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最強と無双をやめたおっさんのもとには、厄介ごとしかやって来ない。【辺境砦の無気力英雄】ゼブラ・ゴーシュはのんびり暮らしたい  作者: 朱実孫六
第四節 サクラチップのスモークと剣士の密告

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第17話 十三番目の半魔(おしえご)

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「はい! ジャクセル生徒、起きています!」


 そう叫びながらジュノの手は、もう毛布を高速で畳みはじめている。


「ちょっと考え事をしていて、起床が遅くなりました、申し訳ありません!」


 声を張るジュノに、戸の外からは、ゴーシュの呑気な声が返ってきた。


「あー、構わん構わん。今朝は風呂もいい。それより入るぞ。さみいんだ。いいか?」






「どうぞ!」



 返答するや否や、戸が開かれ、冷たい外気と一緒に無精髭の中年男が顔をのぞかせた。


「うっへ、中もさみいや。おいジュノ、おまえこんなとこで寝てんのか……」


「はいっ、大丈夫です! 寒さには強いので!」


 応えながら、ジュノは畳み終えた毛布を背中にし、踵を合わせて不動の姿勢をとった。


「おはようございます!」


 ゴーシュは「おう」とだけ興味なさげに応え、綿入り半纏の中ですくめた寒そうな首を、壁際に積まれた薪の束へと向けてジュノに言った。


「昨日は悪かったな。礼を言い忘れた。ありがとよ」


 ジュノは恐縮してうつむいた。


「とんでもないことです!」


 ゴーシュはジュノの前を横切って、薪の束の上に手を伸ばす。


「いや。マールムもあれで、まだ甘いとこがある。バグズや魔物相手ならなんとかなるが、人間相手だとイマイチ腹がすわんねえ」


 そう言いながら、慎重に引っ張り出したのは、樹皮の艶やかな乾いた小枝の束だった。


「あったぜ、コレだよ、これ。いい感じに乾いてら」


 ゴーシュは満足げに笑み、「ついてこい」と顎をしゃくって表に出る。


 ジュノは、目で追った。


「お手伝いですか!?」


 その声に、ゴーシュは振り返って、にやりと笑んだ。


「ああ。今日も教えることがある」


 ジュノは、喜びと期待で膨れ上がった。


「ご教示いただけるのですか!」


「んまぁ。ご大層なモンではないがなぁ……」ゴーシュは、陽光の中で振り向いた。


「んまあ、戦さ場じゃ、メシと睡眠の次に大事なことさ」


 そう言いながらゴーシュは、自分のポケットをに手を突っ込んだ。


「ナイフはあるか、ジュノ」


 ジュノは、不動の姿勢のまま、生唾を飲みこんだ。


「ナイフ……? ば、ば、杖剣バイヨネットのことでありますか!」


 

 杖剣とは、魔杖の先端に取り着けて使用する短剣のこと。接近戦時には、着剣した魔杖を槍のように執って戦う。


 と、なると、さすがゴーシュさまだ。ジュノはそう思って緊張した。杖剣格闘は最も不得手とする課業だった。


「……バックパックの中にありますが、出しますか」




 けれどもゴーシュは、ポケットの中から畳み込んだままのツールナイフを取り出して、彼に見せた。


「いや、こっちのナイフさ。持ってんだろ? 缶飯あけるやつ」



 そして、頷いてバックパックに取り付いたジュノの背中から、納屋の屋根を越えて天を仰いだ。


 誰かに語りかけるように、呟いた。


「なんだってまぁ。まさか十三人目も──とはね」


 ジュノは、硬く結んでしまっていたバックパックの開封に手間取っていて、そこを聞き逃していた。


 でも、気になって振り返った。


「いま、なんと」


 ゴーシュは、彼に笑んだ。


「なんでもねえよ。それよりも──今日のレッスンは、戦場の心得 その三。暇つぶしだ」


 朝の光が、ゼブラ・ゴーシュの息を透かして青空に虹をかける。


 ジュノは、戸口から差し込む陽光と、そんな英雄の姿の取り合わせに見惚れた。


 南の岩山を見上げるゴーシュの横顔は、もう戻らない何かに目で語りかけているように見える。


 言葉にならない何かを、ジュノは喉の奥に押し込めた。


ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、明日12:00に公開予定です!

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