ちっちゃいってことはたいへんだね! そのなな。
さてさて…
なんだか分からないけど、ひじょうに上機嫌な彼は机に寄り掛かるように座ると
さっきあたしに出してくれた薬を自分の怪我をした腕や手の平に塗り始めた
「…わ、……すごい」
自分の傷口に薬を塗った時は、傷口が小さくてよく分からなかったけど
流石にこの大きさの傷に塗られると、その効果は明らかに見えた
薄く傷口の上に伸ばされた薬は、膜を張るように乾き、
傷口は透けて見えるものの皮膚のようになってしまった
「僕らの一族に伝わる薬だよ
こうして傷口を覆い、損なった部分を穴埋めして
新しい細胞を造り、やがて本物の肉や皮膚と少しずつ入れ替わる」
「一族……?」
「うん、妖精なんだ」
「え?」
よ、ようせい?
「ふふ、僕もね、はじめてピーター・パンを読んだ時はショックだったよ
僕らとは違い過ぎるからね、でも僕らは妖精の中でも特別大きい種族だから、
僕は会ったことはないけれど、ちゃんと貴女よりも小さい種族もいるようだよ」
「へぇぇ……」
いやもう、何て言ったらいいのか
ちゃんと小さい妖精もいると言われても、こんなに大きな妖精が目の前にいたんじゃあ……
顔がものすごく整ってるのも、妖精だからかな?
その後も彼は、薬の入れ物を手に取ると傍の壁に掛かっていた大きな鏡の前に立った
姿見ってやつだよね、あたしがこの人と同じサイズだったとしても大きいんじゃないかな……
じっとその様子を見ていると、彼は怪我をしていないのに、今度は薬を額に塗り始めた
「えっと?……なにして??」
「うん?、ああ、これ?
母さんの時の応用でもしてみようかと思ってね
描けるものなら何でもいいんだ、ただ、母さんの時は矯正するためのもので
元々正常なものを変化させるものでもないし
今は貴女の血でゲートも通れないから、間接的にゲートの力を借りるだけだから
問題はどの程度まで小さくなれるかと、どの程度の持続時間か、
それから後遺症を抑える薬が今は手元にないことなんだけど…まぁなるようになるかな」
えーと……?
「さて、行こうか」
「え?、どこへ……」
「服が駄目になってしまったからね、着替えに僕の部屋に行くんだよ
向こうでは見れないような珍しい場所も色々寄り道しながら案内もするから」
そう言う彼の手の平に乗せてもらい
彼の部屋に着いたんだけど……
「これが僕のベッド、寝心地は保障するよ」
えー…あー……
案内って、ベッドを案内されましても……
え、これはなに?
ツッコミ待ち?
ボケてるの?
この場合の正解は何??
どう答えたらいいのか分からなくて、物凄く困って彼を見上げると
「ふふ、かわいい」
なんだか凄く満足そうな顔で
また指先で頬をちょいちょいと撫でられた……
なんだろう……
なんだか今、背筋が寒く……?
その後案内されたのも、所謂、恋人達の憩いの場っぽいようなスポットを延々案内され
気がつけば、夕食の時間も差し迫ろうというところだった
「ああ、もうこんな時間か……
そろそろ行こうか」
案内された夕食の席は、なんだか凄くまばゆかった
いやぁ…あるところにはあるんだね、お金って
「向かって正面がお祖父様、前皇帝だよ」
ご家族の方々は既に席についていた
皇帝? 王様じゃなくて??
え、ということはこの人王子様?
「その左隣がお祖母様、右隣が現皇帝の伯父上、その隣が奥方
その正面の席の二人が従兄弟たち、その隣に並んでいるのが僕の妹たち」
「あ、は、はじめまして、お世話になっております、宮田晴香です!」
王族ってのは、こんなに気さくなものなのかな、
凄くにこやかにそれぞれ挨拶と自己紹介してくれるんだけど
ひとつ、気になることが……
何で皆さん、一瞬凄く不憫そうな眼であたしを見るの??
