長は肩を落とした。


「そう言われるとワシはつらい……では、彼らの鼻先にぶら下げるものとは一体、なんだね」


 ゴーシュは立ったまま言った。


「アーガイルは私との真剣勝負。ジュノは三カ月間のインターン。もっとも、後者には魔法学校が彼を除籍する可能性もありますが」


「その場合はまた考えよう。むしろワシは、前者が私闘にあたらんか気になるぞ」


 ゴーシュは鼻先を掻いて苦笑いした。隊長は背を伸ばした。


「──まあ、その場合もまた考えよう。では次に環境とルールだな」


「はい。行動を監視するため、両名の後を密かにつけさせましょう」


「妙案だが、そんな真似ができる者はうちにはおらんぞ。今日明日で見つけられるのならよいが……」


 ゴーシュは微笑んだ。


「適任者がおります。軍用の魔法を使うものが、二名ほど」


 隊長は鼻を鳴らした。


「良かろう。では人選を任す。急がねばならんからな。ワシは魔族の第四軍に手紙を書く。演習を実施するとな」


「助かります、閣下」


 隊長は、スモークトラウトを包みはじめた。


「火力の規模はどうするね」


 ここまで即答で答えてきたゴーシュは、そこで少し考えた。


「……では、いつもので」




 矢狭間の窓枠を、雲の影が覆った。


 鳥の影が空を渡っていく。


 防御塔内の協議、桜チップの薫香の中に、ジュノとアーガイルの命を賭したレースは、明日、四月五日。DMZの森で実施すると決定した。


ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、明日12:00に公開予定です!

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