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ゆる〜く息抜き程度に、不定期で書いていきます。
どうぞよろしくお願いします。
幼馴染みに告白して振られた。言葉にして仕舞えばこの状況なんていうのは、ものの十数文字で事足りる。
それで事足りないのは僕の心情である。「ごめん」の「ご」が聞こえた時点で、積み上がった積み木が崩壊するような音が脳内に幾度となく反響し、残骸は現実を受け入れられずにありもしない幻想を夢見始める。
僕とその幼馴染み、中谷梨穂は幼稚園からの付き合いだ。家が隣同士だったこともあり、家族ぐるみの付き合いをしてきた。小学校の頃は、恋愛感情なんて抱くはずもなかった。
明確にそれを意識し出したのは中学に上がってからだ。第二次性徴を終えた僕らは変わった。変わってしまったのだ。それはひとえに身体的特徴のみならず、性格等の中身さえも。
みんなと仲良くし、いつでも明るかった筈の僕はいつからか物静かな、大人しい人間になった。何が原因かと問われても、特に理由はない。なるべくしてなった、というのが最適解だろう。
そんな僕とは対照的に、梨穂は常に明るいクラスのアイドルのような存在だった。クラスカーストの一位に君臨するような、そんな女子であり続けた。
それ故に少し疎遠になった。無論話さなくなったわけではないが、言葉をかけ合う頻度が減ったのだ。
皮肉なことに、僕は中谷梨穂という人間を遠くから見て初めて、彼女に恋をした。サイドテールにしている黒髪も、少し高めの細い声も、人を思いやることができる優しいところも、天使のような微笑みも、愛おしくて堪らなくなった。
どうせ恋をするなら、距離は近いままの方がよかったのに、なんて思ったが、遠くから見なければ恋に落ちていないので、ジレンマに陥って悩んだのをよく覚えている。
同じ高校に進学して、僕は決心をした。梨穂に告白をしようと思ったのだ。気心は知れていて、少なくとも好感度は低くないはずだから、成功する確率は少なからずあると思った。
だから、
「……ごめん。今更ヒロのことを……そういう風に見ることはできない」
「そっ、か……」
「ほんと、ごめん……」
僕、三崎宏人が振られた時に感じたショックは、計り知れないものになった。
×
数日後。振られて絶望したとて、日々は変わらず続いていく。日は東に昇っているし、今日も今日とて授業はある。入学して数ヶ月で告白して振られたせいで、残りの高校生活をどう生きようか、脳内に置いた白紙にあれやこれやと記してみる。
あれから少し話しかけてみようかと思ったが、避けられているような気がしたため、自身の性格よろしく大人しく身を引いている。梨穂の気持ちになってみれば当然だ。ただの幼馴染みだと思っていた相手が、自分のことを邪な感情込みで見ていたと知ったら、大抵の女子はそういう反応を示すだろう。
しかし、不幸中の幸いなのは僕が告白したことは誰にもバレていないと思われることだった。本来なら恋バナの話のダシに使ってもいいのに、梨穂はしていない。そういう優しいところに惚れたのだから、僕は本当にジレンマに悩まされるのが好きらしい。
とはいえ、いつまでもこの傷を引きずるわけにもいかないので、とっとと線維芽組織に頑張ってもらって、なんとか瘡蓋状態にまではしてもらわなければ。
通学路であれこれ考え込んでしまっていたせいで、不注意になっていたらしい。
「あの、落ちましたよ」
「ああ、すいません……って」
声がしたので振り返ると、俺のバッグから外れたと思われるキーホルダーを手中に収めた拾い主がいた。その拾い主こそ、
「川嶋さん……!?」
「……?はい?」
男子全員の憧れの的である、学年一の美少女、川嶋榎さんだった。