第17話 十三番目の半魔(おしえご)
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「はい! ジャクセル生徒、起きています!」
そう叫びながらジュノの手は、もう毛布を高速で畳みはじめている。
「ちょっと考え事をしていて、起床が遅くなりました、申し訳ありません!」
声を張るジュノに、戸の外からは、ゴーシュの呑気な声が返ってきた。
「あー、構わん構わん。今朝は風呂もいい。それより入るぞ。さみいんだ。いいか?」
「どうぞ!」
返答するや否や、戸が開かれ、冷たい外気と一緒に無精髭の中年男が顔をのぞかせた。
「うっへ、中もさみいや。おいジュノ、おまえこんなとこで寝てんのか……」
「はいっ、大丈夫です! 寒さには強いので!」
応えながら、ジュノは畳み終えた毛布を背中にし、踵を合わせて不動の姿勢をとった。
「おはようございます!」
ゴーシュは「おう」とだけ興味なさげに応え、綿入り半纏の中ですくめた寒そうな首を、壁際に積まれた薪の束へと向けてジュノに言った。
「昨日は悪かったな。礼を言い忘れた。ありがとよ」
ジュノは恐縮してうつむいた。
「とんでもないことです!」
ゴーシュはジュノの前を横切って、薪の束の上に手を伸ばす。
「いや。マールムもあれで、まだ甘いとこがある。バグズや魔物相手ならなんとかなるが、人間相手だとイマイチ腹がすわんねえ」
そう言いながら、慎重に引っ張り出したのは、樹皮の艶やかな乾いた小枝の束だった。
「あったぜ、コレだよ、これ。いい感じに乾いてら」
ゴーシュは満足げに笑み、「ついてこい」と顎をしゃくって表に出る。
ジュノは、目で追った。
「お手伝いですか!?」
その声に、ゴーシュは振り返って、にやりと笑んだ。
「ああ。今日も教えることがある」
ジュノは、喜びと期待で膨れ上がった。
「ご教示いただけるのですか!」
「んまぁ。ご大層なモンではないがなぁ……」ゴーシュは、陽光の中で振り向いた。
「んまあ、戦さ場じゃ、メシと睡眠の次に大事なことさ」
そう言いながらゴーシュは、自分のポケットをに手を突っ込んだ。
「ナイフはあるか、ジュノ」
ジュノは、不動の姿勢のまま、生唾を飲みこんだ。
「ナイフ……? ば、ば、杖剣のことでありますか!」
杖剣とは、魔杖の先端に取り着けて使用する短剣のこと。接近戦時には、着剣した魔杖を槍のように執って戦う。
と、なると、さすがゴーシュさまだ。ジュノはそう思って緊張した。杖剣格闘は最も不得手とする課業だった。
「……バックパックの中にありますが、出しますか」
けれどもゴーシュは、ポケットの中から畳み込んだままのツールナイフを取り出して、彼に見せた。
「いや、こっちのナイフさ。持ってんだろ? 缶飯あけるやつ」
そして、頷いてバックパックに取り付いたジュノの背中から、納屋の屋根を越えて天を仰いだ。
誰かに語りかけるように、呟いた。
「なんだってまぁ。まさか十三人目も──とはね」
ジュノは、硬く結んでしまっていたバックパックの開封に手間取っていて、そこを聞き逃していた。
でも、気になって振り返った。
「いま、なんと」
ゴーシュは、彼に笑んだ。
「なんでもねえよ。それよりも──今日のレッスンは、戦場の心得 その三。暇つぶしだ」
朝の光が、ゼブラ・ゴーシュの息を透かして青空に虹をかける。
ジュノは、戸口から差し込む陽光と、そんな英雄の姿の取り合わせに見惚れた。
南の岩山を見上げるゴーシュの横顔は、もう戻らない何かに目で語りかけているように見える。
言葉にならない何かを、ジュノは喉の奥に押し込めた。
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次回は、明日12:00に公開予定です!




