ニ敬礼 「お引越しであります!」
どこまでも続く田舎の風景・・・。
駐在所と言われてる所の前をウロウロとを歩きながらある確認の為に、さっきから同じ動作を繰り返し
少し歩いては止まり、スマホを持った腕を伸ばすと空へとかざして画面を見つめるが
表示される画面は、この行動を始めてから変わらない電波の無い表示と
唯一変わるのが、時間の表示だった。
(スマホの電波が圏外とか・・・ありえない!)
そう心の中で叫びながら、それでも諦めはつかず
あちこちの角度に向けてはスマホを掲げて電波を探していると背中に視線を感じて
振り向いた先に居たのは、霧島だった。
「こんなとこで、電波が入るわけない。」
呆れ口調で警官帽を指先でくるくる回しながらで霧島は言い
どうやら何度もスマホを掲げてはアチコチうろうろとしている姿を見ていたらしく
懲りずに何度も繰り返している姿が、とてもアホな姿に映っていたようで
もう一度だけ、スマホを空に掲げてから画面を見つめ、相変わらず反応無い画面に
掲げるのを止めるとガックリと肩を落としながらスマホをポケットにしまった・・・。
霧島の言う通り、このあたり一帯では電波は入らないのだろうと実感させられた。
無残にも電波の入らないスマホは通信機器としては役に立たず、主な用途としては
時計代わりくらいにしかならないただの箱に近い物のとなり
スマホが使えないと分れば外に居る理由もなく、これから大半の時間を過ごす事に
なるであろう、仕事場・・・「かすみ駐在所」の中へと戻ることにした。
【かすみ駐在所】
この村唯一の駐在所であり、勤務する人数は二人だけ。
とっさの事にも対応できるように駐在所のある建物の二階が居住スペースになっていた。
他に宿泊できるような施設はここからかなり遠く、実質この駐在所に勤務する者たちは
ここを家代わりに使用することになるのだ。
建物自体は木造鉄筋だが、外装はコンクリートで固められており、一見すると
木造の建物には見えないが年季は入っている。
一階はその大半を仕事場の駐在所として使っているため、入ってすぐは何処にでもある
駐在所の作りになっており、その奥のドアを抜けると二階へと続く階段がある。
階段を登った二階は様変わりし、昭和のレトロな感じが漂い始め
登った先にある木造のドアも足蹴りをすれば簡単に穴が開きそうな程の
それこそ年季の入った家だと分かる程だが丁寧に使われて居るためかボロくても
作りはしっかりとしていた。
壊してしまわないように丁寧にドアノブを回すと、目に飛び込んできたのは
タイムスリップしたような気がするくらい昭和じみた田舎の内装に二度見をしてしまうほどだった。
入って一歩ですぐにキッチンだがもはやキッチンというよりは、台所といった方が しっくりとくる物があり
もちろんシステムキッチンなんてあるわけなくて、あるのはシンプルなコンロ1つにニ段式の冷蔵庫・・・。
お湯を使うのも旧式のガス給湯器で、ボタンを押すと点火が始まり少し経ってから
お湯が出るとタイプの物で、どれもこれも使い込まれていて、年季が入っているのを感じる。
ちゃんと動く?という不安しか沸いて来ないこの空間に踏み込み
台所がある場所と区切るようにある抜け擦りガラスの扉をガラガラと横にズラし開け放つと
室内には一人用の机に箪笥と細々したものが幾つかと
ぶらんと垂れ下がった裸電球があり実際に目にしたのは初めてなのに
教科書でみた昭和の住宅をまんま再現してるようでどこか懐かしくも感じた。
裸電球の部屋の左手側に襖があったので、こっちにも部屋があるのかと思い開けると
ドサササッ!!!
