これは俺の世界、モブにはなりたくない!!!
一応刈り取られた痕跡がある雑草にどこから生えているのか分からない蔦。通路わきに置かれている石像は輝きを放っていたのだろうか。家を囲む門はあるものの草種により正門にかろうじてあることが確認できる程度だろう。これが我が城。これが我が家だ。
だが生まれてこの方不満はなかった。生活感のある装いを見て帰ってきたと安心するほどに。前世が貧乏よりの庶民だったルイスには立派な家だ。
それに金は俺が前世知識を使って稼げばいい。成り上がり人生でも歩もうか。この現実では俺が主人公かもしれない。いずれはハーレムを築いて老後は孫に囲まれてゆっくり過ごそうか。
そう思った時期も俺にはありました。
ミハード神聖国。
俺、ルイスが住んでいる国だ。農作が主で道徳心の強い国。列強国家に囲まれた宗教国家、緩衝国の立場だから今まで存続できたのであろう危うい国だ。ま、そんなことを言おうものなら王様に首ちょんぱされるかもしれない。
だからこそ不思議に思ったのだ。この国の第一王子の教育係の依頼が俺に来たことが不思議でならなかった。曽祖父が王族の教育係を務めたことがあるだけの貧乏男爵跡取りの俺15歳(俺の代で平民戻るかも)。対して妾の子とはいえ我らがミハード聖神国第一王子ミカエル10歳。
いやーーーなにおいがプンプンする。粘着質でヘドロのように濁った色と臭い。きっと一度手を掴まれたなら一生残り続けるだろう。
本来なら断りたかった。
が、流石にそんな勇気を持ち合わせていない。
基本イエスマンなんだよこっちは!!!前世での教育の賜物だ。ヤッタネ王族さん。
しっかし今まで病弱だって表に顔を出したことのないミカエル様は一体全体どんな方なのだろうか。噂もない、俺ら貴族にすら誰それってなるやつらがいる中どんな生活をしてきたのだろうか。最大級の藪蛇だな。
なんにせよミカエル様の背中にこの先の国が乗っかているのは事実。俺の教育次第でこの国の未来ひいてはミカエル様自身も変えることができてしまう。
純真無垢で新雪のような柔らかな心を綺麗に飾るもよし、踏んで俺好みにするもよし、はたまた異形のナニカを作り上げるもよし。なあ俺、どんな王子が好みだ?
腹黒な黒幕、あんたらの気持ちがよく分るよ。
堕罪的な誘惑に心を寄せ在籍していた学園から王城へ向かう。
壮大で歴史的、黄金比を説明しているかのような王城。しかしどこか俗物的な薫が漂うのはそこに生を持っているからであろうか。
考察のし甲斐がある絵画の数々に栽培の難しい大輪の花が飾られている廊下をぬけ、静かになった部屋に案内された。
「ここでしばらくお待ちください。」
「かしこまりました。」
短絡的なあいさつを聞き10分ほど待っただろうか。
「失礼いたします。ミカエル様をお連れしました。ミカエル様、こちらがあなたの教育係のルイス様です。では失礼いたします。」
必要最低限のことを言って直ぐに去っていったメイドにポカンとする。
いや、早すぎね?
ミカエル様とやらも部屋の入り口で立ったまんまよ?つかこいつ変な光沢のある中途半端な黒髪に洗いきれていないであろう汚れ。何より何日も風呂に入っていない人独特の体臭に手足顔の異常なこけ様。
んんんん~~育児放棄、いや虐た・・
っってボケっとすんな頭。
「お初にお目にかかります。私ルービッヒ男爵家嫡男のルイスと申します。この度は大役をお任せくださり感無量にございます。誠心誠意努めさせていただきますので何卒宜しくお願い致します。」
大げさに見えるほど恭しく頭を下げれば数十秒間の沈黙。
なっっが。
え、俺何かした?いじめ?
そろーっと横目でミカエル様を見れば旋毛が見える。
こいつ何してんだ?床に菓子でも落ちとるんか?なんでもいいから話せや。にしても長いわ。
不敬罪になりませんように不敬罪だけはよしてください。
戦線恐慌としながらゆっくり頭を上げる。
「殿下、お座りになってはいかがですか」
不敬罪はいやだ。不敬罪にしようものなら道連れにするぞ。
「殿下?僕殿下違う…殿下エルネスト。」
「はい?ミカエル様も殿下ですよ。よろしければこちらに。」
聞き取れてよかったー!ミカエル様声ちっさいな。
にしてもコケないのが不思議なほどたどたどしく歩くミカエル様無理。
俺無理だわ。
育児放棄最低ー!俺が責任もって育てる!!!
あわわわミカエル様こけないで。俺が支えていいのか??