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ちっちゃいってことはたいへんだね! そのご。

親子揃って…

「……どうしたものかな」



ていよく妹達から引き離してはみたものの、いまいち踏み込みかねる



「マザコンの気は無かったと思ったんだけど」



彼女の雰囲気は母さんに似ているな、とは思う

すごく普通だ


どこにでもいるような……



というか、母さんに似た雰囲気を持つ女性は、今までだって何度か会ったことはあるのだけれど

今回に限ってどうしてだろうね?



思考を重ねつつも来客用の着替えを持って、大きな音で驚かさないようそっとドアを開けると、静かに中へ入った


室内には大きな台が幾つかあり

その上に、幾つかの仕切りが建てられ、その一つ一つが客室になっている


僕が彼女の居る部屋をそっと覗き込むと、

彼女は客人をリラックスさせるために入れておいたネズミをじっと凝視していた

その後ろ姿からは、彼女の分かり易い感情が伝わってくる



そうとう動揺しているね、これは……



「え、えーと……」


「どうしたの?」


「?!、しゃ、しゃべった!!」


「うん?」


「え、えっと、あなた何?」



何と言われても……あぁ、そうか

ネズミが喋ったんだと勘違いしているんだね



「コミミトビネズミだよ」



正確にはバルチスタンコミミトビネズミかな



「こ、こみみ?」


「ピグミージェルボアとも言うね」


「ぴぐ……え?」


「地球産のトビネズミの一種だよ、大きさは五百円玉くらいかな」


「え、ご、ごひゃくえん?!」



珍しさと面白さで飼っているんだけど、この体格差で五百円とか言われても分からないかな

寝ている姿とか、たまに面白いんだよね


まるで死んでいるみたいにひっくり返って寝てたりするし



それにしても律儀に反応を返す彼女の姿はなかなか面白くもあり、可愛らしくもある

取り敢えず、聞くだけ聞いておこうかな



「君が小さいだけだよ、こっちの大きさに合わせてあるんだ」


「合わせて……?」


「ところで君、彼氏はいるのかい?」


「え?」



うん、分かるよ

唐突にそんな話題を振られてもねぇ?



「気楽に答えてよ」


「えーいや、まぁ、一応」



なんだ、いたのか

やっぱりこのくらいの年齢で母さんみたいな子はそうそういないよね



「一応?」


「うーん、この前できたばっかりの初彼なんだけど…」


「けど?」


「あんまりしつこいんで、渋々折れて付き合うようになったんだけど

 なんか、常にがつがつしてるっていうか……」


「がつがつするのは嫌なんだ?」


「……というか、それよりも……」


「あぁ、なるほどベクトルが違いすぎるんだね

 全然好きじゃないの?」


「全然っていうか、うん、まぁ、はい」



見たとおり、押しに弱いんだね



「他にちゃんと好きな男ができたら別れる?」


「それは…まぁ…そういう約束もなんとか取り付けたし」


「うん、そうなんだ……なるほど」



どうもその男、怪しいなぁ

強引に付き合うようになったのなら、別れ話をされないように最初は懐柔を試みるものだろうけど、がつがつしてるとなると、目的はアレだろうな


別れる時に身体の関係未満だともめそうだね、これは



「ところで自営業の男ってどうかな?」


「え?」



僕からは見えないけれど、ぽかんと口を開けているんだろうね

うんうん、分かっているよ

話しがころころ変わってついていけないんだよね?



