表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強と無双をやめたおっさんのもとには、厄介ごとしかやって来ない。【辺境砦の無気力英雄】ゼブラ・ゴーシュはのんびり暮らしたい  作者: 朱実孫六
第三節 ジュノ・ジャクセルの背中に触れたもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/42

第11話 アーガイルに…ばらしちゃったみたいです

お気に入り登録、評価などありがとうございます!


 朝日の下、剣士がひとり、山道をこちらへ向かってくる。


 ジュノは、陽の眩しさに目を細めた。


 茶色の革鎧に、帯剣している。髪色は金。端正ながら陰気な面持ちが見えてきた。



 ジュノに覚えはなかったが、それは昨日、ゴーシュを訪ねてきた不遜な男──アーガイルであった。





 長身のアーガイルは、通りすがりに足を止め、ジュノを一瞥した。


「見ない顔だな」


 ジュノは、軽く頭を下げながら返した。


「インターンです。王都のウィンゲート魔法学校から来ました」


 その一言で、アーガイルの眉がぴんと吊り上がった。


「……インターン?」


 その目が訝しむように、鋭くなる。


 魔法学校のインターン──それは、最終学年に課される実務研修だ。当然、指導者がいない場所には訪れない。


 アーガイルは悟った。つまり、ゼブラ・ゴーシュはこの砦に戻ってきている。


 険しい顔つきで剣士は、ジュノへと向き直った。


「ならばインターン。ゼブラ殿は、いつ戻られたのだ」


 ジュノは、意味がわからないのだろう。考える間を置き、知るところを正直に口にした。


「戻るもなにも、いま釣りに……じゃなくて、パトロールに出られたところです! はい!」


 剣士は、端正な顔を歪めた。


「ちがう。討伐からは、いつお戻りになったかと聞いておるのだ」


 語気強く問われたものの、ジュノには、〝討伐〟の真意がゴーシュの〝居留守〟だった事がわからない。


 戸惑いに苦笑するほかなく、彼は首を傾げた。


「……詳細は、わかりかねますが、ともかく昨日は砦においででしたけど」


 聞いたアーガイルは額に手を当てた。苦々しい表情だった。


「なんという事……」


 小さくつぶやくと、彼は金の前髪を横に流し、気持ちを切り替えた。ジュノを睨みつけ、短く言いながら母屋へ足を向けた。


「──感謝するぞ、インターン。俺が馬鹿だった」


 言い残し、アーガイルは迷いなく踏み出した。


 赤土の道を踏むブーツの音が、とけた霜柱の跡を踏んでいく。


 その背中にジュノは、思わず声をかけていた。


「いや、ですからゴーシュさまは今、ご不在です」


 剣士は、振り返りもしなかった。


「黙れ! ゼブラ・ゴーシュに代償を払ってもらうのだ!」




 ジュノは背筋に、冷たいものを感じた。小走りに追いかけた。


「──アーガイルさん、本当なんです!」


 横へ回って続けた。


「ゴーシュさまは今、森に行ってます、母屋には誰もいません!」


 しかしアーガイルは止まらない。


 風で、鳥の声が途切れた。どこかから転げたバケツの音がした。



「もはやその手は通じぬ。今日こそ偽りの英雄と試合をして、俺は王都に戻る!」


 ジュノは足を止めた。



「……偽りの、英雄?」


 その瞬間だった。


 バンッ、と泥をはねてアーガイルの足元が、大きく爆ぜて飛び散った。


 それぞれ彼らは咄嗟に、一メートルほど左右へ跳び退いていたが、ぬかるんだ赤土が舞い落ちる中、木クズの焦げた臭気は煙と共に風で流れた。


 


 

 ジュノは体勢を低く保ち、周囲を見渡す。


 アーガイルは、進んでいた赤土の道に──籐籠ほどの深さですり鉢状の穴が穿たれているのを認めた。


 ジュノは射角から考えて、南にある防御塔の屋上に目を凝らした。遠距離からの攻撃魔法だと思われたからだ。けれど、屋上にも弓狭間にも、怪しい影はない。



 アーガイルのほうは、剣の柄に右手をかけ、まるで皮膚で気配を読むように半眼のまま、耳を澄ませている。


 改めて、ジュノは、地面に穿たれた魔法の痕跡に目を移した。


 それは、剣士の足取りのすぐ先を狙った〝警告〟だと、判断できた。


 けれども、誰が、どこから放った魔法なのか。

 ジュノは考えながら、目を走らせ、風上に向けて鼻先を上げ、耳を動かした。



 ゴーシュさまか。いや。気配は、風の中、匂いも、音もない。


(だとするとまさか……マールムさん……)


