これは俺の世界、モブにはなりたくない3
幸いにしてミカエル様が気絶していたのはものの数分だ。
俺には数日にも思えたが。もしメイドが入ってきてみろ?よくある影とやらが来てみろ?俺の未来は来世に託すしかなくなる。いや、託せたらまだいい方か。
「んんう…、あ、、ごめ、な、さい」
「大丈夫、大丈夫ですから。ミカエル様は何も悪いことされてませんよ。」
起きたとたん涙を浮かべ震えながら必死に謝ろうとしてくるミカエル様に頬ずりするのをこらえる。流石にこれはダメだ。あくまで俺は教師、きょ…教師って背徳感がすごいな。やっべ、
徐々に落ち着いてきたのを見計らってお茶会を再開する。対面じゃなくて隣に座りながらだ。
「ぼ、、ミカ、エルいうます、」
「ご丁寧にありがとうございます。ミカエル様はどれがお好きですか」
たどたどしくも意欲的に話そうとしてくれている姿を見て仄暗い優越感が刺激される。チラチラと俺を窺うそれは本当は逆のはずだ。俺に気に入られたいのだろうか。自恃を与え快美に浸り、同時に悪逆的な支配欲にも似たものが湧き上がってくる。
「ぼ、、これ、す、」
「スコーンですか。美味しいですよね。
「う、ん、、あかいの、、もす、き」
「赤いの?ああ、ジャムですね。これはイチゴのジャムです。今度イチゴを持参いたしますね。」
ジャム、ジャムと呟いているミカエル様を微笑ましく思いながら今後の予定を立てていく。何せジャムすら知らない。あえて聞かなかったが碌に育も物もそして食事も与えられていなかったであろう。
今着させられている服すら“ミカエル様の物”とは言い難い。
教育とは何から始めるべきなのか。まさかここで悩むとは思わなかった。下手にミカエル様を庇おうものなら俺だけじゃなく周りの奴らに迷惑をかけてしまう。しかし順当にいけばミカエル様が次の王だ。傀儡にするにしても見る人が見れば直にばれてしまう。特に仕草。それに一応宗教国家としての看板に混じりが生まれる。それが何を生むかは考えたくないな。
4時間ほど経ったか。まだまだ明るいが日が静かになっていく。
「今日はここまでにしましょうか。明後日もまた参りますのでよろしくお願いいたします」
実は何時間教師をするか、週何でするかectが全部俺に任せられている。なのに月25万ハロン(=25万円)が支払われるという。もちろん手取りでだ。平民の月給が平均15万ハロンなのを考えれば十分貯金もできる。王様万々歳だ。
「るい、、す、どこ、、い、、?あさって?」
目に涙を浮かべ俺の腕に抱きつくミカエル様。コアラか。
「明日が一度外が暗くなって明るくなること、明後日は二回暗くなって明るくなることですよ。また参りますので良かったらこれをお持ちください。」
渡したのは俺作のカロリー〇〇ト擬きクッキーと青汁、あと簡易結界のお守り。ちょっと運が良くなって嫌なことが起こらないようにするもの。
「や、、る、、す、、いて!」
どうしたものか。これが保育園に子を預けるときの母に気持ちか。
「では、私の羽織を預かっていてはくれませんか。ミカエル様以外見えないようにいたしますので。」
毛布代わりにでもなるだろう。高かったからな。
まだぐずっていたが何とか説得し帰路につく。
馬車に揺られ赤に染まりつつある慣れた景色が目に映る。比較してはいけないが俺は恵まれていたんだな。小さい時の思い出が柄にもなくポロポロあふれ出してくる。
バチンッ
アニメのように自分の頬をたたき無理に思考を中断する。
さあ俺はミカエル様に何を教え、どうしたいのか、俺自身どうありたいのか考えつくせ。