「えっと……いいんじゃないの?」


「本当に?」


「え?、う、はい?」


「うん、なるほど」


「は?」



ふふ、かわいい



「ところでシャワーはいいの?」


「あ!」



そうだった、とぶつぶつ言いながら彼女はいそいそとシャワールームに入っていき

脱いだ服を綺麗に畳んで浴室に入る


律儀だね、なかなかいいな、うん


父さんの教えどおり経験が無いから比べられる対象はないけれども

脱いだ姿もおそらく普通の体型と言っていいんだろうね

母さんとすら風呂に入ったことはないけれど、酒の席で仕入れた話しでこれだけは分かる


貴女は安産型だね


浴室に入った彼女は、頭から順に下へ洗っていくタイプのようで

丁寧に髪を洗うと、今度はブラシを持ってぎこちなく身体を洗いだした


そして、いざ背中を洗う段階になると、腕の角度がどうしても足らず

ブラシは背中にかすりもしていない



「身体が硬いのかい?」


「え?、う、うん」


「背中を流してあげようか?」


「え、いいの?」


「勿論」



みかねて声を掛けると、彼女は疑いもせず背中を差し出してきた

さっき髪を洗ったばかりで、お湯の滴る顔では眼を瞑っているし、

恐らく無害で可愛らしい大きなネズミだと思っているからこそなんだろうけど

それにしても浴室に入れた覚えも無いのに声がするなんておかしいと思わないのかい?


でも、そんなこと自分からばらしてしまうほど僕はバカでもお人好しでもないからね

勿論、背中は綺麗に洗ってあげるよ


僕は、自分の人差し指を、爪が綺麗にまあるく切ってあるのを確認してから彼女の背中にそっと押し当てた


潰れてしまったら大変だから


そっと、そっと



大事に、大切に、撫ぜるようにして洗ってあげる



サービスでお尻まで洗ってあげたのだけれど、彼女は全然気にしなかった




ふふふ




シャワーを終えた彼女の頭からタオルを被せ

身体を拭き終え、顔を上げた彼女に着替えを差し出してみる



「あ、ありが……」



彼女は一旦動きを止め、じっと僕の手を見ると

やがて恐る恐る腕を伝うように目線を上げてきた


眼が合ったところで、にっこりと笑ってあげれば



「ぎゃぁぁぁああああアアアアアッッ!!!」



こんなに小さな身体のどこからそんなに大きな悲鳴が出るんだろうね?

でも、どこが気になるのかやっと分かったよ


僕も父さんも筋金入りのサディストだからね



僕のすることに、必死な様子でいちいち反応を返してくれるのがとても可愛らしく感じるんだね




「大丈夫、考えてもみて

 この体格差でもしもなんて起こるわけもないんだから、ねぇ?」



安心させるように、にっこり笑って言い含め

傍においてあった、蓋のような構造になっている天井を彼女の部屋に被せると


僕は、彼女が着替え終わるのを待った




「それにしても困ったな」




潜水の練習しかしてない……


スポイト…でも、最初がスポイトって許せないから没だね

やっぱり向こうに戻るのが一番かな


夕食が終わったら、さっそくゲートの修正に掛からないとね



うん




楽しみだな

殿下も息子も、すこぶる顔がいいのにどうして女性経験が無いかというと、それは例の魔導師のせいです

魔導師の父親も顔の整った良い男なのですが顔に似合わず身奇麗だったお陰で初恋が見事成就し、それが代々の教えになっています


皆さんは見目麗しい異性が突然好きだの愛してるだの言ってきた時、信じられますか?


ずっと長く交友があり、人となりを知っているならあるいは信じられるかもしれませんが

わたしだったら信じられません


ぶっちゃけた話し、身奇麗なのも嘘だろうと思うでしょうし

何かの賭けか罰ゲームだとすら思うかも知れません

自分の容姿に自信がなければ尚更でしょう

そういえばそういう女主人公ってよくいますよね

むしろ『マジ?ラッキー!あたしも好き!』とか言い出されると、もしわたしが告白した身だったとすれば、百年の恋も一気に冷めそうですが…

(そんなことで冷める程度の恋心だったんだろう、という話しでもありますが)


まぁ身奇麗でも勝手に事実無根の噂話は流れますが

事実の噂だと、ますます自分と比べて考え、本当のことを言っているわけがない、と結論を出されてしまったり


顔が良かったり頭が良かったり財産があったりと

何かしら恵まれた人間というのは得るものが人と違う分、得られないものも多いですよね


なのでこの教えは本当に好きな相手を手に入れる為の大切な切り札の一つなので、魔導師に関わりがあり、且つ彼に気に入られている顔の良い人間には大抵この教えが伝えられています(教えを守るかどうかは別ですが)

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