勢いよく布団が雪崩落ちて来て、その下敷きになり埋もれてしまった。
咄嗟の事になぜ布団が雪崩てくるのかが理解できず埋もれたまま息苦しくしてると
雪崩た布団の音に気付いたのか階段を急いで登ってくる足音が聞こえ
目の前に止まると次々に圧迫していた布団がどけられていくのが分かり
重さから解放されていくと息苦しかった呼吸も出来始め目線を上げると
そこには霧島が立っていた。
「大丈夫か?」
布団の雪崩の現場から救出してくれた霧島は布団を横に置きながら片付けつつの姿を見ながら
立ち上がり襖の方をみると、そこがただの押し入れだと気づいた。
部屋だと思って開けた場所は押入れで、そこには大量の布団がぎゅうぎゅうに
詰め込まれていたわけだ。
容量オーバーで詰め込まれていた布団が入った押し入れを開けたことにより雪崩を起こし
それの下敷きになったのが原因と考えられる。
自分の行動が原因だとはいえ、
霧島がまた押し入れに力任せに布団を押し込んでいる姿に、呆れ顔で見ていると
霧島は「お恥ずかしい所を見せてしまった。」と少し恥ずかしそうに呟いたが
悪びれた様子もなく、またこの襖を開けるときには雪崩のように布団が出てくるのだと思うと
襖を開けるのを躊躇してしまう自分がいた。
そもそも雪崩が起きるほどの布団が必要なのだろうか?という疑問も浮かんだが
助け出してもらったお礼を言い逃しそうだったので軽くお礼を言うと
頭をポリポリと掻きながら少し照れ臭そうにしていた霧島を横目に
部屋の周りを見渡すと部屋と言える場所はこの場所1個だけと把握した。
目測で7畳ぐらいはあるとはいえ、大人の男が二人で使うには狭くも感じ
仕切りもないこの部屋で共同生活というのに、この先思いやられると眉間に皺が寄った。
幸いにして中流程度の家に生まれで都会育ちというのもあって
今まで狭い部屋に住んだことは無く、人生初の狭い家に住むことになるのが此処。
共同生活は全くしたことが無いわけではなく警察学校に入校した際は共同生活をしていたわけだが
少々潔癖がある自分としては実際、あまりいい思い出が無く
食事や風呂が一緒なのはもちろんのこと、部屋も2人で一部屋で
自分のプライバシーすら守られないあの空間を思い出すとどっと疲れを覚えた。
警察学校も無事に卒業し、晴れて一人広い空間で暮らせると思った矢先に
まさかの駐在所で共同生活に言葉を失うばかりだ。
なんてありえない状況なんだと我が身の運の悪さを呪いたくもなる程のド田舎だ・・・。
周り見渡してもコンビニも無ければ自販機も無ければほぼ無人なんじゃないかというぐらい
静かで山ばかりに囲まれてタイムスリップした感覚に陥る。
途方に暮れてると霧島が襖をしっかりと締め切ると
「荷物はどうした?」
と問いかけながらキャリーバック一つを持っているだけの身軽さに
不思議そうに首を傾げていた。
布団の雪崩によって乱れた前髪を掻き上げながら苦笑いを浮かべつつ
立っていても仕方ないので、ゆっくりと畳の上に正座し
「全て揃っていて持っていかなくてもいいと言われてたので何もありませんよ。
なので全て処分してきました。 被服は買いそろえればいいと思ったので・・・。
ですが何もありませんね・・・ほんと田舎過ぎて言葉さえ失う程です」
と少し皮肉交じりにいうと霧島には皮肉が通じなかったのか
向かい合うように腰を下ろして胡坐をかくと、はははと笑い飛ばした。
「そりゃ、大変だな!参ったな~ハハハハ!」
あっけらかんとした態度の霧島に対して怒りさえ込み上げて
勢いよく立ち上がり声を荒げて言葉に出そうとするが
自分のバカさ加減に気づくと「すみません」と小さく呟いては座り直した。
霧島は何事もなかったかのように動じず
こちらをを見つめる目の奥は笑う事なく、まるで射貫くような視線を向け黙ったままだった。
窓の外からはカラスの鳴き声がカーカーと空しく聴こえた・・・。
どれほど時間、無言でいたかは分からないけど
霧島が先に動いて、この無言の空気を破った。
黙ったままなのは変わらず、ゆっくりと立ち上がると台所へと姿を消した。
本来なら下の階級の自分が気を遣わなければならないのだけど、先を越されてしまったのだと
「何をやっているんだろう」と、本日何度目になるかわからない反省をしていると
名を呼ばれたので背筋をピンと伸ばして返事をする構えていると
開けたままになっている擦りガラスの扉の向こう、霧島は台所に立って
視線だけをこちらへと向けた状態のまま
「蕎麦か、うどん、どっちがいい?」
とカップ麺を両手に持ち聞いてきた。
この人は何を言い出して何を見せつけてるのか理解するまで時間がかかり
疑問にしていると霧島の方から「じゃ、俺は蕎麦にするわ」といい
やかんのお湯を注ぎ始め、うどんの方にも熱湯を注ぐと
自分のいる部屋へと運び入れちゃぶ台に置くと
霧島はアナログの腕時計を見つつ
「引っ越し蕎麦で良い蕎麦を食べさせてやりたかったんだが、
いかんせん買い物に行く暇が無くてな・・・すまんすまん!」
と少しお道化ながら話し時間が来るのを黙って置かれたカップ蕎麦とうどんを
見つめていた。
この出来事が後日のきっかけになるとは夢にも思わず時は過ぎて行った・・・。
To be continued・・・




