朝の涼しさ
翌朝。校門に向かう道の途中で、見慣れた後ろ姿を見つけた。肩まで伸びた髪が、朝の光を受けてやわらかく揺れている。
「……おはよう、藤崎さん」
声をかけると、彼女が少し驚いたように振り返った。けれどすぐに、昨日と同じ、あの穏やかな笑みを浮かべる。
「おはよう、結城くん。……なんだか最近よく会うね」
からかうように言われて、思わず頬をかいた。ほんの偶然なのに、いや、たぶん自分が少し意識して早めに家を出ているだけなのに――それを口に出す勇気はない。
「たまたまだよ。……でも、こうして一緒に歩けるのは悪くないな」
その言葉に、美桜は小さく目を細めた。朝の光の中で、彼女の笑顔はまるで透明な水面のきらめきみたいに、静かに胸に沁みてくる。
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通学路を並んで歩く。秋の空は高く澄み渡り、冷たい風が頬を撫でていく。ふと見上げると、街路樹の葉が色づき始めていて、道に落ちた落ち葉を踏むたび、かさりと乾いた音が響いた。
「昨日のおでん……なんか、まだ夢みたいだったな」
「え?」
「いや、コンビニの駐車場で食べるなんて、普段なら考えないじゃん。でも、すごく楽しかった」
言葉にしてから、自分でも少し照れくさい。けれど、美桜は嬉しそうに頷いた。
「うん、私も。……また、やりたいな」
その一言に、胸の奥が一気に熱くなる。風は冷たいはずなのに、体の内側だけじんわりと温まっていくようだった。
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校門をくぐるころ、ちょうどチャイムが鳴った。周囲の生徒たちが慌ただしく校舎に入っていく中で、二人の歩調は不思議と揃ったまま。
「じゃあ、また放課後ね」
彼女が手を振って教室へと向かっていく。その背中を目で追いながら、日向は思った。
――また一緒に帰りたい。昨日の続きのように、今日も彼女と時間を過ごしたい。
そんな想いを抱えたまま、一日の始まりを迎えた。




