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最強と無双をやめたおっさんのもとには、厄介ごとしかやって来ない。【辺境砦の無気力英雄】ゼブラ・ゴーシュはのんびり暮らしたい  作者: 朱実孫六
第三節 ジュノ・ジャクセルの背中に触れたもの

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第10話 留守の砦と、あやしい影

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 ジュノは穏やかに語りかけた。


「──ご冗談はさておき、ゴーシュさま。実際、ここは最前線ですよね」


 ゴーシュはブーツの履き心地を確かめるように踵を鳴らし、立ち上がった。


「そうだよ。しかし、昨晩は楽しみで眠れなかったくらいでさ!」


「話、聞いてます?!」


 大声をだしてしまって、ジュノは頭を抱えた。


 けれども、ゴーシュは耳に指を突っ込んだまま振り向き、ニヤリと笑った。


「心配ねえったら心配ねえの。おれにだって休日はある。こんな事は毎週だ。そしてこの竿が……光って、うなる!」


 ウッキウキで竿を剣のように構える彼に、ジュノはもう一言を付け加えようとした。


 しかし、彼の言葉を遮るように、ゴーシュは背を向けたまま告げた。


「心配はありがたいよ。確かにマールムの魔力、つまり魔法圧力は低い。だから一発の威力は実際、乏しい」


 ゴーシュは釣竿を担ぎ、微笑む。


「だが反面、消費魔力は抑えられる。これは攻撃魔法において速射能力として現れる」




 ジュノは目を丸くしたが、考えられないことではなかった。


 初学年の生徒にもいた。同じような低圧タイプだ。魔撃訓練で魔法弾が40メートル先の的に届かず、顔を真っ赤にしていた。けれど後に判明した彼の連射技能は凄かった。ジョウロで水を撒くように魔杖から小さな魔弾を連射して、近接射では標的用紙を蜂の巣状に穴だらけにした。


 それだけではない。精度にも優れていた。


 結局、彼は国家憲兵隊の都市型掃討戦を専門とする部隊へ引き抜かれて行ったが、自主練の際に、10メートル先の標的用紙の頭部へと魔弾を一連射し、ものの二秒でそこに顔を描いて見せた。




 ゴーシュは、ジュノに尋ねた。


「オメーさん、魔杖への魔力充填チャージは何秒だい」


 ジュノは答えた。


「学生用の魔杖なら、満充填まで40秒です」


 満足そうにゴーシュは頷いた。


「ま、平均点ってとこだな。ところが、マールムはそこも20秒でな」




 ジュノは、カマをかけてみた。


「しかし、低圧で連射速度が早いとなると、威力と射程は低くなるのでは……」


 魔王軍は数で押してくる。威力に乏しい短距離連射だけでは押し留められないだろう。



 だが──ゴーシュは、あっさり言った。


「問題ない。この砦一帯には、魔法爆弾があちこちに埋め込んであるからな」



 森には、小鳥たちがさえずり、朝露にも朝日が昇っている。



 ゴーシュは、その砦の外周を見渡して自信たっぷりに言った。


「魔法爆弾の数は、大小あわせて三桁じゃきかねえ。おれとマールムが、十年かけてせっせと埋め込んだもんだからな」


 人の魔力には個体差がある。適性に合わせた職種を選ぶ必要はある。だが、彼女の場合はその戦術でカバーしていると言うことなのだろう。


 言われるまで気づかなかった。そんな火力がこの砦に秘められていることを。


 ゴーシュは、砦の全景を、穏やかな目で見渡した。


「数で言えば五桁に近い。その魔力量はおそらく、先の大戦でおれがぶっ放した総魔力量ともどっこいじゃねえかな」


 ゴーシュの目が、柔らかいままジュノに向けられた。


「オメーが言う万が一って奴には、敷設した魔法爆弾をマールムが速射で次々と爆破して行く。だから、心配はいらねえ」


「けれど、逆に、その爆弾が敵にも利用されたりしませんか、」


「うんにゃ。マールムの魔法だけに反応するんだ」



「おれは忘れたが、マールムは場所も全部覚えてる。ここで五歳から育っただけはあるな。つまりは、砦の内外は彼女の庭。言いかえれば、巨大なブービートラップ。ハチの巣みたいなモノさ。つついたバカの方が泣きを見るってワケだ」


 そう締め括ったゴーシュは、鼻歌まじりに釣竿を担いだ。


「それに、今日はオメーさんもいるしな。安心して休日を堪能できそうだ。留守番よろしく頼むぜ」



 ジュノは、思わず直立不動の姿勢から、無帽の敬礼をした。


「──し、承知しました!」


 ……任された。


 たった一言。それだけなのに、胸の奥がじんわりと熱くなり、今朝まで抱えていた孤独や不安が、すっと溶けていくようだった。


 門をくぐって北の森へと向かうゴーシュの背中を、彼は、しばらく目で追っていた。





「あっ、でも……!」


 大事なことにジュノは気付いた。大声で遠くゴーシュを呼んで振り向かせた。


「──お師匠さま! 魔杖! 魔杖をお忘れです!」


 大きな身振りで伝えたが、ゴーシュは釣竿を掲げて、「これがあるから平気なの!」と返して来た。


「へ!?」


 ジュノは呆然とした。



 幅40km・長さ約5,000kmのDMZに沿ってできた森には、残存魔力によって巨大化した節足動物、巨蟲が独自の生態系を成して跳梁跋扈している。


 それに、魔王軍側も武装パトロールを出している。


 いくらなんでも、丸腰で踏み入るのは自殺行為としか思えない。





 だが、ゴーシュは森の際で、小さく跳び上がって、


「あとオメー! どさくさまぎれに、おれのこと師匠とか呼ぶんじゃねー!」


 そう言うと、肩を怒らせたままDMZの森の中へと消えて行った。





「本当に、魔杖も無しで……」ジュノは呆然と、赤土の砦に取り残された。


 森の上を、巨大な羽虫が、薄い翅を煌めかせて飛んで行くのが見えた。


「まったく……底の知れないお方だ」


 

 


 けれども少年は、胸の中に、小さな火が灯るのを覚えた。


「留守番、よろしく頼むって、言われちゃったな。ふふふ」


 照れてジュノは身をよじった。


 けれど、手にさげている薪の重さに思い出した。



「──あ、でもこうなると、朝風呂を沸かす仕事も無くなっちゃったわけだよね」


 一体どうしたものかと、首をひねる。主人不在の母屋の前で座り込んだところで意味はないし、納屋に戻ってもすることがない。


 彼は顔を上げた。


「あ。そうか。マールムさんに聞いてみよう」


 なにか仕事があるかも知れない。それに機会があれば敷設した魔法爆弾についても聞いてみたい。


 薪の束を軒下に置いて、ジュノは、玄関に回るべく母屋の角を曲がった。



 すると、すぐ、太陽の下、小さく動く人の影を認めてジュノの足は緩やかに止まった。


 跳ね上げ式の門の彼方に、山道を来る人影が、小さく揺れている。



 朝日に背を向けて、その足取りは、ひどく挑戦的なものに見えた。


ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ


次回は、明日12:00に公開予定です!

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