これは俺の世界、モブにはなりたくない2
ゴクン
お茶を飲む俺の音だけが静かに音をなしている。
ミカエル様に座っていただいたのはいいが、俺にどうしろと?お茶飲んでいる以前に座るよう言ったのはアウトだろう。完全にアウトオブアウト。言うにしても他に言い方があっただろうに。貴族社会で培った遠回しな言い方のアレやこれはどこにお散歩へ行ったのか。
グダグダと言い訳を探していることはおくびにも出さずミカエル様のお茶を注ぐ。さすがにティーカップ2セット用意してあるし。
「喉は乾いていませんか、よろしければ」
前世の執事風にお茶をお出しする。マナー????こっちとらいつ平民に戻ってもおかしくない貴族(仮)だぞ。そんなもの求めるならお門違いだ。杖を買いに花屋へ行くようなものだ。諦めろ。
よし!謎の自信がわいてきたぞ。
「甘いものはお好きですか」
ミルク、角砂糖とともにスコーンをお出しする。
両手を握りしめ、俯いていた殿下がチラチラと俺を見るようになった。いい兆しだ。
何も入っていないことを示すため俺自身がもう一口お茶を口にする。高い茶葉って味がする。
「今日は殿下のお話を聞かせてくださいませんでしょうか?」
「きか・・?」
頭を傾げる仕草に俺の心が打ちぬかれた。庇護欲、圧倒的な庇護欲。
ミカエル様はもしや男主人公?巷でよく見る不遇だった主人公が愛され成長していくハートフルストーリー的な。それなら俺はさしずめ足長おじさん・・、いや年齢的にまさかの攻略対象?まあ、たしかに金髪に青眼だし顔もそれなりに整っているし?何ならラブレターなんかももらっちゃったこともありますし?
閑話休題。
「改めましてルイスと申します。殿下の教育係を仰せつかりました。お茶にはミルクと砂糖を入れてウンと甘く飲みたい派です。甘いお菓子も大好きです。よろしかったら試してみてください。」
手本になるようミルク、角砂糖を入れて混ぜる。流石にゲロ甘だわ。でもいい。殿下が見よう見まねでお茶を飲む姿を見れば何杯だって飲める。
スコーンも割り方を見せてあげてジャムをつけて食べる。殿下の割り方だとボロボロ崩れている。良いさいいさ。初めはそんなもんだろう。可愛いからオールオッケーだ。何なら下級貴族のマナーも殿下と似たようなものだ。ちゃんとした貴族のマナーは知らんが。
目を輝かせて食べる子供は可愛い。世の真理だ。
「ところで殿下に魔法をおかけしたいのですがよろしいでしょうか。」
「ま、ほう?」
「はい、正しくは魔術にあたります。そのまま食べていて大丈夫ですので。」
俺がかけようとしているのは前世的に言うと洗浄魔法といわれるやつだ。一応魔法と魔術の違いがあって魔法は何もなくても発動できる魔法陣が出ないもの、魔術は杖などの媒体が必要で魔法陣がでるもの、2つ以上の媒体で別の何かを生み出すのが錬金術だ。ザックりとこんな感じだ。
俺がミカエル様に足元に陣を出すと極端に丸くなって怯えている。それも顔とお腹を隠すようにして。
あーーー、これ、
直に陣を消しミカエル様をあやす。
背中に手を回しさすりながら見えないよう陣を出し傷だったりを治していく。ついでに髪の毛も整えるか。
力が抜けてきたミカエル様を俺の目線に合うよう顎をもちあげる。真っ黒な瞳に吸い込まれそうだ。鏡のように俺の顔が映るのが可笑しくてつい微笑んでしまう。
他の人にすれば頭をぶん殴られるであろう。でもそれだけ漆黒が珍しく目が離せない。あ、目つむった。
ならばと同じ漆黒でも虹の輪がかかる髪に視線を移す。
本当はこんなにきれいだったのか。太陽に当たればもっとガラスのように輝くだろう。髪の毛自体も指通りよく適度な太さで少しくせ毛気味だ。
髪触っても意外と抵抗しないんだ。
ほーん。
ん?
殿下寝てる?
え
気絶してる!!!!!!!!!!!!