おっきいってことはいいことだね! ばてゅーすとさんのざんげ。
そろそろターニングポイントでしょうか、予定通り終われるのか……
殿下の下に就いたのは、私がまだ13の頃のことだった……
位が低いとはいえ貴族の三男だった俺は、その日まだ騎士見習いに上がったばかりだった
他の国ではこういうのは大体有力者の子息ってのがなるモンらしいが
この国では、魔導師さんの助言ってヤツで、使える人間しか上へ這い上がれないからだ
俺たちのような種族は、自分の身体に合ったものを見るのには不便は無いが
それよりも小さい者達からの奇襲には弱い
だからこそ、使える人間が国の中枢に吸い上げられる
身体が大きいことは、一見有利に感じられるが
大きいからこそ不利なことは、驚くほどに多い
確かにこの国周辺で採れる作物も家畜も、俺たちに見合った大きさだ
余所者には大きすぎるそれは、少ない数で大きな益になるだろう
だが、だからこそ俺たちは此処でしか生きていけない
ここで生まれた者は、ここを離れても長く生きることはできない
俺たち見習いは、つい先日まで見習い頭だった従騎士の先輩の指導のもと剣術の手ほどきを受けていた
訓練も兼ねた視察によって数日のうちに俺たちの中から次の見習い頭が選ばれる
今日見習いになったばかりで興奮気味の仲間達のなか
テキトーと事勿れ主義が座右の銘の俺は、テキトーに頑張り、
先輩の目を盗んでは自主的休憩を取っていた……だが、
『ん?』
『どうしたバテュースト、訓練中だぞ』
『あ、先輩……
いやほら、あそこ…どこの子息ですかね、さっきからずっとソコにいるんスよ』
『子息?……う!!』
う?
先輩は、その餓鬼の方を向いて石のように動かなくなった
その反応でもう十分だったのに、俺は相手が二つか三つの幼児だったこともあり
座右の銘の事勿れ主義も相まって、金持ちの餓鬼が訓練場で怪我でもした日にゃあどんな眼に遭うか、と……
ほんと、やめときゃ良かったのに
『坊ちゃん、ここは危ないから来ちゃだめだ
今誰か案内を呼んでくるから、安全な遊び場に連れてってもらった方がいい』
大人しく俺を見上げていた餓鬼は
俺のその言葉に、ふ、とおよそ子供らしくない笑みを浮かべた
直後
『ひ!』
『え?』
方々から息を呑むような悲鳴があがり、俺はぎょっとあたりを見回した
そこには見習い仲間と先輩のほかに、いつのまにやら通りかかった文官やら騎士やら
何だ、もしかしてえらく身分の高い貴族の餓鬼か?
もしかして俺は首を刎ねられるんだろうか……
しかし、彼らが顔を青ざめつつも凝視していたのは、足元の餓鬼だった
先祖代々美人の嫁を貰った家なんだろうな、というような整った顔立ちの、しかし俺には所詮ただの子供にしか見えない
翌日分かったことだが、餓鬼は餓鬼でも、第二皇子殿下だった
そして同時に、昨日の悲鳴は殿下が笑ったことにあることも分かった
たった一日で、俺は第二皇子殿下の目付け役になっていたからだ、
階級も脈絡もなく正騎士って……
昨日まで上司だった現部下は、俺を今にも息絶えそうな哀れな傷病兵を見るような眼で見る……
それだけじゃない、
行く先々で胃薬を渡された、胃薬を渡された、胃薬を渡された、……育毛剤を渡された
をぃぃぃぃいいいいいいいい!!!
禿げるってか!
13の身空で育毛剤が必要ってどんな試練が待ってんの俺っ
何だこのイヤな出世コースッ昨日見習いに上がったばっかだっつーのに
誰か俺を助けろぉぉぉおおオオオオオオオ!!!
先輩昨日は困ったことがあったら何でもオレに言えって言ってたじゃないスか!
何で眼ェ逸らすんですか、ちょ、せめて顔をこっちに向けるだけでもして下さいよ!!
確かに給料は上がったから美味いメシも食えるようになったし
値の張る剣も一括払いで買えるようになったが、ソレと引き換えに人生から大事な何か(恐らく平凡という名の何にも代え難い究極の至宝)がごっそり抉り取られていっている気がしてならない
自分でも知らないうちに受難の男なんて二つ名がつき
それだけで胃が痛くなるような感じがしてきたのに
俺のいないところで、実家の親父によって俺の生前葬まで……!!
そこまでするならまず俺を助けろ!
しかし、悪夢の序章はやっと始まったばかりだった
俺はなんとか粗相を働いて城から追い出されることを決意したが
あの悪魔の第二皇子は遥かその上を行っていた
だって誰が想像できるよ、俺が椅子に座った瞬間兄皇子殿下の見合い相手に訪れた姫の尻の下から壮大な屁の音がするとかよぉぉぉぉおおおおお!!!
その場合、音がするのは俺の尻の下からの筈だろ?!
なんで姫の方から音がするんだよ!
第二皇子殿下就きの俺は後学のため(悪魔皇子だってそのうち見合いするだろうしな)離れた場所で待機していた
王族の見合いだから直接の護衛以外立ってるのも物々しいだろうって、離れた場所に椅子を割り当てられ座った瞬間だった……
その恐ろしい音が庭園に響き渡ったのは……!
