第22話 ジュノの真意をはかる方法とは…
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防御塔の三階部。応接間で、静かに力場が逆転しはじめた。
憲兵隊長も、疑っていたわけでは無いが、ゼブラ・ゴーシュの伝説が事実だったことを目の当たりにして、額の汗をハンカチで拭いている。
けれども当の本人、ゴーシュはと言うと──涼しい表情のままだった。
「憲兵隊の騎馬伝令網をお借りしたい。さすれば三週間ほどで返信は届きましょう」
その声音には、トゲがなかった。ただ淡々と穏やかなものである。
「その間、ジュノの身柄は私が預かり、砦の内で監視します。いかがでしょう。閣下」
だがその〝当たり前のような口ぶり〟が、かえって憲兵隊長には重くのしかかる。
「むう……」
法の番人としての立場では、認めきれない部分があるのだろう。
「その半魔が……魔族の刺客でないと、どうして断言できよう」
隊長は、うつむいたまま言葉を続ける。
「五年をかけて浸透した工作員が、魔族からすれば〝歩く火薬庫〟、ゼブラ・ゴーシュの寝首をかきに来た。昔の君なら、そう考えていたと、ワシは思うがね」
もし、この男が殺されればどうなるか──。
戦力バランスの崩壊。混乱。魔王軍が非武装地帯を突破し、一気に侵攻してくる可能性がある。
「……そうなれば、ぶり返すぞ、戦さが」
隊長の声には、確信があった。
ゴーシュは、テーブルの上に置いている視線を動かさず、何かを思い出しているかのようだ。
窓から差し込んだ西陽が、彼と床を照らし、木目の上に小さな虹をひいていた。
ゴーシュは言った。
「──閣下。なれば、ジュノの心根を試してみてはいかがでしょうか」
声には、余裕のような張りがあった。
隊長は視線を上げた。
「……心根を、試す?」
ゴーシュは笑む。
「彼の心が、人なのか、それとも魔なのかを試すのです」
「むむ……。しかし、どうやってだね」
ゴーシュは、静かに答えた。
「あの剣士と、ジュノを競わせてみます」
その提案に、隊長は腕を組み直し、椅子の背にもたれかかった。
「……なるほど。いちど個人間の喧嘩に、争議を戻すわけか」
考えたのち、隊長は笑顔で肩をすくめた。
「──まぁ。ここより遠い左遷先は、たぶん無いからな。ワシも腹をくくろうか」
ゴーシュは、厳かに頭を下げた。
「閣下の恩給には響かぬよう、ここは私の一存ということで」
やりとりに、わずかばかりの笑みが交錯した。
だが、次の問いには、ゴーシュは少し神妙な面持ちとになった。
「ところで……ジュノの正体については、村のどこまで広まっておりますか」
憲兵隊長は、ふっと微笑む。
「ワシがこうして出向いているほどだよ。憲兵隊の側では、まだどこにも漏らしてはおらん。しかし、アーガイル自身がどこで話しているかは、分からんな」
その言葉に、「なるほど」と、ゴーシュは頷く。
けれども、ニヤと笑んだ。
「ならば、奴はおそらく閣下のほかに、この件を口外してはおりませんな」
その言い切りに、隊長は、少しだけ身を乗り出して片眉を持ちあげた。
「なぜゆえ、そう思う」
ゴーシュは、黙って手招きする。隊長が耳を近づけると、こそこそとゴーシュは囁いた。
その内容が、あまりの事実だったのか隊長は、つい大きな声を出した。
「──なんとぉ!? アーガイルめが、マールムどのに身ぐるみを剥がされたぁ!?」
隊長は慌てて口を塞ぎ、ちらりと螺旋階段の方に視線を走らせた。
ゴーシュはクツクツと笑った。
「やはり密談は、ここと限りますな」
隊長もまたハンカチで汗を拭いた。
「なるほどである。それならアーガイルが自らの恥を世間に言いふらして回るはずがないものな。納得であるぞ」
けれども隊長は、一段と声をひそめて言った。
「……しかし、ゴーシュどの。〝競わせる〟とは、決闘という意味ではあるまいな。そこは認められんぞ」
ゴーシュは首を振った。
「まさか。一種のレースです。アーガイルの望みとジュノの望み──それらを各々の鼻先にぶら下げて森を走らせようかと」
ゴーシュの視線が背後の矢狭間に向けられた。
そこには、北面のDMZに出来た深い森が見える。
矢狭間に並び立って、ゴーシュは、憲兵隊長に振り向いた。
「無論、この森には巨蟲も潜み、魔王軍のパトロールも巡邏しております。どちらかが、あるいは、両名とも人知れず命を落としかねない環境です」
隊長が、真剣な目で見据えた。
「だからこそ、ジュノ・ジャクセルの本性が量れる──君はそう言うのだな」
ゴーシュも、隊長の目から目を離さずに頷いた。
「その通りです」
けれども隊長は、おどけて肩をすくめた。
「だが万が一、ジュノ・ジャクセルが危機に瀕した時、そこに君は肩入れしないと言い切れるかね」
ゴーシュは矢狭間に腰掛けて言った。
「もちろん。……王の名にかけて」
隊長は肩を落とした。
「そう言われるとワシはつらい……では、彼らの鼻先にぶら下げるものとは一体、なんだね」
ゴーシュは立ったまま言った。
「アーガイルは私との真剣勝負。ジュノは三カ月間のインターン。もっとも、後者には魔法学校が彼を除籍する可能性もありますが」
「その場合はまた考えよう。むしろワシは、前者が私闘にあたらんか気になるぞ」
ゴーシュは鼻先を掻いて苦笑いした。隊長は背を伸ばした。
「──まあ、その場合もまた考えよう。では次に環境とルールだな」
「はい。行動を監視するため、両名の後を密かにつけさせましょう」
「妙案だが、そんな真似ができる者はうちにはおらんぞ。今日明日で見つけられるのならよいが……」
ゴーシュは微笑んだ。
「適任者がおります。軍用の魔法を使うものが、二名ほど」
隊長は鼻を鳴らした。
「良かろう。では人選を任す。急がねばならんからな。ワシは魔族の第四軍に手紙を書く。演習を実施するとな」
「助かります、閣下」
隊長は、スモークトラウトを包みはじめた。
「火力の規模はどうするね」
ここまで即答で答えてきたゴーシュは、そこで少し考えた。
「……では、いつもので」
矢狭間の窓枠を、雲の影が覆った。
鳥の影が空を渡っていく。
防御塔内の協議、桜チップの薫香の中に、ジュノとアーガイルの命を賭したレースは、明日、四月五日。DMZの森で実施すると決定した。
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次回は、明日12:00に公開予定です!




