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不定期とは言ったものの毎週土日のどっちかにはあげようかなと思ったり思わなかったり
川嶋さんは文句のつけようのない美少女である。入学直後から、男子の話題を自身でもちきりにしたような、そんな子である。当の僕といえば梨穂に一直線だったので分からなかったが、改めて彼女を見ると、なるほど話題になるだろうなと納得できるほど美しい。
僕は今、その川嶋さんと二人で話をしている。歩くたびに、彼女の明るめの茶髪が揺れる。
「そっか……好きな子に振られたの……それも幼馴染みの子に……」
「お恥ずかしながら」
もしよければ僕の相談を聞いてくれませんかと言ったら、彼女が承諾してくれたので、学校に行くまでの道のりを共に歩いている。
「それで、聞きたいのは女の子として、そういう時にどういう行動をされたら嫌か、っていう事なんだけど」
「……あくまで私の意見にはなるけど、しつこく粘着してくるとかは嫌かも」
数多の男に告白されてきた経験があるであろう川嶋さんは、苦笑しながらそう言った。思うところが沢山あるのだろう。
とはいえ、やはり僕の判断は間違っていなかったらしい。川嶋さんは個人の意見と言っているが、それでも男子の自分の想像の域を超えないものより、女子の実体験の方が証拠元として機能するだろう。
「ふふっ、君も胆力あるね。初めて会った女の子に恋愛の相談するって」
「あ、それはごめん……」
今になって僕は少し恥ずかしくなった。初対面の、それも学年一の美女をとっ捕まえて恋愛相談をしているのだから。
「でも、少し嬉しかったかも」
「え?」
「今まで私に話しかけてくる男の子って、全員下心が透けて見えてたんだよね。君には、それがないなって」
川嶋さんはそう言って笑った。この笑顔を持っているような女子を前にすれば、そりゃあ下心も抱くよなと思った。そういえば、彼女はモテるが彼氏ができたとかそんな話は聞いたことがない。高望みをするような傲慢な子には見えないから、きっと近づいてくる男子が悉くそう見えてしまったんだろうな。
「私、川嶋榎。君は?」
川嶋さんは俺を一瞥しつつ名乗った。僕が一方的に彼女のことを知っていただけで、互いに自己紹介をしていなかったことを思い出した。
「三崎宏人です」
「宏人……いい名前ね」
名前を呼ばれた瞬間、僕は胸が高鳴った。僕のことを名前で呼ぶ女子などいないからだ。梨穂はヒロと呼んでくるのでノーカンで。
×
教室に着くと、男子に囲まれた。理由は言うまでもない。
「おい、宏人!お前朝、川嶋さんと登校してたよなあ!」
「どういうことだよ!」
川嶋さんと談笑しながら登校したので、想像はしていたが、これほどとは。今話しかけてきた星野くんと神田くんをはじめ、騒がしい男子は軒並み僕の周りに集まっているし、物静かな人たちもちらちらとこちらを伺っている。生憎僕と川嶋さんはそんな間柄ではない。ただの相談者と相談員だ。
「どうもこうもないよ、少し相談に乗ってもらっただけで」
「おいもうフラグ立ってんじゃねえか!相談から発展するやつだろそれえ!」
「終わった……俺の青春が……終わった」
本当に青春が終わった人間の前で、彼らは随分と楽しそうに怒ったり悲しんだりしている。フラグなんて立っていない。ただ相談に乗ってもらっただけ……あれ、確かにフラグっぽいな。
「てめえ、中谷さんだけじゃ飽き足りず……川嶋さんにまで手を出そうってのか!?」
「……!ごめん、急に腹痛がー!」
「え、あ、おい!」
その名前が出た瞬間に、傷を抉られたような心持ちがしたので、嘘をついて離席した。その一瞬にふと梨穂の方を見ると、瞬間的とはいえ、目がばっちりあってしまった。恐らく聞こえてしまっていたのだろう。互いにすぐに目を逸らした。ああ、もう完全に嫌われてしまったんだろうな。
きっと僕は、あの笑顔を再度見ることも叶わないのだろう。