 そう思いついてジュノが前方を見上げると、母屋から、毅然とした声がした。




「──ゴーシュは出ております。ご用件なら、このマールムがうかがいます」


 その声は、確かに、彼女だった。ジュノがこれまで聞いたどの彼女の声よりも低く、冷淡だった。


 目を凝らすと、母屋の玄関そばで、リビング付近だろうか窓が薄く上がっていた。


 マールムは、その隙間から魔杖の先端を覗かせている。


「その場から動かず、御用の向きをおっしゃってください」


 声には、アーガイルへと命じる迫力があった。



  ◇



 剣の柄から手を離し、アーガイルは、リラックスした様子を見せた。


「その声は、いつも奥にいるお嬢さんか」


 その横でジュノは、地面のぬかるみに片膝をついたまま、彼が声のする位置をまだ母屋に探っている様子を盗み見た。


「父親ともども、よくも俺を一ヶ月間、たばかってくれたな」


 アーガイルの横顔は、金色の髪を風になびかせている。演説するかのように姿勢も良い。


 けれど、母屋からのマールムの返答は、変わらず冷淡だった。


「ゴーシュは他流試合を受けません。お引き取りを願ってのこと」


 抑制の効いた拒絶。だが、アーガイルの目には光が灯ったままだ。


「……つまり、噂どおりということか」


 冷たい笑いを浮かべ、彼は、砦の内に響き渡るような声をあげた。


「ゼブラ・ゴーシュ! 物陰にひそんで卑怯な騙し討ちしかできぬ男!」


 石組みの防御塔キープと南面の崖に反響して、その罵倒は虚しく消えていった。


 剣士は油断なく周囲を見回している。


 おそらく彼は、ゴーシュがどこかに潜んでいるものと踏んでいるらしい。


「偽りの英雄! 出てこない気なら、こちらにも別の策があるぞ!」


 そう声を張ってから彼は長い髪を後ろで束ねた。


 ジュノの背に、嫌な汗が流れた。


(火でも放つつもりか……?)


 そう思えるほど、アーガイルの横顔に目付きが険しかった。


 剣士は、母屋に向けて最後通牒のように告げた。


「手荒な真似はしたくない。お嬢さん、一緒にふもとの村まで来てもらえないか」


 ジュノは、思わず立ち上がった。


「アーガイルさん!」


 意外そうに振り向いた彼を、ジュノは本気で見据えた。


「一緒に来いとは、どういう意味ですか。人質に取るってことですか!」


 アーガイルは、天を仰ぐように笑った。


「そうか、マールムというのか」


 思わず口を押さえたジュノに、彼は続けた。


「礼を言うぞ、ちびすけ」


 そして母屋に正面を向けた。


「剣士と見て侮るな。こちらにも、そこまで届く剣技はある」


 ジュノは押さえていた口を開こうとしたが、マールムの声が先だった。


「わたしを人質に取ったところで、ゴーシュは試合に応じません」


 そんなことって、あるだろうか。ジュノは思ったが、アーガイルのほうは母屋に向けて口角を持ち上げた。


「ご忠告に感謝する。だったら作戦を変える」


 ジュノが呟いた。


「どうする気です」


 アーガイルは、口もとに冷ややかな笑みを湛えたまま、目を曇らせた。


「仕方ない。同じ気持ちになってもらうしかない」


 ジュノは彼を睨みつけた。


「同じ、気持ち……?」


 アーガイルは、ジュノを横目で睨みつけた。


「理由もなく身内を奪われる気持ちを、ゼブラ・ゴーシュにも一度。味わってもらう」


 ジュノには、今からマールムを殺める、そうとしか取れなかった。


「そんなの無法だ!」


 そこで、ジュノの横っ面に無拍子の裏拳が飛んだ。


 吹っ飛ばされながら、一瞬、青空が見えた。



 赤土の上、泥を散らしながら転がったジュノが手を着いたのは、剣士の背中側だった。


 恐るべき膂力だ。ジュノは、口もとで血混じりの泥を拭った。


 眩暈のする頭を振って、彼が地面から体を押し上げると、寸鉄帯びていない姿を侮辱するような目でアーガイルが言った。


「魔法屋ふぜいが。素手で剣士にかなうと思うか。ましてや口先で」


 そうつぶやくと、剣士は再び母屋の方に向き直った。


「繰り返すぞ。マールムどの。事を荒立てたくないのだ。出てこられよ」



 少年は、四つん這いのまま、悔しさに、泥の中で爪を握った。


 ──敵は外にのみあると思うな。


 昨日、ゴーシュさまから受けた教えなのに。



 砦の内側だった。

 しかも相手は人間だった。



 そんなのは、もう言い訳にならない。全ては魔杖を持っていなかった自分の油断だ。


 ジュノは自分への怒りで、口の中、血まじりの泥を噛んだ。


ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、明日12:00に公開予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