可哀想に真っ青になって泡を吹いて気絶までしたぞ?!
兄皇子殿下は白目を向くしよ!
皇子と姫の見合いはまだお互い幼いために軽いものだったが
姫は心の傷が深かったらしく出家までしたぞ!!
確かに父親のごり押しで成った見合い話だ、黒い噂もあったが
娘は父親の言い成りだっただけの気の弱い姫だったという話だ
そんな気の弱い姫に出家を決意させる程の悪魔の所業
いったいどんな教育を受けたらこんな子供になるのか、
逃げられないと悟った俺は身の安全を考えなんとか軌道修正を図ろうとしたが、幼児期における人格形成は既に完了していた……
総ては殿下の教育を任されている魔導師の影響だ、
見習いから突然正騎士に上げられた俺も、目付け役に必要だとされる学術やら剣術という名の苛め…じゃなくて教育的指導を受け、
俺…いや私もすっかり言葉遣いと態度はよくなった
同僚や部下、その他の者達の予想を大きく越えて今まで持ちこたえた私の不名誉な二つ名は、いつの間にか不死身の男になっていた……
私も不死身という言葉が相応しくなったと思う
あの殿下に就いててよく生きてたものだ……!!
そんな俺の命綱を常に握っている悪魔皇子ことイェルフラウ殿下は、
魔導師殿の教育の賜物か、女性関係だけは気持ち悪いくらい清廉潔白だったのだ……が、
「さぁ鈴子さん、その可愛らしい唇を大きく開けて下さい」
「…あの、……ねぇ?
そういう装飾語とかいらないから、普通に喋って?」
「なんのことですか?」
「なんのっていうか…あの……うん、ごめんなさい、いただきます」
「はい」
甲斐甲斐しく給餌行動を続けるその姿に、だんだん意識が朦朧としてくるような錯覚が……!
鈴子嬢も実際よく耐えているものだと思う
……殿下の方にまで気を回す余裕がないだけかもしれないが
それにしても、誰か夜番を代わってくれないだろうか……
添い寝と称して同衾を迫る殿下を寝返りで潰してしまったりしたら命に関わるから、と
なんとか宥めすかしていた彼女に渋々従い、
傍に砦を建てさせて、その天辺で寝ている殿下だが
その実、こうして給餌に紛れてこっそり薬を盛り、夜やっていることといったら……!
「えー…あの、朝になるとじんじんしてたんだけど……
でもね! 最近はなんともないの!! ぜんぜん大丈夫!!!」
それは恐らく身体が慣れてきたからだろう
心配を掛けまいと知らず知らずに墓穴を掘りまくる鈴子嬢の姿を見ていると、
あれ、おかしいな
眼から汁が……ぅぅ
でも大変なのはこれからだろう
もしも本来あるべき体格差にでもなった日には、恐らく眼も当てられない事態になるに違いない
下手をすると、怪我でも病気でもないのに恥ずかしい理由で寝たきり老人みたいな……
流石にそれは哀れすぎるから、なんとか最低限それは阻止してあげたいものだが
それが可能なのは殿下の師であるあの魔導師殿だけだろう
しかし、殿下は彼に育てられたも同然であるから殿下がやりそうなことは絶対に彼もやっているだろう
駄目だ、これっぽっちも光が見出せない、非力な私を許してくれ、そして怨まずに成仏してほしい
彼女にはこちらに残ってもあちらに帰っても、定まった未来しかないのだ
こんな真っ当に育った普通のお嬢さんを生贄に捧げるかと思うと、いっそ自分で墓穴を掘って埋没したい気分にもなるが
妻も子もある身としてはそんな選択肢は無きに等しい
……というか、天涯孤独でもその選択肢は無いな、うん
やはり我が身はかわいいものだ
でも後ろ暗いので、毎日天に向かって祈りを捧げようとは思う
せめてもの手向けだ
ほんとすまん
だから縋るような子犬の眼で見るのは勘弁してくれ
私と眼を合わそうとしても無駄だからな、絶対眼は合わないからな、絶対だからな!
受難の男バテュースト、彼の人生と心の中は常に超自然風人的災害に見舞われている
嵐で言うと風速25~30m/s、地震で言うと震度5弱~強くらい
> 教育的指導を受け
お前ソレ調教されてンだよ、とは誰も言わない
そして彼自身も、敢えて分からないフリで自己催眠
彼の一人称の変化で若い頃と現在の差をつけたつもりです
また姫の出家についてですが、仏教ではないのに出家と表現したのは、それに相当する語録が脳内になかったからですorz
洗礼を受ける、でも良かったんですが、語呂が良くないかなぁというのもあるし
洗礼は必ずしも出家に相当するものじゃないようなので、こんな感じで
ファンタジーにはよく宗教のネタが登場しますが、大抵"入信"みたいな表現っすよね
宗教という世界に入る、という表現はよく見ますが、世間から離れる、という所謂出家に相当する言葉は今のところ見たことが無いです
こういう表現だといいんじゃない?というのがありましたら教えていただけるとありがたいですorz