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あねため

作者: 獄咲有花

「墓参りなんて、久々だな」

などと、口にしてみる。

僕の資料づくり。

詩人の姉さん(16歳、引きこもりぎみ、肌は白め)のために、資料づくり。僕は本は苦手だし(小1の頃、なんとなくニーチェのツァラトゥストラを読もうとしたが、1行目で、ぶっ倒れた。難しかったのだ。以来、本に苦手意識を)、すごい感性もないから、こうして、僕なりに色々と冒険するしかない。

今回は、墓参り。お盆だし。

お盆、なぜこんな暑い日に墓参りをしないといけないのか、それは知らないけど、きっとすごい理由があるのだろう。墓参りをしないと地獄に行くとか? 知らないけど。

墓地に来た。褒めてほしい、墓地の場所は覚えていた。

しかし、誰もいない。

ため息を吐いて、スマホで時間を見る。こんな所で地面に落としたら画面が割れる(コンクリート)、丁寧に扱わないと。

「11時11分、ゾロ目だ、やった」

暑いからか?

本当に、誰もいない。

いや、待て。本当に暑いからか?

もしかして。

墓参りはダサいのか?




「ここで眠っている人たちは可哀想だねえ、誰も来てくれない。全く、皆が可哀想だよ。皆がいるから今があるのに、本当」

「はい」

隣で苛々しているお姉さん。

30代くらいで、着物を着ている。髪は黒く、短い。背が僕と同じくらいなのが悔しい(160cm.中2だし、今からか? 今からだ、今からにちがいない)。

可愛いというよりかは、凛々しい。けど、なんか、怖くはない。陰キャの僕だけど、怖いとは思わない。

「見なよ、花もない。水すらない。可哀想に。先祖を馬鹿にしているよ、心がない。泣けてくるよ、私は」

つい、お姉さんの顔をのぞく。

「何?」

「いえ」

僕は首を横に振る。

何でのぞいたんだ?僕。

いや、本当に泣いていないか心配になって。

泣いてたらどうしたんだい?

・・・・・・、さあ?

「あなたは誰? 弟かい?」

「弟です」

「大きくなったね」

微笑まれる。

親戚かな、夏なのに着物で暑くないのだろうか。

「お姉ちゃんは?」

「家にいます」

少し残念そうな表情をされる。

部屋にいます、と言ったら泣かれたかもしれない、よかった。

「両親は? まさか、1人で来ている訳じゃないでしょう?」

「いえ、家にいます」

「駄目な両親だなあ、お盆なのに誰も来ない。いや、弟は来てくれたけどさ。

どういう育て方をされたんだろうね、お盆の由来も知らないのだろう、仏教の常識なのに」

お盆ってブッキョウと関係あるのか、へえ。

で、ブッキョウって何だ?

「お盆になったら皆で墓参り、先祖にお礼。それが日本じゃないのか? お父さんお母さんになってもそういう心はできないの?」

今は、多様性の時代でして。

まあ、わかって言ったのだろうけど。

「お姉ちゃんも駄目だね、弟と違って」

なんだろう。お母さんとお父さんのことは馬鹿にされてもムカってならないけど、姉さんのことを馬鹿にされると、すっごいムカってなる。




「あの、お姉ちゃんはお姉ちゃんで頑張っています、お姉ちゃんのことだけは馬鹿にしないでください」

僕は真剣に言う。口でも姉さんと言えたら、もっと真面目になっただろうけど。

「僕がお姉ちゃんの代わりに来ます、毎年来ます。だから、お姉ちゃんのことだけは馬鹿にしないでください」

姉さんは詩人として頑張っているんだ。

両親のことは何て言われてもいい、あの2人は姉さんのことを嫌っていて、味方になってくれないから。味方だったら、姉さんの肌は少しは白くないかもしれない、部屋にいますなんて言うこともないかもしれないし(言わないんだけど、家にいるって言うけど、例えだよ例え)。

でも、姉さんを馬鹿にされたら、すっごいムカってなる。

「本当に来てくれるかい?」

真剣な表情で聞かれる。

僕は、

「え、えっと」

毎年来れるかな、来年は受験生だしな。大人になったら、どうなるんだろう?

すると、お姉さんは、

「ははは。

そこは、はいって言うものだよ。

真面目だねえ」

わしゃわしゃ、と子どものように頭をなでられる。

まあ、子どもなんだけど。

「よかったよ。

待ってるからね、毎年来てくれるの」

そして、スゥッと消えていった。

・・・・・・。

僕は、かけあしで逃げた。

多分、条件反射。火に手が当たったら引っ込める、みたいな。

幽霊がいたら、かけあしで逃げる。

家に帰るとコップに水を入れ、それに塩を入れ、飲もうとしたが、変な味がしたので(命の危機!)、流し台にぶちまけた。

そして、自分の部屋に帰ると、少し、冷静になった。

スマホで姉さんにメッセージを送る。

僕は本が苦手で、文章も苦手だけど(先生に日本語を書けと言われたことがある、哀しかった)、心をこめて書いた(大抵のことは心をこめればいいのだ、きっと)。

最後に、

『毎年墓参りに行く』

と書いて、送信。

送信と同時に返信(暇人!)。

「暇人な詩人」

と呟きながら、返信を見る。

『( ゜ー゜)ハ?』

「?さんと手を叩き合ってる」

すると、もう1つメッセージが来る。

『墓参り、頑張れ』

『頑張る』

送信。

墓参りを毎年することが決まってしまった。

幽霊(多分先祖)の暖かい手を思い出す。

仕方ないか。

「けど、いい資料になると思ったんだけどなぁ」

詩の、いい資料に。

まあ、信じてくれないよねぇ。

姉のために「資料づくり」をする弟。

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