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最強と無双をやめたおっさんのもとには、厄介ごとしかやって来ない。【辺境砦の無気力英雄】ゼブラ・ゴーシュはのんびり暮らしたい  作者: 朱実孫六
第三節 ジュノ・ジャクセルの背中に触れたもの

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第15話 戦場の心得② 夜、考えごとに答えを出すな

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 ジュノは、床に正座したままうなだれた。


「──はい」


 ゴーシュは身を起こし、同じく床にあぐらをかいたまま、マールムからバスタオルを受け取って彼に促した。


「アーガイルの件は、どうやらコッチが礼を言わなきゃならんらしい。ありがとよ。この通りだ」


 そう言って頭を下げた彼に、ジュノは慌てた。


 マールムは鱒の連なった紐を持ち上げて、キッチンに向かった。


 ゴーシュは手を膝について、ジュノの黒髪を乱暴に撫でた。


「ほら、オメーも立て。座るぞ」


 席について、ジュノは生い立ちを聞かせた。







 先の大戦中、人狼ライカンの捕虜と、人間の父のあいだに、自分が生まれたこと。


 それは不幸の内にではなく、許されぬ道とはいえ、ひとつの恋だったこと。


 だがその父母を、魔王軍の攻勢で九歳のとき失い、寝食にひかれて人間側の軍の門を雑用係として叩いて一年後、王都の名門ヴォルモール家から迎えが来たこと。




「父は、ヴォルモールの前当主の非嫡出子だったそうです」


 彼自身、その事実を知らずに育ち、一兵士として生を終えたこと。




 そこから五年。出自を隠すことを条件に、ヴォルモール家の口利きで魔法学校へ通わせてもらい、半魔である正体は隠し続けてきたこと。


 ここまで語りきるのに、約一時間。



 その間、マールムが鱒をバターとハーブで香ばしく焼き上げた。


 


 話は次に、ヴォルモール家の家督争いと、ジュノの家系上の立ち位置に移った。


「いま本家には、女児しかおりません」


 ゴーシュは無精髭をなぞった。


「──ふむ。悩ましい問題だな」


 暖炉に薪を足すことを忘れたまま、夜は更けていく。


「養子をとるか、お前という半魔を呼び戻すか」


 酒の類に手を出すこともなく、ゴーシュはしらふのまま彼の話に耳を傾けた。


 





 沸かしておいた風呂には入らず、ゴーシュは布団に入ってしまった。


 ふて寝にも見えたが、彼は腰を上げる前に、こうも言った。


「一晩で聞くには惜しい話だ」


 それは、彼なりの猶予の出し方だったのかもしれない。



「おれは眠い、ジュノ、お前も寝ろ」


 ゴーシュは目をこすった。


「戦場の心得、その二だ。おれは夜、考えごとに答えを出さないことにしている」


 そう言いながら彼は寝室に消えた。



 


 残されたマールムは、ジュノと食器を片付けながら呟いた。


「お気になさらず。お師匠さまは、いつもああなんですよ」


 考え事があると、すぐ布団に逃げ込む。彼女はそう言うけれども、表情には、微笑みを浮かべている。


 ジュノは、恐縮したように縮こまった。


「──面倒を持ち込んでしまって、すみません」


 人外を、砦に置いておけるわけがない。軍紀が許さない。曲がりなりにもここは最前線の砦。そして、ゼブラ・ゴーシュはここの司令官。


「あ、そうじゃなく」


 マールムは失言したかのように手を振った。


「ジュノさんのことじゃないんですよ。お師匠さんにも、まぁ、いろいろとあって……」


 マールムにも、半魔には、色々と思い出がある。


 彼女は、ジュノを勇気づけるように微笑んだ。


「明日まで待ってみましょう」


 そう言うと、マールムはテーブルを拭きにかかった。


「もしも、お師匠さまが、そんな真っ当な軍人なら、まだ王都で仕事をしていたでしょうから」


 ジュノは、足もとの戸棚を閉めて顔をあげた。


「真っ当な……軍人?」


 マールムはうなずきながら、テーブルに磨きをかける。


「そう。言わずもがなの殿軍の英雄でしょ。将軍職の声がかかっていたのに、陛下に直談判してね。なにを好んでこんな最果ての地に来たのか……」


 苦笑しながらマールムは、流しに立って布巾を絞る。


「でも今は、わたしもこっちのほうが好きかな。お師匠さまも、昔よりのんびりしてるし」


 ジュノは、想像した。王都でのゼブラ・ゴーシュを。


「軍服を着たゴーシュさま、どんなだったんでしょうね」


 マールムも微笑んだ。


「──けれど、あれで不思議と朝には答えを出していますから、寝ながら考えているのかもしれません」


 ジュノも微笑んで、うつむいた。


 たしかに、今すぐ出て行けとも、言うことはできたはずだ。


「では。もう一晩、ご厄介になります」


 そう言って、尻尾を振りながら、頭を下げた。



「ジュノさんも、今夜は早くお休みください。あとはわたしが」


 その手を動かしながら、保存用にと残りの鱒を塩とハーブに漬け込む彼女が思い返しているのは──


 先ほど激昂しながら、ゴーシュが叫んだ言葉だ。


〝おれの娘に──〟


 そう、たしかに師匠は言っていた。


 横顔であったが、ゴーシュから彼女が〝娘〟と呼ばれたのは、初めてだった。


 だから、マールムは上機嫌だった。


 目尻が緩んだままだ。


 その背中も、どこかしら歌っているように見える。


 


 窓の外に、月が見えていた。


 遠くでひとつ、オオカミが吠えた。


 くべたばかりの薪も、暖炉で赤々と燃えていて、部屋は暖かだった。


 



 ◇ ◇ ◇


ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、明日12:00に公開予定です!

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