表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強と無双をやめたおっさんのもとには、厄介ごとしかやって来ない。【辺境砦の無気力英雄】ゼブラ・ゴーシュはのんびり暮らしたい  作者: 朱実孫六
第四節 サクラチップのスモークと剣士の密告

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/42

第18話 陽だまりと煙の向こうの戦場

お気に入り登録、評価などありがとうございます!


 納屋の表の陽だまりに、ゴーシュとジュノは丸太の輪切りを、それぞれ持ち出してきた。



 向かいあって腰掛ける。



 空は高く、雲もない。


 冬の陽ざしが、目に暖かい。


 


 


 ジュノの心臓は跳ねていた。


 面とむかった先にこうして、ゼブラ・ゴーシュがいる。


 それだけでも夢心地なのに、今日はこれから自分に何か大切なことを教えてくれるらしい。集中力で押し込めているが、うっかりすれば尻尾が生えて、激しく振れてしまいそうだ。




 そんなジュノと、ゴーシュが手にそれぞれ持っているのは、折りたたみ式のツールナイフ。王国軍支給品の、缶切り付きの、なんと言うことはない折りたたみナイフだ。


 ただし、ジュノのそれはまだ新しく、ゴーシュのほうは使い込まれているし、刻印が一つ足りない。


 


 ゴーシュがそれを手に。サクラの小枝を束ねている紐をくいと引き、手早く解いた。


 そして束から小枝の半分を、ジュノに取り分けて手渡した。


「こいつをな、鉛筆を削るようにナイフで、まずは薄く削っていく」


 そう言って、ヤニで染まった陶皿を一枚、真ん中あたりに置いた。


「どう削ってもいい。ただしこの皿の上に集めてくれ」


 ゴーシュが手本を見せるように、足もとに置いた木の板の上へと、小枝の削り片を落としていく。


 ジュノは、手順を真似た。削ること自体は、そう難しい課業ではない。


 けれども、枝を尖らせる事に目的があるのか、それとも削り片が欲しいのか、いまいちはっきりしない。どちらに精度を出したらいいのか分からなかった。


 ジュノは戸惑い、手を止めた。


「これは、いったい……?」


 


 そんなジュノに、ゴーシュは言った。


「桜のチップだよ。スモークに使うんだ」


「──というと、煙幕ですか?」


 ゴーシュは手を止めず、枝をどんどん小さくして、しまいには縦半分に割って全てを皮付きの小片に変えた。


「違うよ。そっちの煙幕スモークには生木さ」


 けれども今日のスモークはスモークでも、意味が違う。ゴーシュはそう言うと、タバコをくわえて火をつけ、次の小枝を手に取った。


「今日の教えは燻製作り。昨日のマスを、サクラのチップで燻製スモークにする」


 どうもゴーシュのタバコにはスパイスが混ぜ込んであるらしい。刺激めく香りにジュノの鼻がムズムズする。


 その様子を目にしたのか、ゴーシュがタバコを消した。


「おめえ、半魔でも、人狼なんだってな」


「はい……」


 ゴーシュは、ナイフで小枝を削りながら、間を置かずに言った。


「仔イヌっぽいとは思ってたが。まさかオオカミとはなぁ。鼻は利くのかい」


 ジュノも足もとの板に、二本めの小枝から削り片を落とし始めた。


「はい。鼻と耳が得意です。逆に目は、色がよく分からないみたいですし、遠くが見えないみたいです」


 

「ふうん」


 ゴーシュは、削りかけの小枝の断面を自分の鼻に近付けて、匂いを嗅いだ。


「これ、なんの枝かわかるかね」


 ジュノにはもう、それが何だか分かっている。


「サクラですよね」鼻先を近付けもせず彼は即答した。


 ゴーシュは、嘆息を漏らした。


「ほお。さすがだな」


 ジュノがイタズラっぽく笑んで見せた。


「見たらわかります。皮の模様で」


 ゴーシュは、嗅いでいた小枝を老眼の目から遠ざけて眺めた。


 ジュノは師を真似て、最後に残った枝の末を縦半分に割って落とす。


「しかし、戦場の心得って、ほんとうにスモークトラウト作り……なのですか」


「そう。士気に関わる」


「……ご冗談、ですよね?」


 ゴーシュは首をすくめた。


「大真面目さ」


 ジュノの手にある枝も、冬の間に払った枝らしい。ゴーシュは言った。


「戦場の心得、その三、〝暇つぶし〟。そう言ったろ。だからヒマそうに削るぜ、もう何日も戦闘なんか起きていない想定でな」


 


 それきり、ふたりは黙々と小枝を削った。


 陽射しが、また一段と高くなり、丸めた背中を温めてくれる。


 残る小枝は二本。


 砦の主人が削りだす小片は、薄くもないが、厚くもない。


「薄いと燃えちまう。厚いと消えちまう。人間、くすぶるのに、ちょうどいい厚さってのがあるんだよな」


 ジュノの手つきの変化に、ゴーシュは笑んだ。


 そう。手を動かし続けることが大切なのさ。彼はそう言うと、最後の一本を手にして、年季の入った刃でゆっくりと削いだ。


 ちょうどいい厚さのチップが、板の上を外れずに落ちていく。


 けれどもジュノには、これが何のための授業なのか、いまだに疑問だった。


 それでも枝を削っていくジュノは、チラとゴーシュを上目に見た。


 また、無言のまま作業は続く。


(これ、生存自活訓練なのかな……)


 朝の杞憂とは、また違った種類の不安が胸をかすめていく。


(でもゴーシュさまは、暇つぶしの訓練って言ってたし……)



 が、気づけば手の中の枝はまた末だけを残してちびていた。




 見れば、ゴーシュの方は、まだ半分も残っている。


 タバコを吸いたそうに、彼がぽつりとつぶやいた。


「──戦さ場ってのはな」


 話題の転換に、ジュノは背筋を伸ばした。


「おまえさん方みたいな、パッと咲いてパッと散るような、花形職種ではそうでもないかも知れないが」


 そうゴーシュは前置きした。


「おれたちみたいなのは、移動して、メシ食って、また移動……。運次第だが、意外とヒマなもんでね」


 たまに魔法をぶっ放して、生きてたらまた移動。敵の泣き顔を見ないで済む代わりに、商売道具の手入れをして、飯食って寝て起きて、また移動……。


 淡々とした口調で語られる戦場の光景は、プレスの効いた制服を着て横並びに腰を掛け、チャイムが鳴るまで耳を傾けていればいいウィンゲートの講義のような折り目の正しさがない。


「終わりが見えねえんだ。屋根と壁のない牢獄みたいなもんって考えるといい」


 そんな拘禁状態が続くと、気が滅入ってくる。


「学校や訓練のほうがよっぽど忙しい。息つく暇もなく課業が詰め込まれているからな。しかし、本番はそうでもない」


 ゴーシュは手癖で取り出しかけたタバコを、箱に収めて言った。


「塹壕なんかの時にゃ、特にひどい。何にもせず、ひと月、泥水に映る空を見て過ごすなんてこともザラだ」


 だからこそ、と、ゴーシュはサクラのチップを陶皿にまとめる。


「そんな時は、生きてることを、こうやってちまちまとな。手仕事で楽しめる人間じゃなきゃあなんねぇってわけさ」


ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、明日12:00に公開予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