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第2話 初めての名前


 水面が波打ち、キラキラと輝いています。


 女の子と少女は海の中を泳いでいました。ひらひらと舞うクラゲのように優雅に、ふわふわ、ゆらゆら、楽しげに泳いでいます。


「不思議! 海の中なのに息ができるし、声が出せるのね!」


 少女は声を弾ませます。そして、


「どうしてか知ってる?」


 と、女の子に尋ねました。


 女の子は首を横に振ります。実のところ、宝石の女の子にも、どうして人間の少女が海の中で息ができるのかわかりません。


 でも、そんなことはどうでもいいのです。女の子はとうとう話し相手を手に入れることができたのですから。


 それもその子は初めてのお友達!これがなんと嬉しいことか、想像できるでしょうか。


「そっかぁ。知らないのかぁ。とにかく不思議な海ってことなのね。……あっ!」


 少女が何かに気がついたような声をあげます。


「そういえば、自己紹介してなかったわね。私の名前はアサミ。みんなからはアサちゃんって呼ばれてるの。妖精さんの名前は?」


 アサミは興味津々に身を乗り出して、女の子に尋ねます。


 女の子は今度もまた、首を振りました。


「ごめんなさい。私には名前はないの。必要がなかったから」


「どうして? どうして、名前がないの?」


「誰も私のことを呼ぶ人がいないの。この海で言葉を話せるのは私だけ。誰かと区別する必要もない。だから、私には名前がないの……」


 自分に名前がないことが急に恥ずかしくなって、女の子はうつむきました。人間はみんな、名前を持っているのです。なのに、女の子には名前がない。それが、すごく切なくて、女の子はとても悲しい気持ちになりました。


「そうなの……。でも、名前がないとちょっと不便ね。今や、この海には、おしゃべりできる人間が二人いるんだから」


 アサミはニヤリとイタズラっぽい笑みを浮かべ、女の子の手を取り、質問を投げかけます。


「こう呼ばれたいとか、こういう名前が好き、とかある?」


「ごめんなさい……。私、この海から出たことがないから、海以外のことをあまり知らなくて……。だから、特に呼ばれたいとか、好きとか、わからないの」


「そっかぁ。うーん……。そうだなぁ……」


 アサミは腕を組んで考えます。そして、素敵な名前がアサミの頭の中にポンっと浮かんだのです。


「そうだ! ルビーって名前はどう?妖精さん、宝石みたいにキラキラだから、宝石の名前がいいと思うの。それに、赤くはないけど、ルビーって名前、キミにぴったりな気がする!」


「ルビー……。ルビーかぁ……」


 女の子は考えます。自分にしっくりくるようにも、合わないようにも感じられたのです。


「気に入らない?」


「そういうわけじゃないのだけれど……」


「なら、私はキミのことをルビーって呼ぶわ。今すぐ本当の名前を決める必要はないんだもの。ねぇ、あだ名みたいなものだと思って、私にキミをルビーと呼ばせて?」


 女の子は大きく頷きます。自分が名前を付けてもらえたなんて、夢のようです。


「アサミと、ルビー……」


 確かめるように女の子は呟きました。名前はしっくりこなかったけれど、アサミとルビーという響きは、新鮮でワクワクドキドキするような、ステキな気持ちにさせるのでした。



 女の子とアサミは海の中で一緒に遊ぶことにしました。


 まずは海の森でかくれんぼ。美しい珊瑚礁は身を隠すのに最適でした。


 イソギンチャクの中にはオレンジと白の可愛いクマノミ。他にも、ブルーやイエローのカラフルなお魚さんたちが顔を出し、二人のかくれんぼを見守ります。


「ルビーちゃん、みっけ!」


 アサミが女の子の肩をポンっと叩きました。


「すごい。アサちゃんってかくれんぼの名人なのね。すぐにバレちゃう」


 女の子はアサミのことを『アサちゃん』と呼んでいます。アサミに『アサちゃん』と呼んでほしいと言わたからです。


「ルビーちゃんがキラキラ輝いてキレイだから、すぐにわかるの。本当に、キレイだから……」


 アサミがうっとりするような目で女の子を見つめます。褒めているのです。ですが、女の子はフグのように口を膨らまし、


「それじゃあ、かくれんぼにならないわ。すぐに見つかってしまうんだもの」


 と、むくれます。それはちょっぴり嫌な感情でした。自分の大好物のお菓子を勝手に食べられてしまった時のような理不尽さを感じたのです。女の子にとって、初めての感情でした。


「たしかに、そうかも。他に遊べること、あるかなぁ?」


 アサミは「うーん」とうなりながら、頭をかきます。そこで、女の子はひらめきました。


「この海にとってもステキな場所があるの!よかったら一緒に見に行かない?」


「ステキな場所?それって……」


 女の子は人差し指を唇に当て、「しぃーっ」と言いました。


「着いてからの、お楽しみ。ほら、いこ?」


 海辺でしたときのように、女の子は左手をアサミに差し出します。ゆらゆらと水面が揺れています。アサミは迷わず女の子の左手を取ったのでした。


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