「父さんと母さんは?」
「来るとは言ってたけど……」
答えたのは、昼間の妹さん……だよね?
妹さんたち、皆おんなじ顔で判別が……!
「来ると言ったのなら来るかな、さ、どうぞ」
煌びやかな面子にビビっているあたしをテーブルの上に下ろすと
そこにはあたしのサイズに合ったテーブルと椅子があった
彼が指先で摘むように椅子を引いてくれたので、
おどおどしつつも粗相のないよう気をつけながら座ると
あたしと同じサイズのメイドさんがどこからとも無くあらわれて、料理を運んできてくれた
…同じサイズの人がいたんだ!!
……しかし、メイドさんも哀れそうな眼であたしを一瞬見て
料理を綺麗に並べると、礼をしてそそくさと去っていってしまった
……なんで??
なんだろう、凄く気になるんですけど……は!!
あ、あたしもしかして余命三ヶ月?!
…いや、ないね、うん、ないない
その時だった
あたしに続いて席についた彼が
「うわぁ、今夜はお客さんが来ているからいつもより豪勢だね
……ふふ、精力がつきそうだな」
と言った途端、その言葉について考える間もなく
ガターンッ!!
お爺さんが、椅子を倒してよろよろと立ち上がり
お婆さんに自分の剣を渡すと、今度はお婆さんから護身用と思われる短剣を受け取り
そ、その構えは、
「せ、切腹ぅぅぅぅうううううッッ?!」
「父上! 父上おやめ下さい!! 母上まで!!」
「えぇい放せ! 放せぇぇえええええ!!!」
「お義父様お義母様おやめになって!!」
「お祖父さまっ、ちょ、おじいさま!!」
「あれ、この前お祖父様に時代劇のDVD見せたのまずかったかな?」
えぇぇええええエエエエエッッ?!
和やかに始まるはずの夕餉の席は一瞬にして地獄絵図に塗り替えられてしまった
あたしはどうしていいのかおろおろとしつつも大分混乱していたらしく
地震でもないのに、目の前のテーブルの下に潜って体育座りをした
「おや、何を騒いでいるんですか?
歓談するなら兎も角、席を立っているなんて」
ぱちん、と軽い音がすると、あたりは途端に静かになった
恐る恐るテーブルクロスを持ち上げて顔を出すと
お爺さんの手はいつの間にかすっからかんで、
その反対側にはナイスミドルさんと……小早川さん?
小早川さんは、ちょっと見ないうちに、まるで介護患者のような変わり果てた姿に
例の如くお姫様だっこされていた小早川さんは
席についた旦那さんの膝の上に座らされて、ぐったりというかなんというか
眼はとろんとしていて意識は朦朧としているようで、
旦那さんが甲斐甲斐しく口元にスプーンを運ぶと反射だけで食べてるみたいな……
あれ、びょ、病気??
周りを見回すと、皆さんはいつのまにか席についていて
絶対小早川さんたちの方を向かないようにしながら食事を開始していた
「晴香さんも食べよう、これなんかオススメかな」
「え、あ、は、はぁ……」
異世界って不思議なことがいっぱい……
城や城下の店では外国からの客を接客したりするために普通サイズの外国人も働いています、
家族揃って食事をとるのは魔導師から得た習慣です、
また『おっきいってことはいいことだね! いぇるふらうくんのはつこい。』冒頭で
> 我が国は、このあたりでも比較的大きな身体を持つ種族の集まりによって成される国です
と書いてある通り、複数の種族が集まってできている国なのでこの国は帝国です
ですから事情を知らない鈴子や晴香は王様とか王妃様とか言いますが実は皇帝で妻は皇后または皇妃と呼ばれるのが正解のようです
王国とか帝国とか、難しいですね、頭がどうにかなりそう……