72.決意
エドワードは、最近にしては珍しくユージェニーを訪れた。ステファニーとの間の息子トビアスをユージェニーの養子にして王位継承権を与えたいからだった。本当なら養子には王位継承権はないのだが、エドワードは王室典範を改正するつもりでいた。
「冗談じゃない!私は言いましたよね?きちんと資格のある側妃に子供を産ませるようにと。人妻と子供を作ってどうするのですか?そもそも本当に貴方の子供ですか?」
「ステファニーを侮辱するな!」
「侮辱も何も、彼女はアンヌス伯爵夫人ですから、彼女が子供を産めば自動的にアンヌス伯爵の子供ということになります」
「もうよい!認知して王位継承権を与える!」
「認知するってどうやって?彼女は人妻ですよ。それより側妃を娶って後継ぎを作って下さい!」
「側妃はいらない!私にはもう息子がいる!」
交渉は決裂し、エドワードは憤怒の様子でユージェニーの部屋を出て行った。
「なんと愚かな・・・この状況下でそんな法改正を押し通せばどうなるかわかっていように。いったいどこから歯車が狂ったのかしらね・・・昔は優秀な王太子だったのに・・・」
「姫様、失礼ながら初めから歯車は狂っていたのです。あの男は婚約者だったアンヌス伯爵夫人を失ってから、少しずつ狂っていったのです」
エドワードがユージェニーと口論している間も、ミッシェルとジャンはいつもの通り、彼女の部屋に控えていた。ミッシェルは、ジャンと同様、エドワードをもう『陛下』とは呼ばずに『あの男』と呼んでいる。
「・・・許せないっ!政略結婚でも姫様を大切にすると思っていたのに!――だから姫様を託したのに・・・」
悲痛な面持ちで言ったジャンの最後の言葉は他の2人には聞こえなかった。
「「姫様、ご決断を」」
ミッシェルとジャンは真剣な表情でユージェニーを見つめた。
「お兄様に手紙を出しましょう。でも通常ルートではなく、鳩を使いましょう」
ユージェニーは兄と通常の手紙でもやりとりしていたが、秘密のやりとりは伝書鳩を使っていた。
「出て行く時はこれと指輪を残していくわ」
ユージェニーは机の引出しの鍵を開け、自分の署名の入っている離婚申請書を取り出した。ルクス王国に限らず、この大陸では教会が離婚に厳しい条件を課している。でも両国が戦争状態になって王妃が母国に亡命するのなら、教会も離婚を認めるしかないだろう。
「ですが、それを置いていけばソヌス王国からの宣戦布告のようなものです。姫様がソヌスに到着するまでそれがあの男の目に触れないほうがよいのではないでしょうか?」
「大丈夫。私は離宮に行くということにしておいて影を2人、王宮に残しておくわ。私達が国境を越えたら、彼らに離婚申請書をエドワードの執務室に置いてもらって脱出させることにします」
ユージェニーは、ミッシェルとジャン以外にも子飼いの影を王宮の使用人としてソヌス王国から密かに連れて来ていた。
「今使える状態の離宮は南の辺境地方にしかありません。こんな治安情勢なのにそんな遠い場所で静養することをあの男が許すでしょうか?」
「それも大丈夫。彼は私に興味ないから。もうあのとち狂った頭にはアンヌス伯爵夫人のことしかないわよ」
「なんてこと・・・お労しい・・・」
「でも姫様、今やルクス王国にとっては姫様が最後の砦なのに、あの男はともかく、切れ者の宰相が姫様を易々と手放すとは思えません」
「ジャン、大丈夫よ。宰相とエドワードは今や犬猿の仲。話すのは必要最低限、会議以外では会話がないわ。エドワードに許しを得てすぐに出発すれば宰相が気付く前に脱出できるはずよ」
「道中の警護はどうなされますか?計画がばれずに子飼いの者だけで護衛をそろえるのは無理かと思いますが」
「それについても案があるから大丈夫よ」
ユージェニーは、ルクス王国の護衛をまく方法をミッシェルとジャンに説明し始めた。
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